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魔王から奴隷へ。

第6話 アリエッタの実力。

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 強い視線でネリスを見返す私に、彼は優しく笑いかける。

「そうか......立派なご両親だったんだね。ねぇ、アリエッタ。僕にも君の夢を手伝わせてくれないか。もちろん世界を変えるなんて事は、今の僕には想像もつかない。だけど、君と同じ方向を見ていたいんだ。どんな時も、君の側にいたい。初めて出会った時から、君に惹かれていた。そして今の話を聞いて、その気持ちは確信に変わった。君の事が、好きだ。君はどう? 僕をどう思ってるの?」

 ネリスは真っ直ぐな目で私を見つめ、そして抱き寄せた。

「わっ、わたっ、私......! あ、ありがとうネリス! で、でも好きとかそう言うの、まだ気持ちの整理が付かないって言うか、ごめんなさい! あっ、でも力は貸して欲しい! 一緒にいたい! 側にいて欲しい!」

 私は顔が熱くなるのを感じながら、手をバタバタと動かしてあたふたと説明した。するとネリスはフッと笑って、私の額にキスをした。

「今はそれで充分だよ。ありがとうアリエッタ。僕はいつも君の側にいる。もしも気持ちの整理が付いたら、その時は告白の答えをくれるかい?」

 優しく微笑むネリスに、私はコクンと頷いた。

「ありがとうアリエッタ。待ってるよ」

 ネリスは嬉しそうにそう言って、もう一度私を抱きしめた。

「あっ、そうだ。そう言えば私が闘えるかって聞いてたけど......」

「え? あ、うん。女の子だし、すっごく華奢だし、元メイドだし、戦闘経験なんて無さそうだったから......闘い方を教えるって言われてもピンと来なくて」

「あはは、そりゃそうだよね。んじゃ、今から証明するからちょっと待ってね」

 私はパチンと指を鳴らす。すると教会の建つ丘を見下ろすように、山のような巨人が出現した。一つ目の人食い巨人、サイクロップスだ。その巨体が太陽の光を遮り、辺りは闇に包まれる。

「うわぁぁー! なんだこの化け物! アリエッタ、教会の中に隠れて! 僕が囮になる!」

 そう言ってネリスは、サイクロップスに向かって駆け出した。なんて勇敢なのだろう。先程のネリスの告白が頭をよぎる。ネリス、私もあなたの事......好きになりそうだよ!

 サイクロップスはネリスを捕まえようと巨大な手を伸ばす。させない!

「クロージア・フォークスルナル! ねじ曲がれ!」

「グオオオオッ!」

 私は魔術「歪曲の呪文」を唱え、サイクロップスの腕をねじ曲げた。巨人はネリスを捕まえる寸前でねじ曲がった腕を押さえ、激痛に悶えた。

「アイゼンラルダ・ホリンジオ! 私の体、宙を舞え!」

 すかさず魔術「飛行の呪文」で空を飛び、サイクロップスの頭上へ。頭の後ろ辺りが、奴の死角だ。頭上のハエを払うように手を伸ばして来るが、当然私は捕まらない。

 さて、仕留めるとしよう。だが、さすがにこの巨体を拳の一撃で沈めるのは困難だ。武器を使う事にする。

「グイバイル・ドルト! 魔剣よ我が手に!」

 魔術「魔剣召喚の呪文」により、魔剣ダーイン・スレイヴを召喚。右手に携える。

「久しぶりだなエッダ! 呼んでくれて嬉しいぜ!」

「積もる話は後だよ、ダース。今はあのサイクロップスに集中して! それに今の私の名前は、アリエッタだから!」

「アリエッタァ? まるで聖女みてぇな名前だな! まぁいい! サイクロップスか、寝起きの準備運動には丁度いい雑魚だ!」

「ふふっ、相変わらずの軽口だね! 行くよ!」

「任せろ!」

「はぁぁーっ!」

 私はダースこと、魔剣ダーイン・スレイヴを両手で頭上に振り上げ、そのまま真っ直ぐ振り下ろした。

「せやあぁーっ!」

 ズバァァンッ! サイクロップスの体は縦に真っ二つに割れ、そのまま崩れ落ちた。このままだと、ネリスが潰される可能性がある。

「ネリス!」

 私は自身に与えられたもう一つの「女神の加護」である「神眼」を使ってネリスを探した。これは欲しい視覚情報をすぐさま検知出来る能力。探し物や、対象の情報が欲しい時などに役立つ。

「いた!」

 サイクロップスの足元にネリスを見つけた私はすぐさまそこへ飛び、彼を救出。両手で抱き上げる。

 ギュウーンッと急上昇で丘を離れ、サイクロップスの巨体に潰されるのを回避する。

 ズーン! と一つ目巨人は倒れ、動かなくなった。私はパチンと指を鳴らす。するとサイクロップスは消失した。かの怪物は、私がこの世界に作り出した仮想の存在だったのである。だがこの仮想現実世界では、実物と変わらない破壊力を持つ。もし倒さなければ、私とネリスの精神は食われてしまっていたかも知れない。

「どう? ネリス。これで私が闘えるって事、わかってもらえたかな?」

 空を飛びながら、私は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「じゅ、充分すぎる程わかったよ......助けてくれて、ありがとうアリエッタ」

 ネリスは私に抱きかかえられたまま、恥ずかしそうにそう言った。

「だけどこれじゃ、君が王子で僕が姫って感じだ。ヘルハウンドの闘いでは、僕が王子になれるよう、頑張るよ」

「あはは、そうだね。じゃあ、私も一生懸命ネリスを鍛えるから。しっかりついて来てね!」

「うん。よろしく頼むよ、師匠」

 私達は声を上げて笑い合いながら、再び教会のある丘へと降り立ったのだった。
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