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第3章
第27話 次からは気をつけろよ
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黙々とトドメを刺し続ける4人。 ラットリングの数が多いのでトドメを刺すだけでも一苦労。
そこにミツキがふらりと戻ってきた。 群れ集ったラットリングを一通り気絶させ、クルチアのもとへ戻ってきた。
「クルチア」
ひどく不機嫌な声だ。
「ミツキ! 助けてくれたのね」
「助けを呼ぶのが遅い」
「ごめんなさい」
クルチアは反射的に謝った。 でも釈然としない。 "助けを呼ぶのが遅い" ってことは、ずっと近くにいたんでしょう? 私たちのピンチに気付いてたんでしょう? なのに、呼ばないと助けてくれないの?
どうにも釈然としないコトなので、口にせずにいられない。
「でもミツキ、あなたずっと近くに―」
その先を言わせるものか! ミツキはクルチアを押し黙らせようと、ぶっきらぼうに言い放つ。
「次からは気をつけろよ」
(次からすぐに助けを呼べってこと??)
よく分からない要望だが、ミツキが何故か恐ろしく不機嫌なので、クルチアは素直に謝ることにした。
「ごめんね。 今度から気をつけるね。 助けてくれてありがとう、ミツキ」
◇
クルチアの返答にミツキは安堵した。 フウ、さっきまで何処にいたか追求されなくて良かったぜ。 でも、念の為もう少し誤魔化しておこう。
ミツキは何気なさを装って付け加える。
「たまたま近くを通りがかったときに、クルチアの声が聞こえたから良かったけどさあ」
それは藪蛇だった。 クルチアはミツキの2つの発言に決定的な矛盾を見出だす。
(さっきミツキは "助けを呼ぶのが遅い" って言ってた。 "たまたま近くを通りがかった" のに "助けを呼ぶのが遅い"?)
さらにミツキが嘘をついた動機を看破。
(つまりミツキは、ずっと近くにいたことを知られたくない)
そしてクルチアはとうとう、ミツキのそこまでの状況と心境を完全に推察してしまう。
(やっぱりミツキ、私がキングズブリッジ先輩と一緒にいるから出て来れず、草葉の陰に隠れてたのね。 私が呼ぶまで出て来れず困ってた。 だから "助けを呼ぶのが遅い" って...)
可哀想なミツキ! ミツキに対する憐憫の情と愛情がクルチアの中に溢れ、クルチアはうるんだ瞳でミツキを見つめる。
「辛かったのね、ミツキ」
「なんのこと?」
クルチアは小さく首を横に振る。
「いいのよミツキ」もういいの。「全部わかってる」わかっちゃった。
そして、そっとミツキを抱き締めた。
ミツキは大人しく抱かれていたが、やがて不満の声を上げる。
「クルチア」
「なあに?」
「ゴツゴツする」革鎧が。
◇◆◇
ミツキを抱擁するクルチアを見て、トオマスら3人がトドメ作業を中断して歩み寄って来た。
「その子、いつもイナギリさんと一緒にいる子だよね?」「いつも思ってたんだけどさ、そんな子供を野外に連れ出して大丈夫なの?」
クルチアは言葉を濁す。
「えっと、うんまあ」 大丈夫です。
「なあイナギリ、その子ひょっとして今の出来事と関係ある?」
ヤマネくんの発言は質問というより確認だったので、クルチアは早々とミツキの秘密を手放した。
「えっとね、絶対に誰にも言わないで欲しいんだけど―」
◇◆◇
「オレたちはその坊主に命を救われたわけか」
「ありがとな、小僧」
「感謝する、ミツキ君」
ミツキは感謝の言葉を黙って背中で受け止めた。 なんとならば彼はまだクルチアに抱きついている。 初対面の大きなお友達3人は、人見知りの彼の許容範囲を大きく超えていた。
「ほらミツキ、ちゃんと挨拶しなさい」
ミツキはクルチアに抱きつく力を強め、拒否の意向を示す。
クルチアは溜息をついた。
「ほんとにもう。 あんたそんなことだから友達ができないのよ」
トオマスが取りなす。
「構わないさイナギリさん、僕たちの感謝は伝えられたから。 それよりラットリングにトドメを刺してしまおう」
「そうですね。 ほらミツキ、いい加減に離れなさい」
◇◆◇◆◇
トドメ作業を終えたクルチアたちは、手分けしてラットリングの写真を撮って回った。 ミツキとクルチアが報酬の70%を受け取り、残る30%を男子高校生3人が等分することに決まった。
クルチアたちは市内への道のりでハンターの一団に出会い、ラットリングが亀裂への興味を突然失った理由を知った。 ヤマネくんの仲間から通報を受けた市当局が、防壁の内側から壁の亀裂にラットリング忌避剤を塗布したのだ。 クルチアらが出会ったハンターの一団は、防壁の外部から忌避剤を塗布しに行く途上であった。
そこにミツキがふらりと戻ってきた。 群れ集ったラットリングを一通り気絶させ、クルチアのもとへ戻ってきた。
「クルチア」
ひどく不機嫌な声だ。
「ミツキ! 助けてくれたのね」
「助けを呼ぶのが遅い」
「ごめんなさい」
クルチアは反射的に謝った。 でも釈然としない。 "助けを呼ぶのが遅い" ってことは、ずっと近くにいたんでしょう? 私たちのピンチに気付いてたんでしょう? なのに、呼ばないと助けてくれないの?
