能力者は正体を隠す

ユーリ

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幼児編

新しい家族

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私達は一時間の修行を終えた後、朝食を食べに行った。
修行内容は瞑想だった。
一時間自分の魂と対話し、力を感じていた。
思っていたより時間は早く過ぎ、気がつくと一時間経っていた。

「じゃあ、これから使用人達にソラのこと紹介するね。いきなり入って行くとびっくりするかもだから、僕が合図したら出てきて。」
「うん、分かった。」

カイお兄ちゃんが大丈夫だって言うからきっといい人達なんだろうけど、ちょっと不安。
これからお世話になる身なんだから、第一印象を良くしておかなきゃ。
ちょっと髪を整えて、服を見る。

私が今着ている服は、ちょっと不思議な服だ。
眠っていた時に着ていた服から着替えたんだけど、色もデザインも、全部同じ。
着物に似ているようでちょっと違う。
能力者が修行したり、力を使う時に着る服だと、カイお兄ちゃんは言っていた。
能力者の制服みたいなものなんだって。
女性用のはリーン、男性用のはジンというらしい。
なんでも最初にこの服を着た、私達能力者の遠い先祖の名前が由来しているらしい。
翠を基調としていて、襟の部分や帯の色が銀色になっている。
銀が髪の色、翠は瞳の色を表しているらしい。
自分の髪色が銀色ってことは分かる。
サラサラで、癖のない綺麗な銀髪。
瞳の色は自分では見えないけど、綺麗な翠色らしい。

能力者の家に、鏡はない。
窓と同じく、穢れを招く物なんだって。
自分の姿は確認できないけど、変な格好はしていないだろうとカイお兄ちゃんの合図を待つ。
こっそり中を覗くと、4人の使用人がいて、カイお兄ちゃんが何かを話している。
どの人も真面目そうで、優しそうだった。

「ソラ、入ってきて。」

カイお兄ちゃんの声が私を呼ぶ。
ゴクッと唾を飲み込んで、私は食堂の中に入っていった。
入った瞬間に8つの目がこちらを見る。
よし、笑顔で挨拶だ。
好印象を意識して、五歳の女の子らしい無邪気な笑みを浮かべる。

「初めまして。朱雲 蒼来です。これからお世話になります。よろしくお願いします。」

ペコッと頭を下げて、4人の反応を伺う。
しばらくして聞こえてきたのは、やけにテンションの高い声だった。

「っっかわいすぎます!!やったあ!私、女の子のお世話するの、憧れてたんですよ。」
「色んな服着せてあげたいんですけど!すっごいかわいい!お人形さんみたいです!」
「この美しさ、さすがカイ様の妹さんっす!マジリスペクトっす!!」
「ソラお嬢様、お好きなお料理は何ですか!?何でも作ります!うおぉぉ~、腕がなるぞぉ~!こうなると分かっていたら今日の朝食はもっと豪華にしたのにっ!」

うわあ、4人とも、キャラ濃そう・・・
でも、なんか楽しそう!

「えと、料理、まだ食べたことなくて、好きな料理が何か分かんないんです。ごめんなさい。」

まだ生まれ変わってから、何にも食べていない。
うー、なんかお腹空いてきた。
早くご飯食べたいな。
さっきまで緊張していて気にならなかった良い匂いが鼻をくすぐる。
クゥ~。
情けない音が響いて、私は真っ赤になった。
やっちゃったぁ~、恥ずかしすぎる・・・
頬が熱い。
羞恥心で穴があったら入りたいよ・・・

「お嬢様!さあさあ、早くお座り下さい!とりあえず食べましょう!!」

女の人が椅子をひいてくれたのでお礼を言って座った。

「何、この子。顔真っ赤にしてお礼とか、かわいすぎるっっ!!」

何か言ってた気がするけど、ご飯を前にした私の意識はもうただ1点にしかない!

「ソラ、いくらでも食べて良いよ。お腹すいたでしょ。」

カイお兄ちゃんの神のような一言を聞くなり、私はいただきます!と手を合わせた。
まずサラダに手を伸ばす。
っ、おいしい!!
サラダってこんなにおいしかったっけ。
サラダの後はパンとスープだ。
パンは色んな種類があって、どれもすっごくおいしい。
手作りみたいだ。
スープはポタージュでこれもおいしい!
全てがおいしくて、ほっぺたが落ちてしまいそうだ。
夢中になって食べるけど、所詮は五歳の胃袋。
すぐに満腹になり、もう食べられなくなってしまった。
うう、名残惜しい・・・

「ごちそうさまでした。」

今までにないくらい心を込めてごちそうさまを言ったあと、視線に気付く。
さっき私に好きな料理を聞いてきた男の人が瞳をウルウルさせている。

「うおぉぉ~、感激だぁ~!お嬢様が、あんなにおいしそうに俺の料理を食べてくれてっ!!嬉しすぎる~!!」

なんか、雄叫びをあげてる・・・

「ソラ、4人を紹介するね。まず、料理を担当しているダイ。いつも1人で料理を作っていて、何を作らせてもおいしいよ。趣味は料理の研究、かな。」

おお!私の恩人さんですか!
ダイさん。よし、覚えた!

