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生きてまた会おう

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ヒモネス中佐が騒動の現場に赴いていた頃、ナヤスとイショナはれていた。

「ずっと止まったまんまだな」

「帝国軍に追いつかれないかしら?」

「1日ぶんはオレたちが先行してるはずだけど、ザンス兵は進軍が速いからな」

「さっきから、なんだか嫌な予感がするの」

イショナの勘はあまり当たらない。

「ナヤス、あんた動物に乗り移る魔法を持ってたよね?」

「《憑依》の呪文かい?」

《憑依》も、ナヤスが自宅の倉庫に眠っていた古文書で習得したレアな呪文である。

「その魔法で帝国軍の現在地を探れない?」

「どうやって? 帝国軍が近づいてるにしても、何kmも離れてるだろ? それに動物が見当たらないよ」

「あそこの木に止まってる鳥はどうかしら?」

イショナが指さす方向には、高い木のてっぺんに1羽の猛禽類が止まっている。 タカだろうか? それともワシだろうか?

「そういえば鳥も動物だね」

ナヤスは鳥に憑依するというアイデアが気に入った。 空からの眺めはどんなだろう?

「やってみるよ」

そう言ってナヤスは呪文を唱えだす。「ジュモムカンガルメンサム...」

◇◆◇

《憑依》の呪文でタカに乗り移ったナヤスは強い風に吹かれながら、眼下に広がる景色にしばし見とれた。 森の緑の合間を縫うようにして南北に茶色の道が通っており、その道の上に人の列が見える。 避難民とヒモネス部隊である。

人の列は南側の先端から少しずつ移動を始めている。 荷車騒動が解決したのだろう。 間もなくヒモネス部隊も動き出すはずだ。 帝国軍の所在を探るなら急がねばならない。 ナヤスは北に頭を向け、これまで1日以上かけて歩いてきた道を眺める。 こんなに遥々はるばると歩いてきたのか! そう感心しかけたとき、ナヤスは北の遠方に気になる黒い点を見つけた。 あの点が帝国軍な気がしてならない。 ナヤスはタカの肉体を操って高木の頂上から飛び立った。

ナヤスは力強く翼を振るって、北方へと空をぐんぐん突き進む。 気になる黒点の姿が大きくなり、彼は自分の推測が正しかったことを知った。 やっぱり帝国軍だ! 長い隊列が延々と、自分たちが南下してきた道を進んでいる。 思っていたより近い。 このぶんではヒモネス隊が首都に到着する前に帝国軍に追いつかれる。

ナヤスは高度を下げて帝国軍にさらに接近した。 そして、帝国軍の隊列に混じって2匹の巨大なモンスターの姿を認めてギクリとする。 モンスターの体長は10mほど。 猛禽類の上半身に猛獣の下半身、そして鋭さと頑丈さを兼ね備えたクチバシと爪。 噂に聞くグリフォンに違いない。 帝国がグリフォンを手懐けてるって噂は本当だったんだ。 クーララ相手にグリフォンなんて大人げないぞ!

この世界のグリフォンは翼が退化していて飛翔できない。 しかし魔物であるから、危険性は同サイズの猛獣の比ではない。 クーララ兵が束になっても敵わないし、城門など簡単に壊してしまう。 賢く使えばグリフォン1匹でクーララ城を落とすのも可能である。

すぐに隊長に知らせないと! ナヤスは《憑依》を解除し、意識を自分の肉体へ戻した。

◇◆◇

《憑依》を解除したナヤスが目を開けると、イショナがすぐに声を掛けてきた。

「いいタイミングで目覚めたわね。 避難民が進み始めたから、そろそろ私たちも出発しましょ」

ナヤスは手早く自分の荷物を拾いながら答える。

「それがいい。 帝国軍にかなり迫られてるぞ」

「かなりって、どれくらい?」

「わかんないけど、あと4~5時間で追いつかれるかも。 奴らグリフォンまで連れてやがった」

「大変じゃない。 ヒモネス隊長に知らせてくる!」

イショナはそう言って駆け出した。 彼女はことあるごとにヒモネス中佐のそばに行きたがる。 ナヤスは1つ舌打ちしてイショナの後を追った。

◇◆◇

ファントムさんの復活を知って健全な避難意欲が回復した避難民は、帝国軍に迫られていることもあり、それまでの2割増しの速度で道を進んだ。

そして3時間後、避難民とヒモネス隊は帝国軍に追いつかれることなく三叉路へたどり着いた。

この三叉路からは、北・南・西に三本の道が出ている。 一行いっこうはこれまで北の道を南下してきた。 ヒモネス隊は南下を続けて首都を目指すが、避難民が進むのは西の道だ。 帝国軍の目的地は首都なので、帝国軍が変な気を起こさない限り避難民は無事に避難先に到着できる。

「護衛ありがとな。 生き残れよ! またエレベスの町で会おうぜ!」

避難民はヒモネス隊にそう告げて、西の道を進んで行った。
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