能力者は正体を隠す

ユーリ

文字の大きさ
上 下
91 / 105
高校生編 7月

忠告

しおりを挟む
「ソーラーちゃーん!」
「うぐっ!」

突然体を襲った鈍い衝撃に思わず声を漏らす。
なんだなんだ。
とりあえず私に向かって突っ込んできたものの正体を確認しようと私は視線を下に向ける。
そこには、橙色の物体がいた。

「・・・萌黄、くん。」

その名を口に出せば、大きな黄緑色の瞳でキッとこちらを見据えるようにして睨まれた。
うん、可愛い。
嘘くさいけど、可愛い。

「だーかーらー!萌黄くん、じゃなくて、春馬!は、る、ま!」

この子は、毎回私に下の名前で呼ばせようとする。

「はいはい、萌黄くん、ね。」

まあ、毎回私もスルーするのだけど。
これは、1つの線引きだ。
光陰部に絡まれることが多くなった今、間違っても絆されないように、馴染みすぎないように。
そのための、大事なライン。

「~!いつか絶対呼ばせてやるんだもんね!」

プクウッと頬を膨らませて睨まれた。
悪いけど、そのいつかは永遠に訪れないよ、萌黄くん。
そう思ったけど言葉にはせず、ただ困ったように微笑んだ。

「ねえ、ソラちゃん。」

ふと、真剣味を帯びた彼の声。
今までこんなこと、なかったのに。

「・・・何?」

少し警戒を強める。
一体何だというのだろう。
黄緑色の宝石が、意味ありげに瞬く。

「3年の、光陰部の先輩たちには近づかない方がいいよ。」
「え。」

3年の光陰部って。
カイお兄ちゃんに、富金原先輩、それから・・・翠野先輩。

『もう、2人には近づくな。』

温度のない、翡翠の瞳を思い出す。
青の髪、翡翠の瞳。
背筋が凍るほどの冷たい視線や声色こそ、普段の彼とは違うものの、その色合いは・・・翠野 天斗、彼のものだ。
あの時、彼が言った言葉と、タイミングよくあの場に現れたことを合わせて考えれば、導きだされる答えはただ一つ。

翠野先輩が、私を閉じ込めようと企てた主犯だということ。
おそらく、実行した女子生徒はいいように使われただけ。

「ここだけの話なんだけど、天斗先輩って、ヤバイよ?」

瞳を妖しく光らせる萌黄くんは、普段とはまるで違っていて。
やっぱり猫被りだったか、と思うと同時に、ヤバイ、とはどのようにヤバイんだろう、と疑問に思った。
翠野先輩といえば、明るくて、お調子者。
そんなイメージだ。
でも、あの時見た彼は、そんなイメージからはかけ離れていて。

「あの人・・・カイ先輩と、龍先輩に、依存してる。」

龍先輩って、富金原先輩のことか。

「依存・・・」

依存って、あれだよね。
この人がいなきゃ、ダメ!みたいなの。
それを、翠野先輩が、お兄ちゃんたちに?

「天斗先輩、あの2人に害があると判断したら、容赦なく排除しちゃうから。」

だから、気をつけてね?と告げた萌黄くんは、次の瞬間、いつものふわふわした笑顔になった。
無表情と笑顔のオンオフがあまりにも急すぎて、若干恐怖さえ感じた。
あー、でも、納得。
つまり、翠野先輩は、2人に近づいた私が、2人に害をなすものとみなして、排除しようとしたんだろう。
だから、近づくな、って言ったんだ。

「今の話、秘密だよ?」

ゆるゆるとした笑みさえ浮かべ、私の口元に人差し指を持っていった萌黄くん。
その目は笑っていない、けど。

「忠告、どうもありがとう。」

すっと口元におかれた彼の指をなぞり、ニコリと笑った。
そんな威圧に負ける私なはず、ないじゃないか。
でも、今の話は助かった。
原因さえ分かれば、あとは簡単。
3年組を避ければいいってことね。

・・・できるかどうか、分かんないけど。
特に、富金原先輩。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...