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第42話 決着!そして大団円(最終話)
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「亜躯鬼! いいところに来た! この糞狐を殺せ!」
銀杏と向かい合っていた女が、亜躯鬼に向かって叫ぶ。息も絶え絶えといった様子だ。だが亜躯鬼はオロオロしている。予想外の状況に驚いているのかも知れない、と木蓮は思った。
「お兄ちゃん! 紅蓮様! 来てくれたんだね!」
「ああ。無事か、塁火」
「私は大丈夫! 白金様が危なかったけど、銀杏様がなんだかすごいの! もう圧倒的に強くて、びっくりしちゃった!」
塁火は目をキラキラと輝かせている。確かに塁火の言う通り、銀杏の現在の霊力は圧倒的だった。
「そろそろ謝ったらどうじゃ、羅刹よ。お主も神なら、わしがただの守り神ではないと気付いておるのじゃろう? わしはかつて人神だった者。紅蓮の妹、輝夜じゃ」
「か、輝夜!? あの奔放な厄介者が、お前だと言うのか!? 死んでせいせいしていたというのに! ちっ、ならもう一度殺すまでよ!」
血まみれの女、羅刹は床に膝をついて苦しそうにしていたが、震えながらも扇を構え、印を結びながら呪文を唱えた。
「乱風華!」
女の周囲に風が巻き起こり、それが刃となって銀杏を襲う。だが銀杏は右手を前に突き出すだけで、全ての風刃の風向きを変えた。風刃は全て、羅刹自身を切り刻む。
「ぎゃあああーっ!」
「何度やっても無駄じゃ。貴様はわしには勝てぬ」
「く、う......!」
(銀杏様にこんな凄まじい力があったなんて。俺が酒呑童子に乗っ取られている時、白金が圧倒的な強さを発揮したのはぼんやり覚えているけど......白金も銀杏様も、底が知れないな)
羅刹の強さを、木蓮は肌で感じ取っていた。おそらく自分と同じくらいだ。だが銀杏は、そんな羅刹を手玉に取っている。しかもかつては人神だったと言う。単純にすごい、と木蓮は思った。
「ふむ。輝夜め、久々の戦いを楽しんでおるようだな。我も血が滾ってきたぞ。おい、そこの女。我の相手をせよ」
紅蓮が亜躯鬼に指をさし、高圧的に言い放つ。
「亜躯鬼! 紅蓮の事は放っておけ! 私を助けろ!」
必死の形相で、羅刹が叫ぶ。
「姉上! 今助けるよ!」
亜躯鬼は印を結び、呪文を唱える。だがその喉に、木蓮は刀をピタリとつけた。
「紅蓮、こいつは俺にやらせてくれないか? 刀の斬れ味を試したい。それに個人的な恨みもある」
亜躯鬼はヒィッと悲鳴をあげる。
「ああ、酒呑童子の邪心像の話か。まぁ、十中八九、壊したのは其奴であろうな。ふむ、仕方ないな。愛しいそなたの頼みだ。聞いてやろう」
紅蓮の愛しいと言う言葉に、銀杏の耳がピクリと動く。だがこちらを振り向く事はなく、羅刹と向き合ったままだ。塁火はなんだかニヤけている。白金に対する恋のライバルが減って、喜んでいるのかも知れない。
「簡単には殺されないよ!」
亜躯鬼は術を完成させ、亜空間に姿を消す。次にどこから姿を現すかは、本人にしかわからない事だろう。
だが木蓮は、目を閉じて刀を構えた。
「ふんっ!」
木蓮は何もない空間に、刀を一文字に斬り結んだ。空間から、鮮血が吹き出し、そこから亜躯鬼が姿を現して床に突っ伏した。
彼女はピクリとも動かない。勝負がついた事を悟り、木蓮は紅蓮を見て頷く。紅蓮は頰を朱に染め、木蓮に抱きついた。
「やはり我の見込んだ男♡ 強いな♡」
熱い視線を送る紅蓮に、木蓮は優しく微笑んだ。
「俺はいつでも、お前の期待に答えるさ」
二人は見つめ合い、口づけあった。
「きゃー♡ お兄ちゃんと紅蓮様、ラブラブ♡」
塁火は楽しそうに笑う。銀杏も二人を横目でちらりと見、羅刹に指をさす。
「貴様を助ける者はもうおらぬ。もう仕舞いにしようぞ」
「ふざけるな! 私はお前などに負けはしない! この糞......ぎゃあああっ!」
羅刹の全身が、雑巾を絞るようにねじれていく。そしてついには首がゴキリと折れ、羅刹は動かなくなった。
「ちと残酷ではあるが......貴様がした事を思えば、わしの心は痛まぬ。白金、敵は居なくなったぞ」