どうにも釈然としないコトなので、口にせずにいられない。
「でもミツキ、あなたずっと近くに―」
その先を言わせるものか! ミツキはクルチアを押し黙らせようと、ぶっきらぼうに言い放つ。
「次からは気をつけろよ」
(次からすぐに助けを呼べってこと??)
よく分からない要望だが、ミツキが何故か恐ろしく不機嫌なので、クルチアは素直に謝ることにした。
「ごめんね。 今度から気をつけるね。 助けてくれてありがとう、ミツキ」
◇
クルチアの返答にミツキは安堵した。 フウ、さっきまで何処にいたか追求されなくて良かったぜ。 でも、念の為もう少し誤魔化しておこう。
ミツキは何気なさを装って付け加える。
「たまたま近くを通りがかったときに、クルチアの声が聞こえたから良かったけどさあ」
それは藪蛇だった。 クルチアはミツキの2つの発言に決定的な矛盾を見出だす。
(さっきミツキは "助けを呼ぶのが遅い" って言ってた。 "たまたま近くを通りがかった" のに "助けを呼ぶのが遅い"?)
さらにミツキが嘘をついた動機を看破。
(つまりミツキは、ずっと近くにいたことを知られたくない)
そしてクルチアはとうとう、ミツキのそこまでの状況と心境を完全に推察してしまう。
(やっぱりミツキ、私がキングズブリッジ先輩と一緒にいるから出て来れず、草葉の陰に隠れてたのね。 私が呼ぶまで出て来れず困ってた。 だから "助けを呼ぶのが遅い" って...)
可哀想なミツキ! ミツキに対する憐憫の情と愛情がクルチアの中に溢れ、クルチアはうるんだ瞳でミツキを見つめる。
「辛かったのね、ミツキ」
「なんのこと?」
クルチアは小さく首を横に振る。
「いいのよミツキ」もういいの。「全部わかってる」わかっちゃった。
そして、そっとミツキを抱き締めた。
ミツキは大人しく抱かれていたが、やがて不満の声を上げる。
「クルチア」
「なあに?」
「ゴツゴツする」革鎧が。
◇◆◇
ミツキを抱擁するクルチアを見て、トオマスら3人がトドメ作業を中断して歩み寄って来た。
「その子、いつもイナギリさんと一緒にいる子だよね?」「いつも思ってたんだけどさ、そんな子供を野外に連れ出して大丈夫なの?」
クルチアは言葉を濁す。
「えっと、うんまあ」 大丈夫です。
「なあイナギリ、その子ひょっとして今の出来事と関係ある?」
ヤマネくんの発言は質問というより確認だったので、クルチアは早々とミツキの秘密を手放した。
「えっとね、絶対に誰にも言わないで欲しいんだけど―」
◇◆◇
「オレたちはその坊主に命を救われたわけか」
「ありがとな、小僧」
「感謝する、ミツキ君」
ミツキは感謝の言葉を黙って背中で受け止めた。 なんとならば彼はまだクルチアに抱きついている。 初対面の大きなお友達3人は、人見知りの彼の許容範囲を大きく超えていた。
「ほらミツキ、ちゃんと挨拶しなさい」
ミツキはクルチアに抱きつく力を強め、拒否の意向を示す。
クルチアは溜息をついた。
「ほんとにもう。 あんたそんなことだから友達ができないのよ」
トオマスが取りなす。
「構わないさイナギリさん、僕たちの感謝は伝えられたから。 それよりラットリングにトドメを刺してしまおう」
「そうですね。 ほらミツキ、いい加減に離れなさい」
◇◆◇◆◇
トドメ作業を終えたクルチアたちは、手分けしてラットリングの写真を撮って回った。 ミツキとクルチアが報酬の70%を受け取り、残る30%を男子高校生3人が等分することに決まった。
クルチアたちは市内への道のりでハンターの一団に出会い、ラットリングが亀裂への興味を突然失った理由を知った。 ヤマネくんの仲間から通報を受けた市当局が、防壁の内側から壁の亀裂にラットリング忌避剤を塗布したのだ。 クルチアらが出会ったハンターの一団は、防壁の外部から忌避剤を塗布しに行く途上であった。
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