能力者は正体を隠す

高校生編 ７月

心配

紅い光が瞼の外から差し込んできた。
ゆっくりと、瞳を開く。

「っ、ソラ、大丈夫か！？」

完全に脳が覚醒しきっていない状態の私の耳に飛び込んできたのは、しばらく聞いていなかった声。

「紫月、先輩・・・？」

深い蒼に染まってしなったその瞳を揺らし、焦ったようにい私を見下ろしているのは、紫月先輩だった。

「私、どうして・・・」

ぽつりとつぶやくと、紫月先輩が眉を寄せる。
その表情を見ながら、私は少しずつ、意識がなくなる前の記憶を取り戻していった。
確か、倉庫に閉じ込められてしまって・・・

「熱中症、だと。」

気分は悪くないか、めまいはしないか、と一つ一つ不安を取り除いていくように体調の確認をしていく先輩。
その都度私ははい、と肯定して彼を安心させる。

「本当に大丈夫なのか？」
「はい。」
「だれかに閉じ込められたのか？」
「はい・・・あ。」

あ、しまった、と思ったときにはすでに遅く。
機械的に首を縦に振り続けていた私は、勢いのまま肯定を発してしまった。

「やっぱり。」

私の反応を見て、その綺麗な顔を歪めた先輩。
蒼い瞳には心なしか怒りが見え隠れしている気がする。

「名前は分かるか？」
「・・・いえ。」

詰問な口調の先輩。
私のことを心配してくれているのは分かっているんだけど・・・

「・・・ソラ。」

先輩の眉間の皺が深くなる。
ごめんなさい、名前もクラスもわかるけど、今は言うべきではないと思うんです。
だって彼女たちはきっと・・・

『カイとリュウに近づくから、こんなことになるんだよ。・・・もう二人には近づくな。』

思わず息を止めてしまうくらいの冷たい声。
遠のく意識の中で、私に敵意を向けていることだけははっきりと分かった。
私が意識を手放す瞬間、限界を迎えるその瞬間を見計らったように人気の少ないあの倉庫まで足を運ぶことができる存在。
あの倉庫の鍵を持っていたことと、向けられた敵意のことを考えれば。

彼が今回の事件の首謀者であることは明白。

だとすれば、実行者である彼女たちは良いように使われていただけ。
もちろんだからといって許すわけではないけれど、紫月先輩の瞳に宿る怒りは本物だ。
それを彼女たちに向けるのは気がひけるし、何より紫月先輩が彼女らごときに時間と労力を費やすこと自体、無駄に思えてならない。
彼女たちに関しては、私の中に留めておこう。
わざわざ先輩に言うほどのことでもない。

「・・・分かった。」

かたくななな私の態度に何かを感じたのか、参ったとでも言うように溜息を一つ落とした先輩。
でも、と今度は怒りの代わりに、心配と、いたわりの色を多く含んだ視線を私に、そして。

「次からは危ないことをしないように。呼び出されても、ほいほい行っちゃだめだ。せめて俺に連絡してからいってくれ。・・・何かあってからじゃ、遅いんだ。」

真剣なその言葉に、先輩が今回私のためにしてくれた心配がいかに多かったのかを私は目の当たりにしてしまい、首を縦に振るしかできなかった。