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異世界劣等生

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翌朝。 エリカは台所で朝食を食べながら1日のスケジュールを考えていた。

「ファビロサさんと会うのは午後4時だから、それまではモンスター退治かな。 効率は悪いけど、散歩がてら出かけましょうか」

エリカはコップに入ったオレンジ・ジュースを飲み干すと席を立ち、朝食に使った食器を洗って、外出の支度を始めた。



家を出たエリカは南門を目指して歩き出した。 途中にある商店街で昼食を買い求めるつもりである。

「今日のお昼は何にしようかな。 サンドイッチ? それともお弁当?」

エリカは幾人もの通行人を追い越しどんどん歩いて行く。 本人はのんびりと歩いているのだが、それでも常人の1.5倍の速度である。 マナにより強化された彼女の体は、人並み以上の歩行速度を自然と生み出すのだ。

そうして歩いていて商店街の入口に差し掛かったときである。 エリカの体に衝撃が走った。 腹から胸にかけて軽い鈍痛がある。

エリカは謎の現象に首をひねる。

「今のは何だったのかしら?」

そして、前にも同じことがあったことを思い出す。

「そういえば前も同じことが... 場所もこの辺りだった」

そのときのことを思い返していてエリカは思い至った。 自分の後にファントムさんとなった者がいる可能性に。

「新たなファントムさんが来てる!? 私と同じように人嫌いで自殺した人が、この世界に送り込まれた?」

エリカは考えを整理する。

「何かにぶつかられたのに、ぶつかられたと思わない。 それは、ぶつかって来たのが知覚外の存在であるファントムさんだから。 そして、新ファントムさんが私によくぶつかるのは、新ファントムさんにも私が見えていないから。 辻褄がピタピタと合う!」



商店街に入りお弁当屋さんへ足を向けると、怒鳴り声が聞こえて来た。 怒鳴っているのは弁当屋の店主だ。

「こう盗まれ続けるんじゃ商売あがったりだぜ!」

「ファントムさんにも困ったもんですなあ」と隣の商店の主。

「気が向いたときにしかカネを置いていかねえってのは頂けねえぜ」

(私はいつもおカネをちゃんと支払ってますけど)

そこでエリカは気付いた。

(あー、さっきの謎現象は新ファントムさんで確定だね。 こないだも謎現象の後で商店街に入ったら、お弁当屋さんが万引きに怒ってた。 あれも新ファントムさんが盗んだんでしょ)

しかし、新ファントムさんに前にぶつかられたのは何週間も前である。 新ファントムさんは何週間も万引きで暮らしてるのだろうか? この先もずっと万引きで暮らすのだろうか?

エリカは新ファントムさんのために自分が一肌脱げないものかと考え始めていた。



南門を出たエリカはモンスターを求めて歩き出す。 どこにモンスターがいるか見当も付かないので、散歩気分で適当に歩く。 《魔物探知》スクロールを買いたいとかミスリルの長剣の代金を支払いたいとかで大金が必要なエリカだが、生活費に困っているわけではないので血眼になってモンスターを探すほどではない。

歩きながら、エリカは新ファントムさんについて考える。

「新ファントムさんを助ける方法は簡単。 彼あるいは彼女にハンター協会の存在を教えるだけでいい。 新ファントムさんも透明で、それにたぶん不死身だから、ラットリング狩りぐらいなら問題なくこなせる」

「察するに新ファントムさんは異世界劣等生。 つまり異世界IQが低いの。 だから冒険者ギルドでおカネを稼ぐという発想がなく盗っ人を続けるハメになるのよ。 平素からRPGやラノベでファンタジーに接していないから、いざ異世界に飛ばされたときにそうなるのよ」

モンスターが一向に見つからないので、エリカはさらに新ファントムさんについて考える。

「まずは、コミュニケーションの取り方よね。 私も新ファントムさんも互いの存在を認識できないからコミュニケーションはとても困難。 あと、新ファントムさんが住んでる場所とか... あっ、オーク見っけ」

4匹のオークは小川で水浴びをしていた。 粗末な革鎧と武器を岸辺に置いて、4匹で川の真っ只中で戯れている。

マナ酔いを経てエリカの肉体が強化されてから初めての戦闘である。 彼女は胸に期すものがあった。

「さあいくわよ。 強くなった私の肉体を、あなたたちの体で存分に味わいなさい!」

受け取り方によっては一部がエッチなセリフを叫びながら、エリカはオークに突撃した。

タッタッタと地面を駆け、ザブザブと水の中に入り、まるで無警戒なオークの心臓を長剣で一突きしたり、背後から忍び寄って首を刎ねたり。 エリカはあっという間に4匹のオークを皆殺しにしてしまった。

「うーん、あんまり変わらないわね。 これまでなら突けなかったタイミングで心臓を突いたりできたけど。 ファントムさんがミスリルの長剣を持ってる時点でわりと無敵だもんね」
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