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第1章
第6話 ヤマダくん
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クルチアとミツキはハンター協会へ戻って来た。
まずは換金。 クルチアは換金用の窓口に並んだ。 換金の列が進み、クルチアの番がやって来る。
「次の方どうぞー」
女性職員の声に促され、クルチアは窓口に写真を提示する。
「これなんですけど」
職員は手慣れた動作で写真を受け取る。
「このラットリングはどちらで?」
「防壁の1つ目の亀裂です」
「1つ目?」
「えっと、東門を出て南に進んで1つ目です」
「承知しました。 では、少々お待ち下さい」
職員は窓口の向こうで事務手続きを初めた。
◇◆◇
職員がトレイに何枚かの紙幣を乗せてカウンターの上に置く。
「退治なさったのは第2世代ラットリング3匹。 4万5千モンヌの報奨です」
クルチアは思わず聞き返す。
「えっ? 第2世代?」
「さようです。 次の方どうぞ」
クルチアは興奮の面持ちで窓口を後にする。
「そういうことだったのね!」
色々なことが腑に落ちた。 ラットリングが道具を使ったのもクルチアが妙に苦戦したのも、今回のラットリングが第2世代だからだった。 第2世代は第1世代が淘汰された末に進化したラットリング。 第1世代より勘が良く、知能も高い。 おまけに退治報酬も高額だ。
◇◆◇
クルチアはミツキと共にロッカー室へ向かう。 武具を預けるためだ。 クルチアのハンター活動は親に内緒だから、家に武具を持ち帰れない。
ロッカー室がある二階への階段を登りながら、クルチアはミツキに朗報を伝える。
「ミツキ、今日の晩ゴハンはご馳走よ」 予想外に稼げたから。
ミツキはほくそ笑む。 シメシメ。 ピザに唐揚げに大葉入り餃子、チーズ入りのパンとシチュー。 食べたい物はいくらでもある。
◇◆◇
ほくそ笑むミツキの頭上から声が降って来る。
「イナギリさん?」
若い男の声だ。 "イナギリ" はクルチアの名字。 声を掛けられたのはクルチアだった。
クルチアは階段の踊り場を見上げ、そこに置かれたソファーに同級生の姿を認めた。
「あら、ヤマダくん」
「やっぱりイナギリさんか。 どうしたのその格好?」
ヤマダくんはクルチアの制服姿しか知らない。
「ちょっとモンスター退治をね。 エヘヘ」
「それって校則違反じゃ」
クルチアは重々しく頷いた。
「そうなの。 だから先生には言わないでね」
ヤマダくんは苦笑い。
「わかったよ。 誰にも言わない」 優等生のイナギリさんが意外だな。
「それで、ヤマダくんは? こんなところで何をしているの?」
「モンスター退治の依頼に来たんだけど、ちょっと考え事をね」
何やら悩みを抱える様子のヤマダくん。
「何か悩み事かしら?」
クルチアはヤマダくんの隣に腰掛け、話を聞き出した。
◇◆◇
「そういう訳だったのね」
クルチアはヤマダくんが語った内容を頭の中で整理する。 ヤマダくんが住むのはゲータレード市の防壁の外。 いくつかの世帯が寄り集まって暮らすコミュニティーだ。 コミュニティーを守る壁の亀裂からラットリングが侵入してきた。 昨日のことだ。 数は5匹と思われる。 コミュニティー内をラットリングが徘徊し、高齢化しつつあるコミュニティーの住民は外出にも不自由している。
「それで父さんに言われて僕が代表でハンター協会に来たんだけど、どの事業所も予約で一杯で、すぐ退治してもらうには割増料金が必要だって言うんだ」
「割増料金がヤマダくんの悩みの原因なのね?」
ヤマダくんは大きく頷く。
「そうなんだ。 通常料金の30万モンヌに加えて、割増料金が30万。 予定の倍の金額。 なのに僕の一存で依頼を出して良いのかなって...」
出てきた金額はクルチアに耳馴染みの無い数字だった。 30万モンヌ? ラットリングで?
