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第2章 近づく距離
09話「揺れる心」
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朝のオフィスは、いつもと変わらない賑わいに包まれていた。
透也は自分の席に座り、天城との新しい案件の資料を開いていたが、どこか集中しきれない自分に気づいていた。
昨日の夜、眠れなかった原因が、今も胸の中でざわついている。
「おはよう、真柴くん」
天城が明るい声で挨拶をしてきた。透也は軽く頷いて返事をする。
「おはようございます」
天城は透也の返事に満足そうに微笑み、自分の席に戻っていった。
だが、その瞬間、透也の胸の中にまたあのざわつきが広がる――天城の笑顔を見るたびに、自分の心が少しずつ変わっていくのを感じていた。
午前中、二人は順調に仕事を進めていた。
必要な指示を交わし、問題なく進捗を確認する。だが、先日手が触れ合ったあの瞬間が頭から離れず、透也はどこかぎこちなさを感じていた。
「真柴くん、ここのデータも見ておいてくれる?」
「はい、すぐに確認します」
何気ないやり取りだったが、二人の間には小さな緊張感が漂っていた。周囲の同僚たちも、二人の自然な連携を見て笑いながら声をかけてきた。
「本当にいい相棒だよな、お前たち」
その言葉に、透也は心の中で動揺を覚えた。
今までなら何気なく流せた言葉が、今日はなぜか胸に刺さったように感じる。
昼休み、天城がいつものように声をかけてきた。
「ねえ、真柴くん。今日は一緒に食堂行かない?」
透也は少し迷ったが、結局頷いた。
「……はい、行きましょう」
二人は並んで食堂に向かい、ランチセットを手に取り、窓際の席に座った。食事をしながら、天城がふと尋ねる。
「真柴くんって、休みの日は何してるの?」
「……特に何も。家で本を読んだりするくらいです」
「へえ、本を読むのも好きなんだ」
天城の目が優しく輝く。
「君のこと、もっと知りたいな」
その一言が、透也の胸に深く響いた。
これまでは単なる相棒だったはずが、その言葉が心の中で大きく膨らんでいく。
「……僕のことなんて、別に面白くないですよ」
透也は照れ隠しのようにそう言ったが、天城は微笑みながら首を振った。
「そんなことない。僕は、真柴くんのことをもっと知りたいから」
その真剣な言葉に、透也の胸が再びざわつく。それが何を意味するのか、まだ分からないまま。
夕方、仕事が終わった二人は、いつものように一緒にオフィスを出た。
夕焼けに染まる街並みが二人を包み、柔らかな風が頬を撫でる。
「今日も一日お疲れさま。君と一緒にいると、本当に仕事がはかどるよ」
天城が優しい声で言うと、透也は小さく頷いた。
「僕も……天城さんと一緒だと、安心します」
その言葉を口にした瞬間、自分でも驚くほど自然だった。だが、透也の胸の中にはまだ、答えの見つからない感情が残っていた。
---
二人は駅の改札の前で立ち止まった。
普段ならもっと自然に別れられるはずが、今日はなぜか名残惜しさを感じていた。
「……じゃあ、また明日ね」
天城が軽く手を振り、笑顔を見せる。
透也もそれに応えて小さく微笑んだ。
「はい、また明日」
二人は改札を挟んで別れ、各々の帰路に着いた。だが、その夜、透也は自分の心に芽生え始めた新しい感情と向き合いながら、眠れないままベッドの中で悩み続けていた。
透也は自分の席に座り、天城との新しい案件の資料を開いていたが、どこか集中しきれない自分に気づいていた。
昨日の夜、眠れなかった原因が、今も胸の中でざわついている。
「おはよう、真柴くん」
天城が明るい声で挨拶をしてきた。透也は軽く頷いて返事をする。
「おはようございます」
天城は透也の返事に満足そうに微笑み、自分の席に戻っていった。
だが、その瞬間、透也の胸の中にまたあのざわつきが広がる――天城の笑顔を見るたびに、自分の心が少しずつ変わっていくのを感じていた。
午前中、二人は順調に仕事を進めていた。
必要な指示を交わし、問題なく進捗を確認する。だが、先日手が触れ合ったあの瞬間が頭から離れず、透也はどこかぎこちなさを感じていた。
「真柴くん、ここのデータも見ておいてくれる?」
「はい、すぐに確認します」
何気ないやり取りだったが、二人の間には小さな緊張感が漂っていた。周囲の同僚たちも、二人の自然な連携を見て笑いながら声をかけてきた。
「本当にいい相棒だよな、お前たち」
その言葉に、透也は心の中で動揺を覚えた。
今までなら何気なく流せた言葉が、今日はなぜか胸に刺さったように感じる。
昼休み、天城がいつものように声をかけてきた。
「ねえ、真柴くん。今日は一緒に食堂行かない?」
透也は少し迷ったが、結局頷いた。
「……はい、行きましょう」
二人は並んで食堂に向かい、ランチセットを手に取り、窓際の席に座った。食事をしながら、天城がふと尋ねる。
「真柴くんって、休みの日は何してるの?」
「……特に何も。家で本を読んだりするくらいです」
「へえ、本を読むのも好きなんだ」
天城の目が優しく輝く。
「君のこと、もっと知りたいな」
その一言が、透也の胸に深く響いた。
これまでは単なる相棒だったはずが、その言葉が心の中で大きく膨らんでいく。
「……僕のことなんて、別に面白くないですよ」
透也は照れ隠しのようにそう言ったが、天城は微笑みながら首を振った。
「そんなことない。僕は、真柴くんのことをもっと知りたいから」
その真剣な言葉に、透也の胸が再びざわつく。それが何を意味するのか、まだ分からないまま。
夕方、仕事が終わった二人は、いつものように一緒にオフィスを出た。
夕焼けに染まる街並みが二人を包み、柔らかな風が頬を撫でる。
「今日も一日お疲れさま。君と一緒にいると、本当に仕事がはかどるよ」
天城が優しい声で言うと、透也は小さく頷いた。
「僕も……天城さんと一緒だと、安心します」
その言葉を口にした瞬間、自分でも驚くほど自然だった。だが、透也の胸の中にはまだ、答えの見つからない感情が残っていた。
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二人は駅の改札の前で立ち止まった。
普段ならもっと自然に別れられるはずが、今日はなぜか名残惜しさを感じていた。
「……じゃあ、また明日ね」
天城が軽く手を振り、笑顔を見せる。
透也もそれに応えて小さく微笑んだ。
「はい、また明日」
二人は改札を挟んで別れ、各々の帰路に着いた。だが、その夜、透也は自分の心に芽生え始めた新しい感情と向き合いながら、眠れないままベッドの中で悩み続けていた。
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