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第40話 輝夜再び。

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「乱風華!」

 羅刹が扇を素早くひらめかせ、次々と風の刃を撃ち出して来る。邪神とは言え奴も神。おそらく三言呪だろう。

 帝や取り巻きの女たちは、羅刹の結界で守られている。この戦いも、余興のように思っているに違いない。

「結界陣!」

 オレは自分と塁火の周囲に、術で防御壁を展開する。白金はフットワークや宙返りを駆使して風刃をかわしているが、オレの身体能力は覚醒後でも低い。術で防御するしかない。それは戦うすべを持たない塁火も同様だ。だが防御壁は、一度風刃を食らうだけで破壊されてしまう。塁火の祈祷がなければ、一撃すら防げなかったかも知れない。凄まじい威力だ。

「それそれそれ!」

 くっ、早い! 防ぎきれない!反撃の隙も無い!

「結界じ、ううっ!」

 防御壁を貼り直すのが間に合わず、オレの右腕が切り飛ばされた。

「きゃああーっ! 銀杏様!」
「銀杏!」

 塁火が悲鳴をあげ、白金がオレと塁火をかばうように正面に立つ。だが白金の二言呪では、高威力の風刃は防げないかも知れない。

「白金、わしの事はいい! 塁火を守ってくれ!」

「そんな事出来るわけねぇだろ! お前は俺の命だ!」

 白金がそう叫んだ瞬間、彼の全身が切り裂かれ、四肢が切り飛ばされた。

「白金ぇぇーっ!」
「白金様! いやぁーっ!」

 どしゃり、と床に投げ出される白金の体。オレはとっさに彼の体にすがりつく。

 喉も胸も、腹も。ざっくりと切り裂かれて出血が酷い。白金は虚ろな目で、ヒュー、ヒューと息をした。

「白金! 白金!」

 白金はオレの髪を撫で、そのまま目を閉じた。そんな! そんな! 白金が死んでしまう! 治癒の術は、何かないか!? 三字熟語で......あっ、単純に超をつけたらいいんじゃないか!? 

「超治癒!」

 オレが術を発動させると、白金の体が白く輝く。だが右手を失った為、印が不完全だ。出血は止めたが、傷の治りは遅い。塁火も一心不乱に祈祷を行い、白金の回復を試みる。

「糞猿はもうじき死ぬわね。申し訳ありません帝。糞狐の腕を斬り飛ばしてしまいました」

「ああ、別にいい。顔と体が無事なら抱けるからな。それに術で治せるんだろ?」

 帝は全く気に止めた様子もなくそう言った。

「殺神は治癒系の術は使えません。残念ながらこのままですね」

 オレは自分の腕にも「超治癒」を使用し、どうにか出血を止める事は出来た。

「ああ、それで構わん。女たちをこっちに連れて来い」

「来い、糞狐、小娘」

 羅刹に腕を掴まれ、オレと塁火は強引に立たされる。

「ああ、そうだ。亜躯鬼が戻ってきたら、霧隠れ村の葉月も連れて来させろ。久々に抱きたくなった」

「葉月、だと......!?」

 亜水の奥さんの、あの葉月の事か!?

「ああ、そうだ。お前の母親だった女だよ、来人。ガキだったお前と一緒に俺のモノにしようと思ったんだが、なかなか首を縦に振らなくてな。旦那も邪魔してくるしよ。ムカついたんで夫婦共々事故に見せかけて殺してやったんだ。そんでお前を施設にゲットした」

 な、な......! オレの両親が死んだのは......!いや、殺されたのは、こいつにだったのか!? 前世では、葉月のお腹には赤ちゃんが......日凛が居た筈だ。三人とも殺されたんだ。このクズ野郎に!

「そしたらあの夫婦、この常世に転生してやがった。顔が変わってなかったんでな。すぐわかったぜ。あいつら、まだ夫婦にどころか恋人にもなってなかったんでな、すぐに葉月は俺の女にした。だがあの女、他の男に色目使いやがったんだ。帝であるこの俺を馬鹿にしやがって! だから顔を焼いてやった! でもあの無様な姿がそそるんだよなぁ。手放すんじゃなかったぜ」

 葉月の顔を焼いたのも、こいつか......! 

「どこまで腐っておるのじゃ、貴様ぁ!」

    オレの怒りは頂点に達した。

「黙れ、下衆の分際で無礼だぞ! この糞狐が!」

 オレの残った左腕も、斬り飛ばされた。だが、痛みを感じない。怒りで脳内麻薬が出ているのかも知れない。隣で塁火が泣き叫ぶ。

「ついでに両足も切っちまえ。ダルマにして可愛がってやるよ」

「かしこまりました」

 恐ろしい事をさらっと言う。だが、これ以上好きにされてたまるか。

(もちろん、黙ってられないわよね)

 もう一人のオレ、輝夜の声が頭に響く。

 瀕死の白金を守るべく、オレの真の力「恋愛成就」が、今発動した。

 万能感が訪れる。斬り飛ばされた両腕が、飛来して来て腕にくっつく。一瞬で傷が消える。白金の体も、完全に元どおりだ。

 目を丸くする帝と羅刹。塁火も泣き叫のをやめ、オレの腕を見つめた。

「お、おい羅刹! 銀杏の腕が戻って来てくっついちまったぞ! 男も元に戻った! こりゃ一体どうなってんだ!? さっさと男殺して、銀杏をダルマにしろよ」

 慌てふためき、立ち上がって羅刹に命令する帝。

「な、なんだこれは! 守り神ごときにこんな力が、あるはずがない! あるとしたらこれは我等と同等かそれ以上の神! だが、そんな者はもはや存在せぬ! 我等が最も強い! 貴様は何だ! 何者だ!」

 うろたえる羅刹。帝の声も耳に届いていないようだ。

「我が名は輝夜。頭が高い。控えよ」

   俺は優美な所作で、帝と羅刹を指差した。
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