「そのラットリングは第2世代かしら?」
「いや、たぶん第1世代だろうって協会の人が言ってた」
「不幸中の幸いね」
当たり障りのない返事をしつつ、クルチアは素早く計算する。
(第1世代5匹で30万。 1匹6万モンヌ... ゴクリ)
"依頼" は "写真持ち込み" より遥かに稼げると聞いていたが、当事者から聞く数字は生々しい魅力があった。
「ラットリング1匹に6万モンヌも支払って、ヤマダくんのおウチは大丈夫なの?」
「法外な金額だと思うけど、コミュニティーでおカネを出し合うしね。 でも割増料金はさすがに...」
「通常料金と同額だものね」
話すうちにヤマダくんは気づき始めた。 自分が話す相手もハンターであることに。 こうして暇そうに自分と雑談に興じていることに。
「あ、あのさイナギリさん」
「なあに?」
「イナギリさんは、今晩の予定が空いてたりする?」
「え?」 ドッキーン♡ まさかデートのお誘い!?
「君さえ良ければ...」
クルチアは背筋を伸ばし、両手を膝の上に揃えた。
「ハイ」 ドキドキ
デートに誘われる気持ちの準備は整っている。
「今から僕のコミュニティーに来てラットリングを退治して欲しい」
◇◆◇
「つつしんでお受け致します」
クルチアは依頼を快諾した。 一人前のハンターだと認められたようで嬉しい。 一匹あたり6万モンヌも貰えるのも嬉しい。 デートのお誘いと勘違いしたのはバレずにいて欲しい。
「助かるよイナギリさん!」
ヤマダくんの顔が輝いた。
ミツキが会話に割って入る。
「クルチア、わかってると思うけど1人で5匹は無理だよ」 今度はオレも最初から参加する。
ヤマダくんの顔が曇る。
「えっ、無理なの?」
「もちろん大丈夫よ ニッコリ」 私にはミツキがいるから。
クルチアはヤマダくんに返答。 同時に、強い視線と笑顔をミツキに向ける。 ミツキの発言を封じるためだ。
笑顔が功を奏しミツキは黙った。 でもクルチアの言動に不透明なものを感じたので、クルチアへの信頼度は1下がった。 信頼度はミツキの隠しパラメーター。 クルチアはその存在を知らず、ミツキ本人もあまり自覚していない。
まずは換金。 クルチアは換金用の窓口に並んだ。 換金の列が進み、クルチアの番がやって来る。
「次の方どうぞー」
女性職員の声に促され、クルチアは窓口に写真を提示する。
「これなんですけど」
職員は手慣れた動作で写真を受け取る。
「このラットリングはどちらで?」
「防壁の1つ目の亀裂です」
「1つ目?」
「えっと、東門を出て南に進んで1つ目です」
「承知しました。 では、少々お待ち下さい」
職員は窓口の向こうで事務手続きを初めた。
◇◆◇
職員がトレイに何枚かの紙幣を乗せてカウンターの上に置く。
「退治なさったのは第2世代ラットリング3匹。 4万5千モンヌの報奨です」
クルチアは思わず聞き返す。
「えっ? 第2世代?」
「さようです。 次の方どうぞ」
クルチアは興奮の面持ちで窓口を後にする。
「そういうことだったのね!」
色々なことが腑に落ちた。 ラットリングが道具を使ったのもクルチアが妙に苦戦したのも、今回のラットリングが第2世代だからだった。 第2世代は第1世代が淘汰された末に進化したラットリング。 第1世代より勘が良く、知能も高い。 おまけに退治報酬も高額だ。
◇◆◇
クルチアはミツキと共にロッカー室へ向かう。 武具を預けるためだ。 クルチアのハンター活動は親に内緒だから、家に武具を持ち帰れない。
ロッカー室がある二階への階段を登りながら、クルチアはミツキに朗報を伝える。
「ミツキ、今日の晩ゴハンはご馳走よ」 予想外に稼げたから。
ミツキはほくそ笑む。 シメシメ。 ピザに唐揚げに大葉入り餃子、チーズ入りのパンとシチュー。 食べたい物はいくらでもある。
◇◆◇
ほくそ笑むミツキの頭上から声が降って来る。
「イナギリさん?」
若い男の声だ。 "イナギリ" はクルチアの名字。 声を掛けられたのはクルチアだった。
