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第2章

第12話 骨董品店②

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「まいどあり!」

上機嫌な店主の声に背中を押され、ゴザロウはショップを出た。

ゲータレード市の街路を歩きながら、ゴザロウも上機嫌。

(うむ、良い買い物をできた)

彼が今回購入したのはアクアライト。 3種の宝物を1つずつ欲しかったが、いずれも極めて高価。 独身エリートのゴザロウといえど同時に3つを購入する資金は無い。

(残る2つも早いうち手に入れたいものだ)

売り切れの心配はない。 店主は言っていた。 3種の宝物を定期的に売りに来る人がいると。

(どんな人物だろう? 世にも稀な宝物を定期的に持ち込むとは。 業者じゃないな。 同じ店に何度も持ち込むと売値が下がる)

3種の宝物はいずれも相場より相当に安かった。 ショップの買い取り価格は、当然もっと安い。

(妙な話だ。 持ち込む宝物は3種類のみ。 その3種を何度も繰り返し持ち込む。 しかも同じ店に)

ゴザロウはその人物への興味を深めた。

           ◇◆◇

ゴザロウは通りすがりのレストランに入った。 そろそろランチタイムだ。

テーブル席に案内され注文を済ませ、彼は思考を再開する。

(業者でないなら... その人物は3種類の宝物を自分で採取している? あの3種の宝物ばかりを何度も? しかも最高品質で)

"シルフの羽衣" は脱皮するシルフが脱ぎ捨てる皮。 食すと妖精界が見える体質になる。 でも、シルフの羽衣は地面に触れると同時に分解されるから、地面に落ちる前に確保せねばならない。 ところが、シルフは捕獲が困難。 その困難さは、水面に浮かぶ羽毛を手で掴むに似る。 おまけにシルフは人を見ると水鳥のようにさりげなく逃げる。 ゆえにシルフの羽衣の入手には、50年に1度の幸運が求められる。

"トサカヘビの鱗" はトサカヘビのトサカの先端に位置する鱗。 普通に採取しても美しいが、最も美しいのは生きているトサカヘビから採取したもの。 ところがトサカヘビは素早いだけでなく、とても繊細。 網や罠で捕えた瞬間にショック死してしまう。 だから生け捕りは不可能。 最高ランクの品は、奇跡のごとき偶然の積み重ねの産物だ。

"アクアライト" も同じく。 "クイックリング級" の採取に求められるのは技術ではなく奇跡である。

(何故あの3種類ばかりを? なぜゲータレード市でばかり売り捌く?)

3種類の宝物に接点がある気がしてならない。 売られる場所がゲータレード市なのもヒントに思える。

だがエリートたるゴザロウの頭脳をもってしても、答えを見いだせない。

(う~ん、あと一歩で閃きそうなんだが)

もどかしさを糧にゴザロウは夢中になって考え、そして―

そして、ウェイターの声が彼の思索を中断する。

「お待たせしました。 ビーフシチューとチーズ入りパンでございます」

           ◇◆◇

「なかなか美味いな」

ゴザロウはビーフシチューとチーズ入りパンをパクつく。 思っていた以上に腹が減っていた。

ものの15分で食べ終えて、ゴザロウは食後のコーヒーを注文。

届いたコーヒを1口すすって、閃きは訪れた。

(そうか! 素早さが共通点だ!)

閃きを忘れまいと、ゴザロウは思考の筋道を大急ぎで舗装する。

(シルフの羽衣もトサカヘビの鱗もアクアライトも、素早さがあれば入手が可能。 それが共通点だ)

深まるゴザロウの確信。

(きっと素早さを活かして、あの3種類ばかり採取しているんだ)

そこからは早かった。 ゴザロウは正解に向かって一気に突っ走る。

(しかし、だ。 あの3つの宝物を入手できる素早さとなると、それこそ神速の妖精クイックリングのような素早さ... いや! むしろ本当にクイックリングでは? そう、だからゲータレード市! この付近には妖精の穴がある)

思考の材料が面白いように符合する。 ジグソーパズルのピースのように組み合わさる。

(間違いない、あのショップに宝物を持ち込んでいるのはクイックリング。 か、もしくは...)

エリートの頭脳は諸々の可能性を取りこぼさない。

(クイックリングと親しい人間だ)

           ◇◆◇

「でも、本当にクイックリングなのかな?」

かの神速の妖精はエクレア小国の建国に協力したと言い伝えられ、エクレア小国の王族や大貴族はクイックリングの血が混じるとされる。 だが、クイックリングはナイトリングと違って人間界に定住しない。 ウィークリングのように人前に姿を現しもしない。 目撃例さえ少ない、極めてレアな妖精だ。

「そんなクイックリングが人の町に宝物を売りに来ている?」

改めて考えると荒唐無稽な仮説。 だが、状況に照らし合わせると妙な説得力がある。

ゴザロウは自分の考えを確認したくて堪らなくなった。

「店主に尋ねてみよう」

           ◇◆◇

ショップの店主は回答を拒んだ。

「そいつは無理だ。 売り主の身元は明かせない」

だがゴザロウが自分の推理を述べると、店主の口から驚きが漏れる。

「どうしてそのことを...」

店主も売り主からクイックリングの関与を明かされてはいない。 だが何度か売り主にカマをかけた末、ゴザロウと同じ結論に達していた。

ゴザロウは店主の反応に満足し、店を出た。 彼の推理は正しかったのだ。
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