「ああ......そうみたいだな。残るはクソ親父だけか」
「白金様、もう大丈夫なのですか?」
「ああ、もうすっかりいいぜ。ありがとな、塁火」
白金に髪を撫でられ、赤くなる塁火。
「わ、わしも術で、そなたを治癒したのじゃぞ」
「わかってるって。すねるなよ」
白金は軽く頭を振ると、塁火に支えられながらゆっくり身を起こした。そして銀杏の手を取って立ち上がり、帝を見据える。
羅刹が力尽きる事で、帝を守る結界は消えた。今はただ、女たちの後ろに隠れて怯えるばかりだ。
「おい、クソ親父。てめーは最低のクズ野郎だが、殺しはしない。だが、きちっと責任は取ってもらうぜ。まずは盟約書の破棄からだ」
白金は冷静に、そして毅然と言い放った。
【銀杏視点】
「誠に、申し訳ございませんでした!」
ここは新都の奉行所前広場。舞台の上で、帝は土下座した。大勢の人々がそれを見に押し寄せている。壇上には帝の他に、オレと白金が立っている。
帝には、半刻(一時間)ほど土下座を続けてもらった。
「皆の者、良く聞くが良い! 都の帝が厄神と交わした盟約書は、無効となった。よってここに破棄する!」
帝が土下座する横でオレは高らかと言い放ち、盟約書を破った。「おおー!」と歓声が上がる。
「帝は反省しているようだが、どうする? 皆の怒りが治らぬようなら、罰を与えるが」
帝は土下座したまま、「ヒィッ」と悲鳴をあげた。自分がした事に対して、どんな復讐が来るか。この状況を恐怖しないものはいないだろう。
「銀杏様! もう許してあげましょう!」
民衆の中から声が上がる。
「誰にでも間違いはあるってもんです!」
「そうですよ! 私たちは、もう気にしていません! 追放されたからこそ、銀杏様や、みんなに会えた。むしろ感謝したいくらいです!」
「土下座までしてくれたんだ! 充分でさぁ!」
いたる所から声が上がり、それはやがてざわめきとなった。これが答えだ。オレの愛する人々は、みんな優しい。辛い思いをしてきたから、人の辛さがわかる。それは憎い仇が相手でも、変わらないのだ。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
帝は号泣していた。きっと生前にも、こんな寛大な許しを受けた事は無いはずだ。
「皆の気持ちは良くわかった! では、帝を許す事とする。白金も、それで良いかのう?」
「ああ、いいぜ。こんなしょうもないクソ野郎を許せる皆を、俺は誇りに思う。今後は一切、恨みっこなしだ。いいな、クソ親父!」
「わ、わかった。すまない、和也。来人。ありがとう」
帝は泣いていた。その後、亜水の屋敷に連れて行き、葉月と亜水、日凛に対しても土下座してもらった。三人とも前世の事は覚えていないので、葉月に火傷を負わせた、という部分での謝罪として受け取っていた。
「本当に、すまなかった葉月。許してくれ」
帝が床に頭を擦り付けるのを見て、葉月が彼の肩にそっと手を置く。
「もういいんです、帝。あなたに捨てられたお陰で、私は今の主人、そして日凛とドラちゃん。二人の子供にも出会えました。火傷の事も恨んではいません。最初は恥ずかしいと思っていました。でも、主人はそんな私を綺麗だと言ってくれたんです。火傷のお陰で、絆が深まったんです。だから、顔をあげてください」
帝はゆっくりと顔をあげ、涙でぐっしょりと濡れた目で、亜水家の四人を見つめた。皆、笑顔だった。誰も帝に対しての怒りは見せなかった。
「ありがとう。ありがとう......」
泣き続ける帝の背中を亜水がさする。これでもう、皆のわだかまりはなくなっただろう。
「さぁ! それではこれより新都の民を挙げての宴を開くぞ! 大宴会じゃ! 今日はめでたい事だらけじゃからな!」
オレの号令で亜水が動き、配下の侍、忍者、そして奉行所の同心たちも総動員し、新都中にお触れを出した。
【本日は守り神銀杏様と白金様の結婚式! 合わせて銀杏様の姉上、紅蓮さまと鬼神木蓮様の結婚式も同時開催! 来賓は都より帝がお見えになっています。 さぁ皆さん! 呑んで歌って踊りましょう!】
オレと白金、そして紅蓮と木蓮が、奉行所前の舞台に上がる。オレと紅蓮は白無垢。白金と木蓮は紋付袴。式を執り行うのは、なんと今日の為に新都にやってきた、人神の紅葉ちゃん!