クルチアは階段の踊り場を見上げ、そこに置かれたソファーに同級生の姿を認めた。
「あら、ヤマダくん」
「やっぱりイナギリさんか。 どうしたのその格好?」
ヤマダくんはクルチアの制服姿しか知らない。
「ちょっとモンスター退治をね。 エヘヘ」
「それって校則違反じゃ」
クルチアは重々しく頷いた。
「そうなの。 だから先生には言わないでね」
ヤマダくんは苦笑い。
「わかったよ。 誰にも言わない」 優等生のイナギリさんが意外だな。
「それで、ヤマダくんは? こんなところで何をしているの?」
「モンスター退治の依頼に来たんだけど、ちょっと考え事をね」
何やら悩みを抱える様子のヤマダくん。
「何か悩み事かしら?」
クルチアはヤマダくんの隣に腰掛け、話を聞き出した。
◇◆◇
「そういう訳だったのね」
クルチアはヤマダくんが語った内容を頭の中で整理する。 ヤマダくんが住むのはゲータレード市の防壁の外。 いくつかの世帯が寄り集まって暮らすコミュニティーだ。 コミュニティーを守る壁の亀裂からラットリングが侵入してきた。 昨日のことだ。 数は5匹と思われる。 コミュニティー内をラットリングが徘徊し、高齢化しつつあるコミュニティーの住民は外出にも不自由している。
「それで父さんに言われて僕が代表でハンター協会に来たんだけど、どの事業所も予約で一杯で、すぐ退治してもらうには割増料金が必要だって言うんだ」
「割増料金がヤマダくんの悩みの原因なのね?」
ヤマダくんは大きく頷く。
「そうなんだ。 通常料金の30万モンヌに加えて、割増料金が30万。 予定の倍の金額。 なのに僕の一存で依頼を出して良いのかなって...」
出てきた金額はクルチアに耳馴染みの無い数字だった。 30万モンヌ? ラットリングで?
「そのラットリングは第2世代かしら?」
「いや、たぶん第1世代だろうって協会の人が言ってた」
「不幸中の幸いね」
当たり障りのない返事をしつつ、クルチアは素早く計算する。
(第1世代5匹で30万。 1匹6万モンヌ... ゴクリ)
"依頼" は "写真持ち込み" より遥かに稼げると聞いていたが、当事者から聞く数字は生々しい魅力があった。
「ラットリング1匹に6万モンヌも支払って、ヤマダくんのおウチは大丈夫なの?」
「法外な金額だと思うけど、コミュニティーでおカネを出し合うしね。 でも割増料金はさすがに...」
「通常料金と同額だものね」
話すうちにヤマダくんは気づき始めた。 自分が話す相手もハンターであることに。 こうして暇そうに自分と雑談に興じていることに。
「あ、あのさイナギリさん」
「なあに?」
「イナギリさんは、今晩の予定が空いてたりする?」
「え?」 ドッキーン♡ まさかデートのお誘い!?
「君さえ良ければ...」
クルチアは背筋を伸ばし、両手を膝の上に揃えた。
「ハイ」 ドキドキ
デートに誘われる気持ちの準備は整っている。
「今から僕のコミュニティーに来てラットリングを退治して欲しい」
◇◆◇
「つつしんでお受け致します」
クルチアは依頼を快諾した。 一人前のハンターだと認められたようで嬉しい。 一匹あたり6万モンヌも貰えるのも嬉しい。 デートのお誘いと勘違いしたのはバレずにいて欲しい。
「助かるよイナギリさん!」
ヤマダくんの顔が輝いた。
ミツキが会話に割って入る。
「クルチア、わかってると思うけど1人で5匹は無理だよ」 今度はオレも最初から参加する。
ヤマダくんの顔が曇る。
「えっ、無理なの?」
「もちろん大丈夫よ ニッコリ」 私にはミツキがいるから。
クルチアはヤマダくんに返答。 同時に、強い視線と笑顔をミツキに向ける。 ミツキの発言を封じるためだ。
笑顔が功を奏しミツキは黙った。 でもクルチアの言動に不透明なものを感じたので、クルチアへの信頼度は1下がった。 信頼度はミツキの隠しパラメーター。 クルチアはその存在を知らず、ミツキ本人もあまり自覚していない。
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