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高校生編 6月
杞憂
しおりを挟む結局、私の心配は杞憂に終わった。
光陰部の誰からも追及されるようなことはなかったし、私に隠して影から観察しているにしても、紫月先輩やカイお兄ちゃんから何の話も聞いていない。
つまり、銀先輩は私のことを誰にも報告していないのだ。
一体、どうしてだろう・・・
不思議ではあるけど、結果オーライということで良しとしておこう。
そう安心しきっていたのが、数十分前の私。
なのになんで今、私の目の前にこの人がいるんでしょうか。
「―――やっと見つけました。」
日本人離れした美貌に蕩けるような笑みを浮かべて私を見つめているのは、銀先輩。
もうすぐ高校生になって初めてのテストだから真面目に勉強しようと思って図書室に来ていたら、遭遇してしまった。
問題に集中していたら、いきなり手を取られて誰かにキスされたと思ったら、そこには片膝をつく銀先輩がいたのだ。
心臓に悪かった。
かと思いきや発した第一声はまさかの、
「僕の女神、やっと見つけました。」
女神って、誰のこと!?
と思ったけど、先輩の瞳に映っているのは紛れもない私で・・・
そういえば、昨日も私が逃げる直前に女神という単語を発していたけど。
「えっと、すみません、何のことですか。」
私と先輩は初対面、初対面。
私は何も知らないと呪文のように心の中で唱えながら笑顔を貼り付ける。
「昨日、森の中で美しい力を操っていた女神はあなたでしょう。探していました。」
何の迷いもなく断定してくる銀先輩に、気が遠くなる。
もうダメ、これ、バレちゃってるよ。
「でもまさか、生身の人間だったとは。」
少し驚いたように私を見る先輩に、こちらも戸惑いを隠せない。
もしかして先輩、私を人間じゃないと思ってたの?
だからさっき、女神って呼んだのかな。
あまりにも突飛すぎる発想。
見知らぬ人が力を使っていただけで女神扱い。
大丈夫かな、この先輩。
「でも、人間で良かったです。人間ならば、いつでも会いに行ける。そうでしょう?」
そう言って再度手の甲に口づけを落とす先輩にゾワッと鳥肌が立った。
「あ、あのっ、私、違っ!」
もう何が何だか分からないまま、とりあえず否定する。
もはや何を否定しているのかさえも分からない。
完全に混乱しちゃってる。
どうしよ、先輩と話してると調子が乱れる。
周りからの視線は痛いし・・・
明日からまた光陰部に近づくなって言われちゃう。
「せ、先輩、どこか違う所に・・・」
どっちにしろ、銀先輩とはよく話さなきゃいけない。
顔も覚えられてしまったし、能力者だということもバレてしまった。
あーもう、こんなに頻繁に誰かにバレて、本当に一年間本家にバレずにやっていけるのかな。
「そうですね、ここだと少々周りの迷惑になってしまいます。二人になれる所に行きましょう。」
銀先輩も私に同意してくれて、立ち上がった。
先輩に膝をつかせ続けるのは心苦しかったから、ホッとしたのも束の間、先輩はそのまま流れるように私をエスコートし始めた。
・・・これがフランスの血、なのかな?
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