亜水、葉月、日輪、ドラザエモン、塁火。大切な家族たちが近くで見守っている。
大勢の観衆も酒を飲み交わし、オレたちの結婚式を見守った。
式は厳かに行われ、オレたち四人は死ぬまで互いに添い遂げる事を誓った。家族たちは大泣きし、都民たちも笑ったり泣いたりしていた。
式も宴会も終わり、皆が疲れて眠った頃。オレは紅葉ちゃんと二人きりで山へと登っていた。あの始まりの山。守り神が祀られている、社がある山だ。
「なんか、ここも懐かしいな。女の子にされちゃった時はどうしようかと思ったけど......今となってはいい思い出だ。それに、感謝もしてる。白金を、好きになれたから」
月明かりだけの暗い社の中で、ロウソクに火を灯してオレと紅葉ちゃんは語り合った。
「あはは、良かった。あの時は、彼女作るんだー! って言ってたもんね。あのね、もしかしたら気づいてるかもしれないけど......来人君がここへきたのは偶然じゃないの。もちろん殺す気なんてなかったけど、説得して転生してもらおうと思ってたんだ。和也君もね、私が紅蓮のところに転生するように仕向けたの。そうすればきっと、二人は力を合わせてくれるって思ったから」
「そうだったんだ。じゃあオレが輝夜だったって事も知ってたのか?」
紅葉ちゃんは静かに頷く。
「うん。私にとって、輝夜様は憧れの人神だった。あなたみたいになりたかった。会えて嬉しいです、輝夜様」
なんかウルウルしている紅葉ちゃん。
「ふっ、わしも嬉しいぞ紅葉。立派な後継者が出来て、満足しておる。お主がおれば、常世の人々は安泰じゃな」
銀杏の口調に戻り、紅葉ちゃんの頭をよしよしと撫でる。えへへと笑う紅葉ちゃん。
「それでは、わしは皆の元へ戻る。今後も守り神の役目、しっかり果たすでな」
「うん。お互い頑張ろうね! 結婚おめでとう!」
紅葉ちゃんに見送られながら、社を出る。オレはやった。目的を果たしたんだ。最高の充実感だ。
前世での家族とも、また家族になれた。それに新しい家族も出来た。これ以上の幸せはない。
ああ、早く白金に抱きしめて欲しい。こんな時は、あの術だ。
「神速歩!」
オレは高らかに呪文を叫び、愛する人々の元へと走ったのだった。
銀杏と向かい合っていた女が、亜躯鬼に向かって叫ぶ。息も絶え絶えといった様子だ。だが亜躯鬼はオロオロしている。予想外の状況に驚いているのかも知れない、と木蓮は思った。
「お兄ちゃん! 紅蓮様! 来てくれたんだね!」
「ああ。無事か、塁火」
「私は大丈夫! 白金様が危なかったけど、銀杏様がなんだかすごいの! もう圧倒的に強くて、びっくりしちゃった!」
塁火は目をキラキラと輝かせている。確かに塁火の言う通り、銀杏の現在の霊力は圧倒的だった。
「そろそろ謝ったらどうじゃ、羅刹よ。お主も神なら、わしがただの守り神ではないと気付いておるのじゃろう? わしはかつて人神だった者。紅蓮の妹、輝夜じゃ」
「か、輝夜!? あの奔放な厄介者が、お前だと言うのか!? 死んでせいせいしていたというのに! ちっ、ならもう一度殺すまでよ!」
血まみれの女、羅刹は床に膝をついて苦しそうにしていたが、震えながらも扇を構え、印を結びながら呪文を唱えた。
「乱風華!」
女の周囲に風が巻き起こり、それが刃となって銀杏を襲う。だが銀杏は右手を前に突き出すだけで、全ての風刃の風向きを変えた。風刃は全て、羅刹自身を切り刻む。
「ぎゃあああーっ!」
「何度やっても無駄じゃ。貴様はわしには勝てぬ」
「く、う......!」
(銀杏様にこんな凄まじい力があったなんて。俺が酒呑童子に乗っ取られている時、白金が圧倒的な強さを発揮したのはぼんやり覚えているけど......白金も銀杏様も、底が知れないな)
羅刹の強さを、木蓮は肌で感じ取っていた。おそらく自分と同じくらいだ。だが銀杏は、そんな羅刹を手玉に取っている。しかもかつては人神だったと言う。単純にすごい、と木蓮は思った。
「ふむ。輝夜め、久々の戦いを楽しんでおるようだな。我も血が滾ってきたぞ。おい、そこの女。我の相手をせよ」
紅蓮が亜躯鬼に指をさし、高圧的に言い放つ。
「亜躯鬼! 紅蓮の事は放っておけ! 私を助けろ!」
