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第4話 マルファの怒り。
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医師を......殴る!?
きっと目の前にいる、この医師の事だろうけど......。
「くそっ、やはり動けん! 貴様、私に何をした!」
医師はさっきまでの丁寧な言葉遣いから一転、乱暴な口調へと変化していた。タラスクは姿を消したまま、医師を背後から羽交い締めにしている。
運命の書のが示した啓示は、彼を殴れと言う。しかし何故?それによって何が起こるのか、全く読めない。ここまで意味不明な啓示は初めての事だった。ユニークスキルの未来予知も、僕がまだ関与していない未来しか見えない。つまり殴った後の事はわからないのだ。
だが、僕の心は既に決心していた。今まで示された啓示は、全て正しかった。望んだ通りに因果を変えてくれた。
だから、殴る!
「私は今からあなたを殴ります!」
「なんだと!?」
宣言の後拳を引き、腰で溜めて一気に突き出す。
「はぁっ!」
「ぶぐぁーっ!」
僕は手加減したつもりだったが、医師の顔はメコメコに凹む。
「ちょっ、マルファやりすぎだって!」
焦るタラスク。羽交い締めにしていた医師を解放し、距離を取る。だけど僕はもっと焦っている。
「うひゃー! ごっ、ごめんなさい! でも手加減したのに何でぇ!?」
狼狽える僕達。直後、顔面がぐちゃぐちゃになった医師が笑い出す。
「ふひゃーっはっはっ! さすがは聖女マルファ! 我が正体を見破るとは! 効いたぞ、聖なる拳! クククッ、そうとも! このガキの病はこの俺、ジャグール様の猛毒が原因よ!」
医師の体がモコモコと膨れ上がり、衣服が飛散する。彼の体はすっかり様変わりし、魚の顔と鱗、そして棘だらけの爬虫類のような体を持つ不気味な化け物に変化していた。聞いてもいないのに、勝手にペラペラと正体を明かしている。
「なるほど、混沌の神ケイオスの眷属か」
「そうみたいだね」
姿を現したタラスクの言葉に、僕は相槌を打つ。混沌の神ケイオスとは、僕らが「怪物」と呼んでいる化け物共の生みの親だ。ケイオスは平和を望まない。常に世界を混沌に陥れようと画策している。
「んん? なんだ貴様は? 見たところ闇の女神テネブラエの眷属、【魔獣】の端くれのようだが。雑魚は引っ込んでいろ。貴様の出る幕ではない」
ジャグールは姿を現したタラスクに驚く事もなく、食ってかかる。
「ほー、言ってくれるじゃねぇか」
「ピキッ」とこめかみに青筋を立てるタラスク。
「ふっ、吠えるな雑魚。俺は偉大なるケイオス様の直属。この国を治める【聖王】ファルタスの持つ【千里眼】の予知・遠視能力を持ってしても俺は捉えられぬ。つまりやりたい放題よ。勇者に狙われる事もない。ひゃーっはっはっ!」
またしても高笑いするジャグール。
「ふーん、馬鹿にしては色々と知ってるみたいだな」
「うん、確かに。馬鹿にしてはね」
「おい! 馬鹿って言うな! 馬鹿って言うやつが一番馬鹿なんだぞ!」
地団駄を踏むジャグール。
「うるさいよ......! こんな小さい女の子を弱らせ、苦しめ、殺す。やってる事がセコいんだよ......! そう言うの、僕は大嫌いなんだ......!」
僕の心は怒りに燃えていた。眠ったままのリジーを見る。おそらく年齢は四、五歳。まだ親に甘えたい盛り。そんな子供から全てを奪おうとするこの怪物が、僕は憎い。
「ククッ。なんだか急に男みたいな口調になったなぁ、聖女マルファ。何をそんなに怒っている? 俺はただ、食材の仕込みをしているだけだ。猛毒を染み込ませた人肉は格別なのよ。特に子供の肉は柔らかくて最高に美味い。死んだ後で墓を暴き、調理して食おうと思っていたのさ。お前らだって牛や豚で似たような事をするだろうが。餌で太らせ、肉にスパイスやら酒やら染み込ませるだろう。それと変わらん」
ドヤ顔で語るジャグール。僕の中で、何かが切れる音がした。
「あーあ、お前死んだわ」
やれやれと首を振るタラスク。それを見て、ジャグールはフンと鼻を鳴らす。
「口を挟むな雑魚。俺は聖女に喋っているのだ」
「へー、そうかよ」
ポキポキと指の骨を鳴らすタラスク。だが僕は右手を上げてそれを制する。
「手を出さないでくれタラスク。こいつは僕が直々にぶち殺す」
「まぁ、そうだろうな。わかってるさ」
タラスクは笑いながら、肩をすくめて見せた。
「タラスクだと......? まさか、邪龍タラスクではないだろうな」
「おう、そのまさかだぜ」
タラスクの返答を聞き、目を見開く。
