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高校生編 5月
不良能力者との出逢い
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今日は藤沢先生がいなかった。
今日一日、仕事で他の学校に行っていたらしい。
先生の代わりに、三年二組の青竹 翔先生がたまにクラスの様子を見に来てくれた。
カイお兄ちゃんの担任の先生で、優しそうだった。
黒髪に緑色の瞳で、藤沢先生に負けないくらいかっこいいと女子生徒がはしゃいでいた。
私としては、藤沢先生がいないことがすごく嬉しかった。
何を考えているのか分からなくて、すごく不気味だから、落ち着かないんだ。
でも、平穏だった今日はあっという間に過ぎ、今はもう放課後。
明日からはまた藤沢先生と顔を合わせなければいけない。
ああ、嫌だなあ・・・
「・・・あ。」
かすかに、妖怪の気配を感じた。
かすかな気配を辿っていくと、風の力を感じた。
風の力を持つ光陰部が、一人で戦っているみたいだ。
危険すぎる。
そう思うが早いか、私は学校を飛び出していった。
場所は、学校の近くの小さな公園。
今はもう暗いから、一般人は多分、いないはずだ。
全速力で走る。
ああもう、間に合わない!
「我が名は朱雲 蒼来。魂の記憶を保持する者。我が名の下に我が力を行使する。風よ、我を彼の地まで運べ!」
本当はあまり使いたくないけど、人の命がかかってる。
文言を唱えてギュッと目をつぶる。
ブワッと風を感じ、目を開くとそこはもう公園の前だった。
「危ないっ!」
そこにいたのは、青竹 皐月。
そして、彼に襲いかかろうとする水の妖怪。
水に勝つのは、土の力!
「我が名は朱雲 蒼来。魂の記憶を保持する者。我が名の下に、我が力を行使する。土よ、彼の者を封じ込めよ!」
公園中の砂が舞い上がる。
水の妖怪を取り囲むように集まって、土のベールを作り出す。
そのまま水の妖怪を覆う。
「土よ、鋭き槍となりて彼の邪悪な者を貫け。」
最後のとどめを受けて、妖怪はついに力を失った。
土の中から水がポタポタとこぼれ落ち、妖怪の気配は完全に消えた。
土は何事もなかったかのように元に戻り、私は青竹くんの様子を確かめに駆け寄った。
彼は気絶していて、私が力を使ったところを見ていなかったようだ。
よかった・・・
「風よ、彼の者をベンチの上へ。水よ、彼の者を清めよ。」
風が青竹君をベンチに運び、水が体についた砂埃を清める。
水によって服も綺麗になったけど、脇腹から血が出ていたのを、さっき確認した。
「失礼します。」
そう断ってから服をめくる。
「うわ・・・」
結構ひどい怪我。
見ているだけでこっちまで痛くなる。
「水よ、土よ、彼の者の傷を癒せ。」
あと、力を使いすぎたのか通常よりも力が少なくなってる。
力も血と同じように、通常の量よりも少なくなれば能力者の健康に害をきたす。
ちょっと手助けしようと思って、私の力を少し流した。
うん、他にはなんの傷もないようだ。
しばらくすれば意識も戻るだろう。
その前にこの場を去らないと。
そう思って立ち上がり、踵を返した。
「・・・て。」
かすれた声と共に、私の手を何かがつかむ。
「え・・・」
振り返ると、青竹君がうっすらと目を開けていた。
「待て。」
漆黒の瞳が、私の姿を映し出す。
目つきが悪くて不良みたいだから、ちょっと怖い。
ここから逃げる方法を考えなきゃ。
「おい、桐谷。」
え、なんで私の名前を知っているんだろう。
呼ばれて視線を戻すと、青竹君が私を真剣なまなざしで見つめていた。
「お前、羽菜(はな)ってヤツ知ってるだろ。」
どこか確信じみた表情で彼は私に問う。
「え、知りません、けど。」
本当に、知らない。
なのに青竹君は信じられないようで突っかかってくる。
「知ってるはずだ!親戚にいるだろ、桐谷 羽菜ってヤツが!」
イライラしていることがはっきり分かる表情で私の体を揺さぶる。
怖い、でもホントに、知らない。
なのに青竹くんは信じてくれないし、どうすればいいのか分からない。
本気で困りかけてきたところに、救いの声がかかった。
「あれ、皐月に、桐谷さん?」
公園の入口に立っていたのは、隣のクラスの学級委員長、白川 奏矢くん。
「白川くん・・・」
青竹君を宥めてくれないかな・・・
「何やってるの、皐月?桐谷さん嫌がってるじゃん。また変な言いがかりつけてたんだろ。」
ツカツカと私達のところまでやってくる。
「違う!奏矢、オレはコイツに聞きたいことがっ!」
「はいはい。ごめんね桐谷さん。コイツ、良い奴なんだけど口が悪くって。悪く思わないでやってよ。」
穏やかな微笑みの中に青竹君への信頼が見え隠れする。
仲良いんだな、この二人。
今なら、逃げられるかも。
「あの、私そろそろ門限なので、帰りますね。」
門限を理由に逃げ出す許可を取る。
まあ、門限が近いのは本当。
カイお兄ちゃん、心配症だから、六時までには家に帰らないとなんだ。
「あっ!おい、待て!」
「門限があるんだね。じゃあまた明日ね。」
引き留めようとする青竹君を横目に、白川くんは笑顔で私に手を振る。
「また明日っ!」
引き留められないように走って帰る私の耳に、
「奏矢テメェふざけんなっ!」
という声が飛び込んできたが、聞こえなかったことにする。
・・・明日から、また騒がしくなりそうな予感。
今日一日、仕事で他の学校に行っていたらしい。
先生の代わりに、三年二組の青竹 翔先生がたまにクラスの様子を見に来てくれた。
カイお兄ちゃんの担任の先生で、優しそうだった。
黒髪に緑色の瞳で、藤沢先生に負けないくらいかっこいいと女子生徒がはしゃいでいた。
私としては、藤沢先生がいないことがすごく嬉しかった。
何を考えているのか分からなくて、すごく不気味だから、落ち着かないんだ。
でも、平穏だった今日はあっという間に過ぎ、今はもう放課後。
明日からはまた藤沢先生と顔を合わせなければいけない。
ああ、嫌だなあ・・・
「・・・あ。」
かすかに、妖怪の気配を感じた。
かすかな気配を辿っていくと、風の力を感じた。
風の力を持つ光陰部が、一人で戦っているみたいだ。
危険すぎる。
そう思うが早いか、私は学校を飛び出していった。
場所は、学校の近くの小さな公園。
今はもう暗いから、一般人は多分、いないはずだ。
全速力で走る。
ああもう、間に合わない!
