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高校生編 5月
先生
しおりを挟むガラガラガラ。
心の悲鳴が届いたかのように、数学研究室のドアが開いた。
入ってきたのは、青竹 翔先生。
カイお兄ちゃんの担任で、優しい先生。
きっと、助けてくれる。
助けを求めるように青竹先生を見上げる。
先生は私達を見て、何かを察したようだった。
「川口先生、何をしておられるのですか?」
厳しい、問いただすような声。
「あ、いや、数学の補習を、と思って・・・」
しどろもどろになる川口先生。
「彼女は入学試験において補習の必要もないほどの学力を示したはずです。それとも、この一ヶ月の間にこうして放課後残らせてこんなに大量のプリントをさせなければならないほどの落ち度が彼女にあったとでも言うのですか?」
敬語だけど、責めるような声に川口先生も圧倒されている。
「この件は学校に報告させていただきます。荷物をまとめておいたらどうでしょうか。桐谷、ちょっといいか?」
蒼白になってがっくりとうなだれる川口先生を見ながら、荷物をとって青竹先生と部屋から出た。
「あの、ありがとうございました。」
深々と頭を下げる。
本当に、助かった。
先生がいなきゃ私、どうすればいいのか分からなかった。
青竹先生は優しく微笑んで中庭のベンチを指さした。
「ちょっと話そうか。」
***
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
差し出された缶コーヒーを受け取った。
一口飲むとコーヒーの温かさが体にしみて、すごくおいしいし、なんだかホッとした。
「悪かったな、ずっと気付いてあげられなくて。」
頭を下げられたので、慌てて首を振る。
「いえっ!私は大丈夫なので、頭を上げて下さい。」
頭をあげた青竹先生は何だか憂鬱そうだった。
「川口先生は明日にでも退職するだろうから、安心してくれ。多分、僕が代わりに一年生を受け持つことになる。」
え、でも、青竹先生は三年生の担当のはずなんじゃ・・・
そう質問を投げかけると、青竹先生は笑った。
「僕は代理なんだ。ちょうど育休をとっていた先生が来週からまた学校に出てくることになって、僕の手が空くことになるんだ。だからきっと、僕が一年を受け持つんじゃないかな。」
これからよろしくな、と言って笑いかけてくれた。
先生の授業、楽しみだな。
「それはそうと、白川から聞いたんだけど、僕の弟が桐谷に迷惑かけたみたいで、悪かったな。」
「弟?」
先生の、弟さん?
「一年の、青竹皐月のこと。」
青竹君、青竹先生の弟だったんだ。
知らなかった・・・
青竹先生は、探るように私を見つめる。
あー、ひょっとして、妖怪の存在に気づいたかどうか怪しんでるのかも。
「公園を通りかかったら、青竹君が倒れていたのでびっくりしましたけど、怪我もなさそうでよかったです。」
偶然です、偶然。
そう主張すると、青竹先生はホッとしたようにため息をついた。
「ならよかった。もう帰って良いよ。気をつけて。」
「はい。さようなら、先生。」
結論、青竹先生、探り合いとか、嘘つくの下手そうだな。
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