「バッ、馬鹿な......! ケイオス様でさえ一目置くと言う、あのタラスクか!? 一撃で街一つ滅ぼせる力を持つと言う、あの......! 信じられん! 何故人間などに付き従っておるのだ!」
目を見開いたまま、僕とタラスクを交互に見るジャグール。
「まー、簡単に言うと退治された。その爆乳美女にな。そんで俺はそいつに惚れ、従者になったって訳だ」
「爆乳って言うな」
「なっ、なっ、退治だと......!? この聖女のどこにそんな力が......!」
サラッと言うタラスクに、ヨロヨロと狼狽するジャグール。
「つえーぞー、その女は。命が惜しけりゃ早く逃げるこった」
ニカッと笑うタラスク。人を化け物みたいに言わないで欲しい。
「馬鹿な......! ありえん! 百歩譲って事実だとしても、この俺が小娘などに負ける訳がない! ああそうとも! ありえぬのだッ! クククッ! 存分に犯し抜き、それから猛毒漬けにして食ってくれるわ!」
グワッと巨大な両腕を振りかぶり、突進してくるジャグール。僕は空中、ジャグールの顔面の手前くらいに素早く拳を繰り出す。そして素早く引いた。
「!?」
巨大な腕から繰り出されるジャグールの拳は、僕に当たる事なく停止。駆け出した足も、大きく見開いた目玉も、全てが動きを止めていた。
「貴様、俺に何をした!」
叫ぶジャグール。口だけは動くようにしておいた。
「親切に教えると思うかい? 解毒剤、あるんだろ? この子......リジーを助けたい。解毒剤を出すなら、君を殺すのを考え直してあげてもいい」
「カカカッ! そんなものはない! 俺の猛毒は、俺を殺さなくては消えないのだ!」
僕は溜息を吐いた。安堵の溜息だった。
「そうか。良かった。これで君を殺せる」
「馬鹿め! 動きを封じたつもりだろうが、こんなものすぐに......! ぐっ、くっ!」
脂汗をたらし、必死に動こうとするジャグール。だが、その体はピクリとも動かない。
「あー、それもう無理だぞお前。マルファが許さない限り、絶対に動けねぇから」
タラスクが半笑いでジャグールに教える。経験者は語ると言うやつだ。
「そんな馬鹿なっ! 俺はケイオス様の直属だぞ! こんなもの!」
ジャグールの息は荒い。それにちょっと生臭い。
「もういい。君の顔は、もう見たくない。さよならだ」
僕はパチンと指を鳴らす。
「ぼげぇーっ!」
ジャグールの体の内部から光が膨れ上がり、彼の全身を包んだ。ジャグールの全身は一瞬膨張して破裂。だが肉片や血液は飛び散る事なく、光となって消えていった。
「聖拳奥義、光烈爆殺拳! 君の運命は、僕と出会った時にもう終わっていたのさ」
消えていく光を見つめ、僕はもう一度安堵の息を吐く。
「やったな、マルファ!」
タラスクが駆けつけ、僕を抱きしめる。
「さすがは俺の女だぜ!」
「やめてよ。そんなのになった覚えはない。それに本来の僕は男だ。フォローには感謝してるけどね」
僕はタラスクの腕を振り解き、眠っているリジーの側に跪いた。
不満そうに小言を漏らすタラスクを尻目に、僕はリジーの髪をそっと撫で、彼女に呼びかけた。
「リジー、もう大丈夫だよ。君の運命は変わった。目覚める時間だよ」
リジーの頬にほんのりと赤みが差していく。そしてゆっくりと目を開く。
「ママ......? あれ? お姉ちゃん、誰?」
「おはようリジー。私は、聖女マルファ。今、ママとパパを呼んでくるね。リジーはね、ずっと眠っていたの。だからママとパパ、きっと凄く喜ぶと思うよ」
「え、そうなの!? うん! 早く、早くママとパパに会いたい!」
キラキラとした目を輝かせ、笑顔を見せるリジー。
僕が彼女の両親を呼ぼうと立ち上がると、部屋の扉が開いて両親が飛び込んで来る。
「リジー! 治ったのか!」
「ああ、リジー! 私の可愛い娘!」
二人はリジーに駆け寄り、彼女を抱きしめて泣きじゃくった。
リジーは驚きながらも、嬉しそうに両親を抱きしめ返していた。
きっと目の前にいる、この医師の事だろうけど......。
「くそっ、やはり動けん! 貴様、私に何をした!」
医師はさっきまでの丁寧な言葉遣いから一転、乱暴な口調へと変化していた。タラスクは姿を消したまま、医師を背後から羽交い締めにしている。
運命の書のが示した啓示は、彼を殴れと言う。しかし何故?それによって何が起こるのか、全く読めない。ここまで意味不明な啓示は初めての事だった。ユニークスキルの未来予知も、僕がまだ関与していない未来しか見えない。つまり殴った後の事はわからないのだ。
だが、僕の心は既に決心していた。今まで示された啓示は、全て正しかった。望んだ通りに因果を変えてくれた。
だから、殴る!
