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第22話 銀杏の夢。
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夢を見た。懐かしい夢。子供の時は何度も見た夢。成長するにつれ、見なくなっていた。
ずっと忘れていた。その夢の中では、俺は女。身長や声の感じから察するに、おそらく年齢は十代後半。同い歳くらいの青年と、戯れる夢。
なんで忘れてたんだろう。今、はっきりと思い出した。
そうそう、そうだよ......施設で初めて和也にあった時、すごく驚いたんだ。だって、夢に出てくる青年にそっくりだったから。
今、女として生まれ変わって......ようやく思い出せた。俺と和也が、前世、いや、前世の前世か?それとも前前前世か?とにかく俺が以前女だった時、恋人同士だったって事を。
夢から覚め、白金にその事を伝えようと思った。「思い出したよ」って。だけど隣に寝ていたはずの白金は、いつのまにかいなくなっていた。異常に気付いたドラザエモンが、必死の形相で俺やみんなを起こしてくれたんだ。
ドラザエモンの焦り方は尋常じゃなかった。敵がやってきた事、そしてそいつの事を、知っているみたいだった。
だけど俺は信じていた。白金が負けるはずないって。だって、すごく強いんだから。それなのに......駆けつけた時、白金は血だらけになって倒れていた。今はもう、呼吸さえしていない。
「白金、気をしっかり持て! 寝てはいかんぞ!」
声が震える。俺は細い腕で白金を抱きしめた。そして小さな手で、彼の大きな手を握る。どんどん冷たくなっていく。涙が止まらない。視界がぼやけていく。
いやだ。こいつの顔が見えなくなるなんて、いやだ。白金、お願いだから起きてくれ......。
(銀杏様、次のご指示を!)
木蓮の声が、俺の頭の中に響く。そうだ、今は戦闘中なんだ。いつまでも泣いてられない。白金をこんな目に遭わせたやつを、俺は絶対に許さない!
涙を袖で拭い、緑爪と戦っているみんなの状況を見る。
(よし、連携はうまく行っておる! 女だからと油断するでないぞ! 奴が態勢を立て直す前に、息の根を止めよ!)
(かしこまりました!)
木蓮が力強く応答する。
俺たちは覚醒が解けてしまっている。緑爪が俺たちよりも圧倒的に強いのは明らかだ。そのため俺が司令塔となり、奴に対して連携攻撃を行なっている。
まず木蓮の式神に、奴を捕らえさせた。式神の種類は現在二種類。狐の他に大蜘蛛がいる。蜘蛛が吐き出す強力な糸は、敵を捕縛するのに非常に適していた。四体の大蜘蛛が、四方から奴をがんじがらめにしている。
もう一種の式神、狐は変化が可能で、人型になって遠距離から弓を放っている。顔は狐、体は人間、と言った姿だ。服もちゃんと着ていて、大蜘蛛の隣に各一人ずつ。計四人の狐人が矢を放ち続けている。
弓は葉月が「道具作成」の能力で、石と木を使って作成したものだ。葉月は自分用に石で苦無と手裏剣も作成し、離れた場所から緑爪に攻撃している。
オレは弓や手裏剣が放たれるタイミングを前衛の三人へと細かく指示し、その間隙をぬって前衛は攻撃を繰り出す。
何故そんな事が可能なのか。
実はドラザエモンとの戦いで格(レベル)が上がり、新たな能力を獲得したのだ。その名もずばり「司令塔」。
戦況を俯瞰(ふかん)で見る事が出来、あらゆる指示を多方面に同時に送る事が出来る。しかも言葉にする必要がなく、イメージで伝える事も可能だ。
各自の状況も同時にオレの頭に送られてくるので、的確な指示を出せる。非常に便利な能力だ。
オレの的確な指示を受け、前衛は仲間の飛び道具に怯える事なく攻撃出来ている。亜水は鋤(すき)で突き刺し、日凛とドラザエモンは打撃を加えて行く。
一見、圧倒的に押しているように見える。勝利は目前、そう見える。だが、何かおかしい。
奴の体から、血が出ていないのだ。何度突き刺しても、何度殴っても。体中に無数の矢が突き刺さっても、血は出ていない。表情にも余裕が見える。
いや、それどころか笑っている。もしかして、効いてないのか!?
