能力者は正体を隠す

ユーリ

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高校生編 7月

お呼び出し

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「桐谷 蒼来って女いる?」

萌黄くんからの忠告を受けた翌日、彼女はやってきた。

「私です。」
「ふうん。あなたが。」

立ち上がって彼女のもとへ行くと、品定めでもするようにジロジロと身体中を眺められた。
正直、とても居心地が悪い。

「ちょっとついてきて。」

これはあれだろうか。
世に言う有名な、お呼び出しイベント。
めんどくさい。
相手が相手だけに、余計めんどくさい。
心の中でめんどくさいを連呼しながら連れてこられたのは図書室。
体育館裏とかじゃないんだ。
まあ確かに、図書室に寄り付く人はとても少ないから、目撃者をつくりたくないのなら、賢明な判断だ。
言われることは大体予想がついている。

「あなた、光陰部のみんなに近づきすぎなのよ!」

でもさ・・・それ、あなたが言う?
私が言うのもなんだけど、私よりあなたの方が光陰部に近いとおもうよ?
とはとてもとても口に出せず。

「なんて言えば、いいですか?」

返答に困ったので、とりあえず相手に聞いてみる。
だって、はい、とか分かりました、とか言っても、もし今後関わってしまったら面倒なことになる。
かといって、あっちが絡んでくるんです、とか言っても、相手を逆上させるだけ。
なんて言うのが正解なのっ!?
だから聞いてみたのに。

「ふざけないでっ!」

パチン!と乾いた音がして、頬に熱さを感じた。
えっと、叩かれた?
ボーっとしてたからよけられなかったみたいだ。

「なんて言えばいいですか、ですって?バカにしないで!金輪際近づくなっていってるの!あなたはそれに従えばいいのよ!」

そんな無茶苦茶な。

「何様のつもり?何か言えばそれが必ず叶うとでも思ってるの?」

もしそうだとしたら、やばいよこの子。

「あたりまえじゃない!だって美桜はお姫様なのよ!?」

うわー、やばかった。
正真正銘のイタイ人だ。

「光陰部のみんなが美桜を好きになればいいの!それで美桜は王子様と結ばれるのよ!」
「王子様?」

言ってること矛盾してない?
結局1人の人と結ばれるのに、なんで光陰部全員から好かれたいの?
理解不能。

「カイ様のことよ!美桜はカイ様と結ばれて、他のみんなからも愛されるの!だからあなたは近づかないで!」

まさかのお兄ちゃんだった・・・
でも。

「それ、楽しい?」
「え?」

だーかーら!

「そんなことして楽しいの?不毛じゃない、そんなこと。それに、あなたは彼らをなんだと思ってるの?お人形か何かなわけ?」

「お人形?バカなこと言わないで。彼らは美桜の価値を上げるためのアクセサリーで、カイ様は王子様よ!」

・・・この子、正気?
本気でそんなこと思ってるの?
思わず目を剥いた。
だとしたら・・・許せない。

「本気でそんなこと言ってるの?・・・陽月 美桜さん。」

陽月 美桜。
光陰部の紅一点。
彼女もまた、女子生徒から妬まれる対象だ。
その実情は、妖怪から狙われやすい体質のため、保護下におかれているだけ。
確かに美少女ではあるけど、傲慢で我儘なその振る舞いに彼女を嫌う人は多い。

そんな彼女を、私は鋭く睨みつけた。

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