「私は今からあなたを殴ります!」
「なんだと!?」
宣言の後拳を引き、腰で溜めて一気に突き出す。
「はぁっ!」
「ぶぐぁーっ!」
僕は手加減したつもりだったが、医師の顔はメコメコに凹む。
「ちょっ、マルファやりすぎだって!」
焦るタラスク。羽交い締めにしていた医師を解放し、距離を取る。だけど僕はもっと焦っている。
「うひゃー! ごっ、ごめんなさい! でも手加減したのに何でぇ!?」
狼狽える僕達。直後、顔面がぐちゃぐちゃになった医師が笑い出す。
「ふひゃーっはっはっ! さすがは聖女マルファ! 我が正体を見破るとは! 効いたぞ、聖なる拳! クククッ、そうとも! このガキの病はこの俺、ジャグール様の猛毒が原因よ!」
医師の体がモコモコと膨れ上がり、衣服が飛散する。彼の体はすっかり様変わりし、魚の顔と鱗、そして棘だらけの爬虫類のような体を持つ不気味な化け物に変化していた。聞いてもいないのに、勝手にペラペラと正体を明かしている。
「なるほど、混沌の神ケイオスの眷属か」
「そうみたいだね」
姿を現したタラスクの言葉に、僕は相槌を打つ。混沌の神ケイオスとは、僕らが「怪物」と呼んでいる化け物共の生みの親だ。ケイオスは平和を望まない。常に世界を混沌に陥れようと画策している。
「んん? なんだ貴様は? 見たところ闇の女神テネブラエの眷属、【魔獣】の端くれのようだが。雑魚は引っ込んでいろ。貴様の出る幕ではない」
ジャグールは姿を現したタラスクに驚く事もなく、食ってかかる。
「ほー、言ってくれるじゃねぇか」
「ピキッ」とこめかみに青筋を立てるタラスク。
「ふっ、吠えるな雑魚。俺は偉大なるケイオス様の直属。この国を治める【聖王】ファルタスの持つ【千里眼】の予知・遠視能力を持ってしても俺は捉えられぬ。つまりやりたい放題よ。勇者に狙われる事もない。ひゃーっはっはっ!」
またしても高笑いするジャグール。
「ふーん、馬鹿にしては色々と知ってるみたいだな」
「うん、確かに。馬鹿にしてはね」
「おい! 馬鹿って言うな! 馬鹿って言うやつが一番馬鹿なんだぞ!」
地団駄を踏むジャグール。
「うるさいよ......! こんな小さい女の子を弱らせ、苦しめ、殺す。やってる事がセコいんだよ......! そう言うの、僕は大嫌いなんだ......!」
僕の心は怒りに燃えていた。眠ったままのリジーを見る。おそらく年齢は四、五歳。まだ親に甘えたい盛り。そんな子供から全てを奪おうとするこの怪物が、僕は憎い。
「ククッ。なんだか急に男みたいな口調になったなぁ、聖女マルファ。何をそんなに怒っている? 俺はただ、食材の仕込みをしているだけだ。猛毒を染み込ませた人肉は格別なのよ。特に子供の肉は柔らかくて最高に美味い。死んだ後で墓を暴き、調理して食おうと思っていたのさ。お前らだって牛や豚で似たような事をするだろうが。餌で太らせ、肉にスパイスやら酒やら染み込ませるだろう。それと変わらん」
ドヤ顔で語るジャグール。僕の中で、何かが切れる音がした。
「あーあ、お前死んだわ」
やれやれと首を振るタラスク。それを見て、ジャグールはフンと鼻を鳴らす。
「口を挟むな雑魚。俺は聖女に喋っているのだ」
「へー、そうかよ」
ポキポキと指の骨を鳴らすタラスク。だが僕は右手を上げてそれを制する。
「手を出さないでくれタラスク。こいつは僕が直々にぶち殺す」
「まぁ、そうだろうな。わかってるさ」
タラスクは笑いながら、肩をすくめて見せた。
「タラスクだと......? まさか、邪龍タラスクではないだろうな」
「おう、そのまさかだぜ」
タラスクの返答を聞き、目を見開く。
「バッ、馬鹿な......! ケイオス様でさえ一目置くと言う、あのタラスクか!? 一撃で街一つ滅ぼせる力を持つと言う、あの......! 信じられん! 何故人間などに付き従っておるのだ!」