「あら?攻撃がやんだわ。ようやく気づいたのかしら。うふふ、何をしても無駄だって事に、やーっと、気づいてくれたのかしらぁ?私の皮膚は、とっても頑丈なの。でも、ちゃんとすべすべだし、お肉は柔らかいのよ?だけど皮膚は決して貫けないわ。私が血を流す事なんて、ありえないの。この糸だってね、いつだって切れるのよ?うふふ。さぁて、逃げる準備はいいかしらぁ?」
そう言って笑う緑爪の足元から、無数の鼠が湧いて出る。
鼠たちは緑爪の体によじ登り、彼女の体を縛っている蜘蛛の糸を喰い千切る。
自由になった緑爪は、右手の番傘を肩にかけ、左手の煙管(キセル)を口に咥える。そしてぷかぁーと煙を吐き出した。
「ああ、美味しい。我慢するとなおさら美味しいわねぇ、煙草(タバコ)って。あら、逃げないの?つまらないわぁ。せっかく狩りを楽しめると思ったのに」
緑爪の足元の鼠が、ギィギィと鳴きながら、一斉に広がり始める。やばい。
あの鼠、かなりやばいぞ!
(その鼠どもは、あらゆる病原菌を体内に有しておる! 決して噛まれてはならぬ! 返り血も浴びてはならぬぞ! 充分気をつけて戦うのじゃ!)
俺は看破で得た鼠の情報を、全員に伝える。
だがそうは言っても、一体どう戦えばいいんだ?切っても刺しても駄目だろうし......。
オレの三言呪があれば、雷を落として攻撃出来るんだけど、まだ覚醒出来る予兆はない。
「さぁ、可愛い私の子供たち。いっぱい食べなさい。残しちゃ駄目よぉ。うふふふ」
不気味に顔を歪めて笑う緑爪。このままでは全滅する。オレは大急ぎで、戦略を練った。
ずっと忘れていた。その夢の中では、俺は女。身長や声の感じから察するに、おそらく年齢は十代後半。同い歳くらいの青年と、戯れる夢。
なんで忘れてたんだろう。今、はっきりと思い出した。
そうそう、そうだよ......施設で初めて和也にあった時、すごく驚いたんだ。だって、夢に出てくる青年にそっくりだったから。
今、女として生まれ変わって......ようやく思い出せた。俺と和也が、前世、いや、前世の前世か?それとも前前前世か?とにかく俺が以前女だった時、恋人同士だったって事を。
夢から覚め、白金にその事を伝えようと思った。「思い出したよ」って。だけど隣に寝ていたはずの白金は、いつのまにかいなくなっていた。異常に気付いたドラザエモンが、必死の形相で俺やみんなを起こしてくれたんだ。
ドラザエモンの焦り方は尋常じゃなかった。敵がやってきた事、そしてそいつの事を、知っているみたいだった。
だけど俺は信じていた。白金が負けるはずないって。だって、すごく強いんだから。それなのに......駆けつけた時、白金は血だらけになって倒れていた。今はもう、呼吸さえしていない。
「白金、気をしっかり持て! 寝てはいかんぞ!」
声が震える。俺は細い腕で白金を抱きしめた。そして小さな手で、彼の大きな手を握る。どんどん冷たくなっていく。涙が止まらない。視界がぼやけていく。
いやだ。こいつの顔が見えなくなるなんて、いやだ。白金、お願いだから起きてくれ......。
(銀杏様、次のご指示を!)
木蓮の声が、俺の頭の中に響く。そうだ、今は戦闘中なんだ。いつまでも泣いてられない。白金をこんな目に遭わせたやつを、俺は絶対に許さない!
涙を袖で拭い、緑爪と戦っているみんなの状況を見る。
(よし、連携はうまく行っておる! 女だからと油断するでないぞ! 奴が態勢を立て直す前に、息の根を止めよ!)
