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第1部 勇者令嬢アキラ

第9話 惨劇。

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 オークはかつて、亜人のエルフ族だったという。邪心に取り憑かれ、残酷な行いを繰り返したエルフの成れの果て。そう聞いた事がある。

 モックの村の破壊された外壁の前に、門番のように立ちはだかるオーク。その姿は醜悪そのもので、下顎から上に突き出した二本の牙と、豚の様な鼻が特徴的だ。

「なんて大きささなの......!」

 私は思わず独りごちた。オークとは二十年前に何度か戦ったが、その時のオークの倍以上の大きさだ。

 まずは反応を見るか。私は念動力で周囲の石や岩を集め、一気に射出した。その数、およそ百。

 奴との距離はおおよそ五十歩くらい。射出された石礫や岩石は、勢いよく飛んでいき、オークに激突した。オークは斧で岩を一つ打ち落としたが、残りは全部直撃。全身から血を吹き出し、倒れた。

「よし! 命中!」

「すごいですねアキラ様! さすがです!」

 久しぶりに使ったから、上手くいくか不安だったけど良かった。反応を見るつもりが、倒してしまってラッキーだった。

「走るよ!」

「はい!」

 全速力で走り、外壁の穴を駆け抜ける。モックの村の風景は、かつての面影をわずかに残してはいた。だが、建物も人々も無残な姿に変わり果て、目を覆いたくなるほどの惨状だった。

 動いているのは魔物だけ。この村を守る騎士や魔術士の死体を、貪り食っている。

 魔物はオークの他に、ゴブリンやヘルハウンド、オーガまでいる。

「父さん! 母さん! ユミル!」

 ジャクソンは駆け出した。その先には教会がある。

「ジャクソン、教会へ行くの!?」

「はい! そこが俺の家なんです! きっと村のみんなも避難してきていると思います! 隠し部屋があるので!」

 私たちという餌を見つけ、魔物たちは奇声を発して集まってきた。おそらく目に見える範囲の魔物全てだ。五体はいる。

「ここは私が食い止める! 君は教会に行って!」

「わかりました! ありがとうございます!」

 ジャクソンは私の強さを信頼して、先へ進んだ。教会は私のかつての仲間、セーラの家。ジャクソンも教会が家だと言っていた。つまりジャクソンは、セーラの息子だ。

「あんた達、ここから一歩も通さないわよ!」

 私は破壊された家のレンガ、木材、石像。あらゆるものを【念動力】で武器とし、振り回し、射出した。

 魔物たちは二十年前よりも巨大で素早く、力も強かった。私は念動力で宙を舞い、ギリギリのところで奴らの攻撃をかわす。ヒット&ウェイを繰り返し、ようやく全ての魔物を撃破した。

 魔物は他にもいるかも知れない。教会は無事だろうか。

 私は走った。教会が見えた。その入り口の前の壁に、一組の男女が血まみれでもたれかかっている。その二人にしがみつき、泣きじゃくっている青年。

 青年はジャクソンだった。血まみれの男女の女性の方は、セーラ。男性はきっと、セーラの夫だろう。

「父さん! 母さん! ああああー!」

 男女は血まみれの手で、ジャクソンの髪を撫でている。

「ジャクソン! セーラ!」

 私は三人の近くに辿り付き、叫んだ。

「アキラ様、父さんと、母さんが......」

 ジャクソンが涙まみれの顔で振り返る。

 セーラは微笑んでいた。その夫も、微笑を浮かべて私を見た。

「アキラ......久しぶり。会いたかった。昔と全然、変わらないね。私はすっかりおばさんになっちゃった。ねぇ、この子、私の息子よ。ジャクソンって言うの。可愛いでしょう? こっちはね、夫のジャンよ。この村を守ってくれている、騎士さんなの。とっても強くて、優しいのよ......」

 弱々しく、か細い声。セーラは、今にも事切れそうだった。

「ア、アキラ様......。初め、まして......。セーラが世話になったそうですね。私とセーラは、おそらくもう持ちません。息子のジャクソンと、教会の中にいる、娘のユミルを......村のみなさんを、どうかよろしくお願いします」

 ジャンはそう言って、血を吐いた。教会の周囲には、ヘルハウンドの死体が三体、横たわっていた。きっと二人は、中にいる人々を守る為に、命がけで戦ったのだろう。

「ねぇ、ねぇアキラ。私、とても素敵な夢を見たの。あなたに、受け取って欲しい。私の夢を、食べて欲しいの。今、もう一度、見るから。きっとまた、見れるわ」

「うん。あなたの夢、もらうよセーラ。ありがとう」

 私はセーラの手を握り、彼女の額に自分の額を当てた。こうする事で、お互いが同時に眠りに落ちる。

 セーラは、二十年前と同様の、可憐な美少女の姿だった。スカートをひらめかせ、美しい草原を駆け巡る。街中に入ると、建物をジャンプして飛び越え、そのまま宙を滑空した。そして困っている人を見つけ、魔物を蹴り倒し、傷ついた人を魔法で癒す。

 私も一緒になって、セーラと駆け回った。楽しかった。涙が出た。

「ねぇアキラ! 私、今すっごく幸せ! 優しい旦那様はいつも私を抱きしめてくれる! それに可愛い子供が二人もいるのよ!」

 教会に到着すると、セーラは家族を紹介してくれた。人の良さそうな、優しさに満ち溢れた笑顔のジャン。その周りを元気に駆け回る、まだ子供のジャクソン。そしてセーラの後ろに隠れ、恥ずかしそうにこちらを見つめている、娘のユミル。

 素敵な家族だった。

「この家族がね、私の宝物なの! どんな事があったって、守ってみせるわ!」

 そう言って、二人の子供を抱きしめるセーラ。そのセーラと子供たちを、ジャンが包み込むように抱きしめる。

「ありがとう、アキラ。最後に素敵な夢を、一緒に見れたわ。また会えて、本当に嬉しかった。またね」

「うん。またね」

 夢が閉じていく。真っ白な空間で、光の玉に変化した夢。それを私は、泣きながら食べた。セーラの想いが、心に入ってくる。

 夢を食べ終わると、目が覚めた。私とセーラの触れ合う額。それと握っていた手は、とても冷たくなっていた。

「アキラ様......父さんと、母さんが......」

 ジャクソンは嗚咽を漏らし、それ以上は言葉にならなかった。

 二人は、逝ってしまったのだ。
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