必死の形相で、羅刹が叫ぶ。
「姉上! 今助けるよ!」
亜躯鬼は印を結び、呪文を唱える。だがその喉に、木蓮は刀をピタリとつけた。
「紅蓮、こいつは俺にやらせてくれないか? 刀の斬れ味を試したい。それに個人的な恨みもある」
亜躯鬼はヒィッと悲鳴をあげる。
「ああ、酒呑童子の邪心像の話か。まぁ、十中八九、壊したのは其奴であろうな。ふむ、仕方ないな。愛しいそなたの頼みだ。聞いてやろう」
紅蓮の愛しいと言う言葉に、銀杏の耳がピクリと動く。だがこちらを振り向く事はなく、羅刹と向き合ったままだ。塁火はなんだかニヤけている。白金に対する恋のライバルが減って、喜んでいるのかも知れない。
「簡単には殺されないよ!」
亜躯鬼は術を完成させ、亜空間に姿を消す。次にどこから姿を現すかは、本人にしかわからない事だろう。
だが木蓮は、目を閉じて刀を構えた。
「ふんっ!」
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彼女はピクリとも動かない。勝負がついた事を悟り、木蓮は紅蓮を見て頷く。紅蓮は頰を朱に染め、木蓮に抱きついた。
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熱い視線を送る紅蓮に、木蓮は優しく微笑んだ。
「俺はいつでも、お前の期待に答えるさ」
二人は見つめ合い、口づけあった。
「きゃー♡ お兄ちゃんと紅蓮様、ラブラブ♡」
塁火は楽しそうに笑う。銀杏も二人を横目でちらりと見、羅刹に指をさす。
「貴様を助ける者はもうおらぬ。もう仕舞いにしようぞ」
「ふざけるな! 私はお前などに負けはしない! この糞......ぎゃあああっ!」
羅刹の全身が、雑巾を絞るようにねじれていく。そしてついには首がゴキリと折れ、羅刹は動かなくなった。
「ちと残酷ではあるが......貴様がした事を思えば、わしの心は痛まぬ。白金、敵は居なくなったぞ」
「ああ......そうみたいだな。残るはクソ親父だけか」
「白金様、もう大丈夫なのですか?」
「ああ、もうすっかりいいぜ。ありがとな、塁火」
白金に髪を撫でられ、赤くなる塁火。
「わ、わしも術で、そなたを治癒したのじゃぞ」
「わかってるって。すねるなよ」
白金は軽く頭を振ると、塁火に支えられながらゆっくり身を起こした。そして銀杏の手を取って立ち上がり、帝を見据える。
羅刹が力尽きる事で、帝を守る結界は消えた。今はただ、女たちの後ろに隠れて怯えるばかりだ。
「おい、クソ親父。てめーは最低のクズ野郎だが、殺しはしない。だが、きちっと責任は取ってもらうぜ。まずは盟約書の破棄からだ」
白金は冷静に、そして毅然と言い放った。
【銀杏視点】
「誠に、申し訳ございませんでした!」
ここは新都の奉行所前広場。舞台の上で、帝は土下座した。大勢の人々がそれを見に押し寄せている。壇上には帝の他に、オレと白金が立っている。
帝には、半刻(一時間)ほど土下座を続けてもらった。
「皆の者、良く聞くが良い! 都の帝が厄神と交わした盟約書は、無効となった。よってここに破棄する!」
帝が土下座する横でオレは高らかと言い放ち、盟約書を破った。「おおー!」と歓声が上がる。
「帝は反省しているようだが、どうする? 皆の怒りが治らぬようなら、罰を与えるが」
帝は土下座したまま、「ヒィッ」と悲鳴をあげた。自分がした事に対して、どんな復讐が来るか。この状況を恐怖しないものはいないだろう。
「銀杏様! もう許してあげましょう!」
民衆の中から声が上がる。
「誰にでも間違いはあるってもんです!」
「そうですよ! 私たちは、もう気にしていません! 追放されたからこそ、銀杏様や、みんなに会えた。むしろ感謝したいくらいです!」
「土下座までしてくれたんだ! 充分でさぁ!」
いたる所から声が上がり、それはやがてざわめきとなった。これが答えだ。オレの愛する人々は、みんな優しい。辛い思いをしてきたから、人の辛さがわかる。それは憎い仇が相手でも、変わらないのだ。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
