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第13話 銀杏ちゃん、覚醒する。
しおりを挟む「我が肉体よ! その秘めたる力を解き放ち、物ノ怪を恐怖させよ!」
ドンッ!と俺の頭の中で音が響く。
おおおおおお!力が、力がみなぎってきたぁ!
うわわわ、なんか尻尾がいっぱい生えて来たぞ!
おお、なんか胸も膨らんできた!髪も、めちゃくちゃ伸びたぁ!!手足も長く、背も伸びたぞ!
なんかスッゲー強くなった気がする!あと、色んな事がわかる!なんつーか......なんでも出来ちゃうような......万能感、って奴?
おーし!これならドラザエモンにも勝てそうだ!
「神速歩」
眉間に人差し指を当て、そう呟く。すると次の瞬間、俺の体はどぎゅん!と一気に加速した。ドラザエモンが暴れている場所まで、高速移動する。今まで使えなかった術も、覚醒する事で沢山使えるようになった。この神速歩もその一つだ。
「ごああああ!」
目の前でドラザエモンが暴れまわっている。奴が腕を振るうだけで、周囲の建物がギシギシと音を立てる。すでに倒壊してしまった家もあるようだ。
「た、助けてくれぇ!」
ドラザエモンに首根っこを掴まれ、片腕で宙吊りにされている物ノ怪。苦しそうに舌を出してこちらを見ている。彼は猫のような姿をしていた。
しゃーない。助けてやるか。恩に着ろよ。
「傀儡雷(くぐつらい)」
俺は指先をドラザエモンへ向け、小さな稲妻を放つ。
「うごっ!」
稲妻が直撃し、ドラザエモンは体をビクンと硬直させる。そして猫の物ノ怪を掴んでいた腕をゆっくりと下ろし、パッと手を離した。
「ひっ、ひぃぃぃっ!」
猫の物ノ怪は解放された途端、脇目もふらずに逃げ出した。ったく、礼くらい言えよな。
そう、今のドラザエモンの行動は、俺が操ったのだ。「傀儡雷(くぐつらい)」は、対象の体に稲妻を打ち込み、電流によって運動神経を支配する術だ。
ま、ぶっちゃけこれで俺の勝ちと言っても過言じゃない。効果はそんなに長くは持たないけど、ドラザエモンにもう自由はない。俺の思うがままだ。
しかし裁定者であるはずの銀牙が見当たらない。どこに行ってしまったのだろうか。
「千里眼」
俺は目を閉じて、まぶたの裏に意識を集中した。見える。まるで上空から見渡すように、あらゆる場所を見通す事が出来る。例えるなら、高倍率まで見れる人工衛星で見ているような感じだ。
しかも建物の中まで透過して見ることが出来るぞ。こりゃ便利だなぁ。
おっ、いたいた。銀牙発見!よーし、待ってろよー!パワーアップした銀杏ちゃんの姿、特別に見せてやるぜ♡
「銀牙!予定通り、わしがドラザエモンに勝ったぞよ!」
奴の心に直接話しかける俺。木蓮の式神に出来て、覚醒した俺に出来ない訳がない。「心通話」と言う術だ。
「おう、よくやった。そんな予感はしてたぜ。だが、ちょっとこっちの予定が狂っちまったんだ」
銀牙はややバツの悪そうな感じで、静かに返答した。
「ふむ。詳しく聞こう。今からそちらに行く」
俺は硬直したままのドラザエモンの腕を掴み、神速歩で銀牙の前まで移動した。
「おっ、そんな術まで使えるのか。流石だな。それになんか、見た目も変わったか? 随分と大人っぽくなったな。十代後半くらいに見えるぜ。可愛さプラス、色気もある」
銀河は突然現れた俺に驚いた様子もなく、感心したように俺を見つめる。
「ま、ま、まぁの。『覚醒』って奴じゃ。自分の真の力に目覚めた的なアレじゃよ」
ま、また心臓が......可愛さプラス色気とか言うから.....。
「そ、それよりホレ、これを見よ。ドラザエモンはこの通り、戦闘不能じゃ。そちらの予定が狂ったとは、どう言う事なのかのう? 何故こんな離れた場所にいたのじゃ?」
「ああ、他の物ノ怪どもに気づかれないように、紅蓮様に成り行きを『念話』で報告してたんだ。物凄く強い守り神がいて、一対一の勝負でも負けそうだから、この村を諦めるってな。そしたら紅蓮様は、おまえだけでも連れて来いって言うんだよ」