目を見開いたまま、僕とタラスクを交互に見るジャグール。
「まー、簡単に言うと退治された。その爆乳美女にな。そんで俺はそいつに惚れ、従者になったって訳だ」
「爆乳って言うな」
「なっ、なっ、退治だと......!? この聖女のどこにそんな力が......!」
サラッと言うタラスクに、ヨロヨロと狼狽するジャグール。
「つえーぞー、その女は。命が惜しけりゃ早く逃げるこった」
ニカッと笑うタラスク。人を化け物みたいに言わないで欲しい。
「馬鹿な......! ありえん! 百歩譲って事実だとしても、この俺が小娘などに負ける訳がない! ああそうとも! ありえぬのだッ! クククッ! 存分に犯し抜き、それから猛毒漬けにして食ってくれるわ!」
グワッと巨大な両腕を振りかぶり、突進してくるジャグール。僕は空中、ジャグールの顔面の手前くらいに素早く拳を繰り出す。そして素早く引いた。
「!?」
巨大な腕から繰り出されるジャグールの拳は、僕に当たる事なく停止。駆け出した足も、大きく見開いた目玉も、全てが動きを止めていた。
「貴様、俺に何をした!」
叫ぶジャグール。口だけは動くようにしておいた。
「親切に教えると思うかい? 解毒剤、あるんだろ? この子......リジーを助けたい。解毒剤を出すなら、君を殺すのを考え直してあげてもいい」
「カカカッ! そんなものはない! 俺の猛毒は、俺を殺さなくては消えないのだ!」
僕は溜息を吐いた。安堵の溜息だった。
「そうか。良かった。これで君を殺せる」
「馬鹿め! 動きを封じたつもりだろうが、こんなものすぐに......! ぐっ、くっ!」
脂汗をたらし、必死に動こうとするジャグール。だが、その体はピクリとも動かない。
「あー、それもう無理だぞお前。マルファが許さない限り、絶対に動けねぇから」
タラスクが半笑いでジャグールに教える。経験者は語ると言うやつだ。
「そんな馬鹿なっ! 俺はケイオス様の直属だぞ! こんなもの!」
ジャグールの息は荒い。それにちょっと生臭い。
「もういい。君の顔は、もう見たくない。さよならだ」
僕はパチンと指を鳴らす。
「ぼげぇーっ!」
ジャグールの体の内部から光が膨れ上がり、彼の全身を包んだ。ジャグールの全身は一瞬膨張して破裂。だが肉片や血液は飛び散る事なく、光となって消えていった。
「聖拳奥義、光烈爆殺拳! 君の運命は、僕と出会った時にもう終わっていたのさ」
消えていく光を見つめ、僕はもう一度安堵の息を吐く。
「やったな、マルファ!」
タラスクが駆けつけ、僕を抱きしめる。
「さすがは俺の女だぜ!」
「やめてよ。そんなのになった覚えはない。それに本来の僕は男だ。フォローには感謝してるけどね」
僕はタラスクの腕を振り解き、眠っているリジーの側に跪いた。
不満そうに小言を漏らすタラスクを尻目に、僕はリジーの髪をそっと撫で、彼女に呼びかけた。
「リジー、もう大丈夫だよ。君の運命は変わった。目覚める時間だよ」
リジーの頬にほんのりと赤みが差していく。そしてゆっくりと目を開く。
「ママ......? あれ? お姉ちゃん、誰?」
「おはようリジー。私は、聖女マルファ。今、ママとパパを呼んでくるね。リジーはね、ずっと眠っていたの。だからママとパパ、きっと凄く喜ぶと思うよ」
「え、そうなの!? うん! 早く、早くママとパパに会いたい!」
キラキラとした目を輝かせ、笑顔を見せるリジー。
僕が彼女の両親を呼ぼうと立ち上がると、部屋の扉が開いて両親が飛び込んで来る。
「リジー! 治ったのか!」
「ああ、リジー! 私の可愛い娘!」
二人はリジーに駆け寄り、彼女を抱きしめて泣きじゃくった。
リジーは驚きながらも、嬉しそうに両親を抱きしめ返していた。
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