能力者は正体を隠す

ユーリ

文字の大きさ
上 下
46 / 105
高校生編 5月

不良能力者との出逢い

しおりを挟む
今日は藤沢先生がいなかった。
今日一日、仕事で他の学校に行っていたらしい。

先生の代わりに、三年二組の青竹 翔先生がたまにクラスの様子を見に来てくれた。
カイお兄ちゃんの担任の先生で、優しそうだった。
黒髪に緑色の瞳で、藤沢先生に負けないくらいかっこいいと女子生徒がはしゃいでいた。

私としては、藤沢先生がいないことがすごく嬉しかった。
何を考えているのか分からなくて、すごく不気味だから、落ち着かないんだ。

でも、平穏だった今日はあっという間に過ぎ、今はもう放課後。
明日からはまた藤沢先生と顔を合わせなければいけない。
ああ、嫌だなあ・・・

「・・・あ。」

かすかに、妖怪の気配を感じた。
かすかな気配を辿っていくと、風の力を感じた。
風の力を持つ光陰部が、一人で戦っているみたいだ。

危険すぎる。

そう思うが早いか、私は学校を飛び出していった。
場所は、学校の近くの小さな公園。
今はもう暗いから、一般人は多分、いないはずだ。

全速力で走る。
ああもう、間に合わない!

「我が名は朱雲 蒼来。魂の記憶を保持する者。我が名の下に我が力を行使する。風よ、我を彼の地まで運べ!」

本当はあまり使いたくないけど、人の命がかかってる。
文言を唱えてギュッと目をつぶる。
ブワッと風を感じ、目を開くとそこはもう公園の前だった。

「危ないっ!」

そこにいたのは、青竹 皐月。
そして、彼に襲いかかろうとする水の妖怪。
水に勝つのは、土の力!

「我が名は朱雲 蒼来。魂の記憶を保持する者。我が名の下に、我が力を行使する。土よ、彼の者を封じ込めよ!」

公園中の砂が舞い上がる。
水の妖怪を取り囲むように集まって、土のベールを作り出す。
そのまま水の妖怪を覆う。

「土よ、鋭き槍となりて彼の邪悪な者を貫け。」

最後のとどめを受けて、妖怪はついに力を失った。
土の中から水がポタポタとこぼれ落ち、妖怪の気配は完全に消えた。
土は何事もなかったかのように元に戻り、私は青竹くんの様子を確かめに駆け寄った。
彼は気絶していて、私が力を使ったところを見ていなかったようだ。
よかった・・・

「風よ、彼の者をベンチの上へ。水よ、彼の者を清めよ。」

風が青竹君をベンチに運び、水が体についた砂埃を清める。
水によって服も綺麗になったけど、脇腹から血が出ていたのを、さっき確認した。

「失礼します。」

そう断ってから服をめくる。

「うわ・・・」

結構ひどい怪我。
見ているだけでこっちまで痛くなる。

「水よ、土よ、彼の者の傷を癒せ。」

あと、力を使いすぎたのか通常よりも力が少なくなってる。
力も血と同じように、通常の量よりも少なくなれば能力者の健康に害をきたす。
ちょっと手助けしようと思って、私の力を少し流した。

うん、他にはなんの傷もないようだ。
しばらくすれば意識も戻るだろう。
その前にこの場を去らないと。
そう思って立ち上がり、踵を返した。

「・・・て。」

かすれた声と共に、私の手を何かがつかむ。

「え・・・」

振り返ると、青竹君がうっすらと目を開けていた。

「待て。」

漆黒の瞳が、私の姿を映し出す。
目つきが悪くて不良みたいだから、ちょっと怖い。
ここから逃げる方法を考えなきゃ。

「おい、桐谷。」

え、なんで私の名前を知っているんだろう。
呼ばれて視線を戻すと、青竹君が私を真剣なまなざしで見つめていた。

「お前、羽菜(はな)ってヤツ知ってるだろ。」

どこか確信じみた表情で彼は私に問う。

「え、知りません、けど。」

本当に、知らない。
なのに青竹君は信じられないようで突っかかってくる。

「知ってるはずだ!親戚にいるだろ、桐谷 羽菜ってヤツが!」

イライラしていることがはっきり分かる表情で私の体を揺さぶる。
怖い、でもホントに、知らない。
なのに青竹くんは信じてくれないし、どうすればいいのか分からない。
本気で困りかけてきたところに、救いの声がかかった。

「あれ、皐月に、桐谷さん?」

公園の入口に立っていたのは、隣のクラスの学級委員長、白川 奏矢くん。

「白川くん・・・」

青竹君を宥めてくれないかな・・・

「何やってるの、皐月?桐谷さん嫌がってるじゃん。また変な言いがかりつけてたんだろ。」

ツカツカと私達のところまでやってくる。

「違う!奏矢、オレはコイツに聞きたいことがっ!」
「はいはい。ごめんね桐谷さん。コイツ、良い奴なんだけど口が悪くって。悪く思わないでやってよ。」

穏やかな微笑みの中に青竹君への信頼が見え隠れする。
仲良いんだな、この二人。
今なら、逃げられるかも。

「あの、私そろそろ門限なので、帰りますね。」

門限を理由に逃げ出す許可を取る。
まあ、門限が近いのは本当。
カイお兄ちゃん、心配症だから、六時までには家に帰らないとなんだ。

「あっ!おい、待て!」
「門限があるんだね。じゃあまた明日ね。」

引き留めようとする青竹君を横目に、白川くんは笑顔で私に手を振る。

「また明日っ!」

引き留められないように走って帰る私の耳に、

「奏矢テメェふざけんなっ!」

という声が飛び込んできたが、聞こえなかったことにする。


・・・明日から、また騒がしくなりそうな予感。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生お姫様の困ったお家事情

meimei
恋愛
前世は地球の日本国、念願の大学に入れてとても充実した日を送っていたのに、目が覚めたら 異世界のお姫様に転生していたみたい…。 しかも……この世界、 近親婚当たり前。 え!成人は15歳なの!?私あと数日で成人じゃない?!姫に生まれたら兄弟に嫁ぐ事が慣習ってなに?! 主人公の姫 ララマリーアが兄弟達に囲い込まれているのに奮闘する話です。 男女比率がおかしい世界 男100人生まれたら女が1人生まれるくらいの 比率です。 作者の妄想による、想像の産物です。 登場する人物、物、食べ物、全ての物が フィクションであり、作者のご都合主義なので 宜しくお願い致します。 Hなシーンなどには*Rをつけます。 苦手な方は回避してくださいm(_ _)m エールありがとうございます!! 励みになります(*^^*)

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

処理中です...