帝は号泣していた。きっと生前にも、こんな寛大な許しを受けた事は無いはずだ。
「皆の気持ちは良くわかった! では、帝を許す事とする。白金も、それで良いかのう?」
「ああ、いいぜ。こんなしょうもないクソ野郎を許せる皆を、俺は誇りに思う。今後は一切、恨みっこなしだ。いいな、クソ親父!」
「わ、わかった。すまない、和也。来人。ありがとう」
帝は泣いていた。その後、亜水の屋敷に連れて行き、葉月と亜水、日凛に対しても土下座してもらった。三人とも前世の事は覚えていないので、葉月に火傷を負わせた、という部分での謝罪として受け取っていた。
「本当に、すまなかった葉月。許してくれ」
帝が床に頭を擦り付けるのを見て、葉月が彼の肩にそっと手を置く。
「もういいんです、帝。あなたに捨てられたお陰で、私は今の主人、そして日凛とドラちゃん。二人の子供にも出会えました。火傷の事も恨んではいません。最初は恥ずかしいと思っていました。でも、主人はそんな私を綺麗だと言ってくれたんです。火傷のお陰で、絆が深まったんです。だから、顔をあげてください」
帝はゆっくりと顔をあげ、涙でぐっしょりと濡れた目で、亜水家の四人を見つめた。皆、笑顔だった。誰も帝に対しての怒りは見せなかった。
「ありがとう。ありがとう......」
泣き続ける帝の背中を亜水がさする。これでもう、皆のわだかまりはなくなっただろう。
「さぁ! それではこれより新都の民を挙げての宴を開くぞ! 大宴会じゃ! 今日はめでたい事だらけじゃからな!」
オレの号令で亜水が動き、配下の侍、忍者、そして奉行所の同心たちも総動員し、新都中にお触れを出した。
【本日は守り神銀杏様と白金様の結婚式! 合わせて銀杏様の姉上、紅蓮さまと鬼神木蓮様の結婚式も同時開催! 来賓は都より帝がお見えになっています。 さぁ皆さん! 呑んで歌って踊りましょう!】
オレと白金、そして紅蓮と木蓮が、奉行所前の舞台に上がる。オレと紅蓮は白無垢。白金と木蓮は紋付袴。式を執り行うのは、なんと今日の為に新都にやってきた、人神の紅葉ちゃん!
亜水、葉月、日輪、ドラザエモン、塁火。大切な家族たちが近くで見守っている。
大勢の観衆も酒を飲み交わし、オレたちの結婚式を見守った。
式は厳かに行われ、オレたち四人は死ぬまで互いに添い遂げる事を誓った。家族たちは大泣きし、都民たちも笑ったり泣いたりしていた。
式も宴会も終わり、皆が疲れて眠った頃。オレは紅葉ちゃんと二人きりで山へと登っていた。あの始まりの山。守り神が祀られている、社がある山だ。
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「あはは、良かった。あの時は、彼女作るんだー! って言ってたもんね。あのね、もしかしたら気づいてるかもしれないけど......来人君がここへきたのは偶然じゃないの。もちろん殺す気なんてなかったけど、説得して転生してもらおうと思ってたんだ。和也君もね、私が紅蓮のところに転生するように仕向けたの。そうすればきっと、二人は力を合わせてくれるって思ったから」
「そうだったんだ。じゃあオレが輝夜だったって事も知ってたのか?」
紅葉ちゃんは静かに頷く。
「うん。私にとって、輝夜様は憧れの人神だった。あなたみたいになりたかった。会えて嬉しいです、輝夜様」
なんかウルウルしている紅葉ちゃん。
「ふっ、わしも嬉しいぞ紅葉。立派な後継者が出来て、満足しておる。お主がおれば、常世の人々は安泰じゃな」
銀杏の口調に戻り、紅葉ちゃんの頭をよしよしと撫でる。えへへと笑う紅葉ちゃん。
「それでは、わしは皆の元へ戻る。今後も守り神の役目、しっかり果たすでな」
「うん。お互い頑張ろうね! 結婚おめでとう!」
紅葉ちゃんに見送られながら、社を出る。オレはやった。目的を果たしたんだ。最高の充実感だ。
前世での家族とも、また家族になれた。それに新しい家族も出来た。これ以上の幸せはない。
ああ、早く白金に抱きしめて欲しい。こんな時は、あの術だ。
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