「朝ご飯、ごちそうさまでした!すっごくすっごくおいしかったです!」
「うおぉぉ~、聞いたか!?お嬢様が俺の作った朝ご飯がおいしかったと、そうおっしゃったぞ!感激だぁ~!」

号泣し始めるダイさん。
うん、なんか、感情表現が大げさだなあ。

「で、こっちはリク。僕の世話係兼、庭師、かな。僕の世話係っていっても、してもらうことがなくて、結局一日中庭にいるけどね。」

へえ、庭師って、庭を管理する人だよね。
リクさん、リクさん、うん、覚えたっ!

「リクさんは、お庭でどんなことしてるんですか?」
「季節に合わせて色んな花を育ててるっす。お嬢様が好きな花があったら、ぜひ教えてほしいっす。きれいに咲かせてみせるっす。」

へえ、お庭、後で行ってみたいな。
好きな花は・・・うーん、特にはないなあ。
あ、でも。

「好きな花、は特にないんですけど、白い花が好きです。大丈夫でしょうか。」

白い花って、純粋な感じがして好きなんだ。

「もちろんっす。白い花が綺麗に見える庭を造るっす。腕がなるっす!」

やった、庭を見るのが楽しみだなあ。

「で、こちらがリンとサキ。2人は双子なんだよ。青いメイド服を着ているのがリン。緑のメイド服を着ているのがサキ。2人は家の掃除をしてもらってたんだけど、今日からそれに加えて、どちらか1人でいいからソラについていてほしいんだ。大丈夫かな。」

ちょっと心配そうに2人を見るカイお兄ちゃん。
そりゃそうだよね、仕事増やすんだもん。
なんだか申し訳ないな。

「大丈夫です!というか嬉しさのあまり今なら空を飛べる気がします!」
「こんなかわいいお嬢様のお世話ができるなんてっ!生まれてきてよかった!」

な、なんか、思ってた反応と違う・・・?

「え、と。リンさんに、サキさん?あの、これから、よろしくお願いします。」

とりあえず、興奮状態の2人に声を掛けてみる。

「聞いた?この鈴のなるような声!」
「ちょっと困ったような表情も可愛い!天使!」

結果、さらにハイテンションになっちゃいました。
・・・本物の五歳児ならともかく、私、精神年齢で言うともう成人してるんだけどな。
だから、可愛いなんていう言葉は私には似合わない。
なのに可愛いを連発されていると、居心地が悪くなってきた。
本気で困りモードに突入している私に気付いたカイお兄ちゃんが2人をなだめてくれる。

「2人共、ソラが困ってるよ。興奮するのはすごく分かるし、全くもって同感だけど、ソラの前では落ち着いて。ハイテンションになるのはせめて2人きりの時にしてくれないかな。」

カイお兄ちゃんの言葉は騒いでいる2人の耳にもしっかり聞こえていたようで、一瞬動きが止まった後、息の合った動きで私に向きなおる。
さすが双子。

「分かりました。ソラ様、これからよろしくお願いいたしますね。」
「心をこめてお世話致しますわ。あと、私達に敬語はいりませんわ。」

おお、まともなテンションだ。
よかったあ、あのハイテンションで毎日接されるのはちょっと疲れるかもだもんね。
このくらいがちょうどいい!

「ところでカイ様、今ソラ様がお召しになっている服はリーンですけど、朝夕の修行の時間以外はどんな服を着ていてもよいのでしょう?」

そう青い服を着ている方、リンが尋ねる。

「ああ、そのことなんだけど、まず、ソラのリーンの色を変えなきゃいけないみたいなんだ。ソラの瞳の色が、力を使う時だけ紫色になる。聞いたこともない話だけど、この目で見たから間違いない。それから、修行時以外で着る服は、僕が稼いだお金で買って。父から与えられているカードを使えば、女用の子供服を買ったことが父に伝わってしまう。ソラ用のカードを作っておくから、服でも物でも、必要なものはどんどん買って。あと、四階の空き部屋をソラの部屋にする。修行部屋、勉強部屋、寝室。できるだけ早く掃除して、家具を揃えておいて。」

僕が稼いだお金って・・・
カイお兄ちゃん、何者?
必要な物はどんどん買って良いよってことは、結構お金持ちだよね。
・・・え、カイお兄ちゃんって、7歳だよね!?
小学一年生だよね!?
いや、今三月って言ってたから、二年生になりかけか。
いやでも、小学校の低学年がお金を大量に稼ぐってどういうことさ。

「じゃ、僕は学校に行くから。ソラ、なるべく早く帰って来るからね。」

あ、そうだった。
カイお兄ちゃん、学校行くんだったね。

「いってらっしゃい、カイお兄ちゃん。」
「いってくるね、ソラ。」

ポンポン、と私の頭を撫でてカイお兄ちゃんはランドセルをからって出て行った。
・・・ランドセルを背負うカイお兄ちゃんは、年相応に見えました。

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