「我が名は朱雲 蒼来。魂の記憶を保持する者。我が名の下に我が力を行使する。風よ、我を彼の地まで運べ!」
本当はあまり使いたくないけど、人の命がかかってる。
文言を唱えてギュッと目をつぶる。
ブワッと風を感じ、目を開くとそこはもう公園の前だった。
「危ないっ!」
そこにいたのは、青竹 皐月。
そして、彼に襲いかかろうとする水の妖怪。
水に勝つのは、土の力!
「我が名は朱雲 蒼来。魂の記憶を保持する者。我が名の下に、我が力を行使する。土よ、彼の者を封じ込めよ!」
公園中の砂が舞い上がる。
水の妖怪を取り囲むように集まって、土のベールを作り出す。
そのまま水の妖怪を覆う。
「土よ、鋭き槍となりて彼の邪悪な者を貫け。」
最後のとどめを受けて、妖怪はついに力を失った。
土の中から水がポタポタとこぼれ落ち、妖怪の気配は完全に消えた。
土は何事もなかったかのように元に戻り、私は青竹くんの様子を確かめに駆け寄った。
彼は気絶していて、私が力を使ったところを見ていなかったようだ。
よかった・・・
「風よ、彼の者をベンチの上へ。水よ、彼の者を清めよ。」
風が青竹君をベンチに運び、水が体についた砂埃を清める。
水によって服も綺麗になったけど、脇腹から血が出ていたのを、さっき確認した。
「失礼します。」
そう断ってから服をめくる。
「うわ・・・」
結構ひどい怪我。
見ているだけでこっちまで痛くなる。
「水よ、土よ、彼の者の傷を癒せ。」
あと、力を使いすぎたのか通常よりも力が少なくなってる。
力も血と同じように、通常の量よりも少なくなれば能力者の健康に害をきたす。
ちょっと手助けしようと思って、私の力を少し流した。
うん、他にはなんの傷もないようだ。
しばらくすれば意識も戻るだろう。
その前にこの場を去らないと。
そう思って立ち上がり、踵を返した。
「・・・て。」
かすれた声と共に、私の手を何かがつかむ。
「え・・・」
振り返ると、青竹君がうっすらと目を開けていた。
「待て。」
漆黒の瞳が、私の姿を映し出す。
目つきが悪くて不良みたいだから、ちょっと怖い。
ここから逃げる方法を考えなきゃ。
「おい、桐谷。」
え、なんで私の名前を知っているんだろう。
呼ばれて視線を戻すと、青竹君が私を真剣なまなざしで見つめていた。
「お前、羽菜(はな)ってヤツ知ってるだろ。」
どこか確信じみた表情で彼は私に問う。
「え、知りません、けど。」
本当に、知らない。
なのに青竹君は信じられないようで突っかかってくる。
「知ってるはずだ!親戚にいるだろ、桐谷 羽菜ってヤツが!」
イライラしていることがはっきり分かる表情で私の体を揺さぶる。
怖い、でもホントに、知らない。
なのに青竹くんは信じてくれないし、どうすればいいのか分からない。
本気で困りかけてきたところに、救いの声がかかった。
「あれ、皐月に、桐谷さん?」
公園の入口に立っていたのは、隣のクラスの学級委員長、白川 奏矢くん。
「白川くん・・・」
青竹君を宥めてくれないかな・・・
「何やってるの、皐月?桐谷さん嫌がってるじゃん。また変な言いがかりつけてたんだろ。」
ツカツカと私達のところまでやってくる。
「違う!奏矢、オレはコイツに聞きたいことがっ!」
「はいはい。ごめんね桐谷さん。コイツ、良い奴なんだけど口が悪くって。悪く思わないでやってよ。」
穏やかな微笑みの中に青竹君への信頼が見え隠れする。
仲良いんだな、この二人。
今なら、逃げられるかも。
「あの、私そろそろ門限なので、帰りますね。」
門限を理由に逃げ出す許可を取る。
まあ、門限が近いのは本当。
カイお兄ちゃん、心配症だから、六時までには家に帰らないとなんだ。
「あっ!おい、待て!」
「門限があるんだね。じゃあまた明日ね。」
引き留めようとする青竹君を横目に、白川くんは笑顔で私に手を振る。
「また明日っ!」
引き留められないように走って帰る私の耳に、
「奏矢テメェふざけんなっ!」
という声が飛び込んできたが、聞こえなかったことにする。
・・・明日から、また騒がしくなりそうな予感。
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