(かしこまりました!)
木蓮が力強く応答する。
俺たちは覚醒が解けてしまっている。緑爪が俺たちよりも圧倒的に強いのは明らかだ。そのため俺が司令塔となり、奴に対して連携攻撃を行なっている。
まず木蓮の式神に、奴を捕らえさせた。式神の種類は現在二種類。狐の他に大蜘蛛がいる。蜘蛛が吐き出す強力な糸は、敵を捕縛するのに非常に適していた。四体の大蜘蛛が、四方から奴をがんじがらめにしている。
もう一種の式神、狐は変化が可能で、人型になって遠距離から弓を放っている。顔は狐、体は人間、と言った姿だ。服もちゃんと着ていて、大蜘蛛の隣に各一人ずつ。計四人の狐人が矢を放ち続けている。
弓は葉月が「道具作成」の能力で、石と木を使って作成したものだ。葉月は自分用に石で苦無と手裏剣も作成し、離れた場所から緑爪に攻撃している。
オレは弓や手裏剣が放たれるタイミングを前衛の三人へと細かく指示し、その間隙をぬって前衛は攻撃を繰り出す。
何故そんな事が可能なのか。
実はドラザエモンとの戦いで格(レベル)が上がり、新たな能力を獲得したのだ。その名もずばり「司令塔」。
戦況を俯瞰(ふかん)で見る事が出来、あらゆる指示を多方面に同時に送る事が出来る。しかも言葉にする必要がなく、イメージで伝える事も可能だ。
各自の状況も同時にオレの頭に送られてくるので、的確な指示を出せる。非常に便利な能力だ。
オレの的確な指示を受け、前衛は仲間の飛び道具に怯える事なく攻撃出来ている。亜水は鋤(すき)で突き刺し、日凛とドラザエモンは打撃を加えて行く。
一見、圧倒的に押しているように見える。勝利は目前、そう見える。だが、何かおかしい。
奴の体から、血が出ていないのだ。何度突き刺しても、何度殴っても。体中に無数の矢が突き刺さっても、血は出ていない。表情にも余裕が見える。
いや、それどころか笑っている。もしかして、効いてないのか!?
「あら?攻撃がやんだわ。ようやく気づいたのかしら。うふふ、何をしても無駄だって事に、やーっと、気づいてくれたのかしらぁ?私の皮膚は、とっても頑丈なの。でも、ちゃんとすべすべだし、お肉は柔らかいのよ?だけど皮膚は決して貫けないわ。私が血を流す事なんて、ありえないの。この糸だってね、いつだって切れるのよ?うふふ。さぁて、逃げる準備はいいかしらぁ?」
そう言って笑う緑爪の足元から、無数の鼠が湧いて出る。
鼠たちは緑爪の体によじ登り、彼女の体を縛っている蜘蛛の糸を喰い千切る。
自由になった緑爪は、右手の番傘を肩にかけ、左手の煙管(キセル)を口に咥える。そしてぷかぁーと煙を吐き出した。
「ああ、美味しい。我慢するとなおさら美味しいわねぇ、煙草(タバコ)って。あら、逃げないの?つまらないわぁ。せっかく狩りを楽しめると思ったのに」
緑爪の足元の鼠が、ギィギィと鳴きながら、一斉に広がり始める。やばい。
あの鼠、かなりやばいぞ!
(その鼠どもは、あらゆる病原菌を体内に有しておる! 決して噛まれてはならぬ! 返り血も浴びてはならぬぞ! 充分気をつけて戦うのじゃ!)
俺は看破で得た鼠の情報を、全員に伝える。
だがそうは言っても、一体どう戦えばいいんだ?切っても刺しても駄目だろうし......。
オレの三言呪があれば、雷を落として攻撃出来るんだけど、まだ覚醒出来る予兆はない。
「さぁ、可愛い私の子供たち。いっぱい食べなさい。残しちゃ駄目よぉ。うふふふ」
不気味に顔を歪めて笑う緑爪。このままでは全滅する。オレは大急ぎで、戦略を練った。
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