銀牙の声は沈んでいた。不本意な流れだから罪悪感を感じているのだろう。
「なるほどな。村の事はもう良い、と言う事か?」
「ああ、そうみたいだ。おまえに俄然(がぜん)興味が湧いちまったみたいでな。だから、一緒に来てくれるか?」
「ふむ、事情はわかった......だが、断る!」
俺は毅然と言い放った。
「その紅蓮とやらがどんな性格の神かは、わしは知らぬ。じゃが、わしがこの村を離れた途端、別の手下に襲わせる気かもしれぬ。銀牙、お主の事は信じておるが、敵の罠かもしれぬ以上、付いていく訳にはいかぬ」
「ま、そうだよな。おまえならそう言うと思った。ならもう一度だけ、ドラザエモンと勝負してくれないか? 今回は俺もドラザエモンに力を貸す。そこまでやってもお前を捕えられなかった。そう言うシナリオさ」
「ふむ、良かろう。ではもう一度戦うとしよう」
俺はロクに動けないドラザエモンを無理矢理に連れ立って、家の外に出る。
この家の付近にはあまり建物はなく、畑や田んぼばかりだ。ここなら戦っても問題ないだろう。
俺は家から少し離れた場所に移動すると、パチンと指を鳴らした。
「ふがっ! ん? ここは一体......俺はどうなったんだ?」
ぼーっと周囲を見回すドラザエモン。やがて俺に気づくと、怒りの表情になる。
「この小娘! 俺の大事な金玉をよくも蹴り上げてくれたな!」
目を充血させ、ギリギリと歯を軋ませる。かなり怒っているみたいだ。
「ドラザエモン。一旦落ち着け。もう一度銀杏と戦わせてやる。今度は俺も力を貸すから、全力で行け」
「あ、銀牙様。は、はい。でもいいんですかい? さっきは怪我させるなと......」
「いいんだ。ちょっと心は痛むけど、その時は俺の術で治癒するからさ。よし、行くぞドラザエモン!巨大!」
銀牙がパーンとドラザエモンの背中を叩く。すると、奴の体が一回り大きくなる。
「剛力!鋼鉄!俊敏!」
さらに立て続けに術をかける銀牙。ドラザエモンの体が、みるみる逞しくなっていく。
「これだけ術で強化すりゃ、普通は負ける事はねぇ。これで俺の本気度が紅蓮様にも伝わるだろう。だが多分、おまえはもっと強い筈だ銀杏。勘だけどな。それにあの仲間の女の子に、術で強化してもらえるんだろ?」
銀牙、累火の祈祷に気づいてたんだ。
ん?そういえば、累火の姿が見えない!急いで千里眼で探す俺。おー、いたいた。どうやら俺が気絶した後、捕まってしまったらしい。木蓮たちと一緒の蔵にいる。周囲には、新たな見張りが付いているようだ。とは言え、ひとまず安心した。
「ちと距離が離れすぎておるから無理じゃな。じゃが、今のわしなら恐らくイケるじゃろう。かかって来るが良い、ドラザエモン!」
「ふん! 今の俺は誰にも負ける気がせんわ! ゆくぞ小娘!」
グオオッと凄まじい勢いで拳を打ち込んでくるドラザエモン。だが。
「な、なにぃ!?」
俺は人差し指一本で、奴の拳を受け止めた。信じられない、と言った顔で俺の指先を見つめるドラザエモン。
「ば、馬鹿な!こんなはずは......」
「んー? どうしたのじゃ? まさかこれが本気と言うのではあるまいな?」
「ぐぬぬ!おのれぇぇ!」
がむしゃらに拳を打ち込んでくるドラザエモン。だが、俺は全ての拳を指先一つでさばいていく。
「ほーらほらほら。止まって見えるぞい。もう少し気合いを入れんか」
「ぬがあああ!」
必死の形相で攻撃してくるドラザエモン。なんか可哀想だな。そろそろ食らってやるか。
ボグッ。防御をやめた俺の顔面に、ドラザエモンの拳が直撃する。
「ん? おお、当たった! グハハハ! どうだ娘っ子! 俺の拳は痛かろう! 」
そう言いながら拳を引いていくドラザエモン。その顔は引きつっていた。すでに気づいていたのだろう。この異常な事態に。
「今、何かしたかの?ハエでも止まったのかと思ったわい」
俺は鼻の頭をポリポリと掻いた。
「ばっ、ばっ、バケモノぉぉっ!」
怯えながら後ずさるドラザエモン。いや、お前に言われたくねぇよ!
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