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第1章 相棒の始まり
04話「新たな衝突」
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プロジェクトは佳境を迎え、クライアントからの追加要望が次々に入ってきた。
「この部分の色味をもう少し柔らかく……いや、全体的に明るい印象に……でも派手すぎないように」
曖昧な注文に、透也は慎重に修正を重ねていた。しかし、進捗が遅れることを懸念した天城は、その様子を見て軽く眉を寄せた。
「真柴くん、もう少しスピード重視で進めた方がいいと思うんだけど」
「……けど、このままだと完成度が下がります」
透也は画面を見つめたまま淡々と答えるが、その声には微かな苛立ちがにじんでいた。
天城は腕を組み、深呼吸するように息を吐く。
「今の段階なら、多少の修正はあとでもできる。先に全体を仕上げて提出しよう」
「それでは、結局手戻りが増えるだけです」
「……君は、どうしてそんなに慎重なんだ?」
天城が感情的に問いかけると、透也は冷静なまま答える。
「僕は質を重視しています。クオリティを守らない仕事は意味がありません」
「でも、僕たちはチームなんだ。時には割り切って進めることも必要だろう?」
その言葉に、透也は目を細めて天城を見た。
「それが営業の仕事ですか?」
天城はその一言に思わずムッとし、口元を引き締めた。
「営業だって必死なんだよ。真柴くんにはそれが分からないの?」
「……分かりませんね」
二人のやり取りを見かねた天城の同僚である竹内樹が、ため息をついて口を挟んだ。
「まあまあ、二人とも落ち着けよ。仕事なんだからさ」
天城は視線を逸らし、苛立ちを抑えるように肩をすくめた。透也もまた言葉を飲み込み、沈黙する。
樹と同様に隣で見ていた透也の同僚、遠山綾香が気まずそうに笑いながら、当たり障りのないように助言を放つ。
「ええっと、お互いの立場を理解するのも大事だよ思うよ?」
しかし、二人の間に漂う緊張感は簡単に拭えるものではなかった。
その日の午後、二人はそれぞれ黙ったまま自分の席に戻った。
透也は画面を見つめながら自分が頑なすぎたのだろうか、と悩み始める。
妥協することが悪いわけではないと頭では理解しているが、心がそれを拒んでいた。
§
翌朝、二人は気まずい雰囲気のまま再会した。
お互いに言葉を探しながら、ぎこちなく向き合う。
「昨日は……その、すみません。言い過ぎました」
透也が小さな声で謝ると、天城は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「いや、僕も悪かったよ。ごめんね」
短い謝罪と笑顔に、透也の胸の奥にわずかな温かさが広がった。それでも、まだ完全に分かり合えたわけではない。
二人の間に生まれた溝が、少しずつ埋まっていく感覚があった。
「この部分の色味をもう少し柔らかく……いや、全体的に明るい印象に……でも派手すぎないように」
曖昧な注文に、透也は慎重に修正を重ねていた。しかし、進捗が遅れることを懸念した天城は、その様子を見て軽く眉を寄せた。
「真柴くん、もう少しスピード重視で進めた方がいいと思うんだけど」
「……けど、このままだと完成度が下がります」
透也は画面を見つめたまま淡々と答えるが、その声には微かな苛立ちがにじんでいた。
天城は腕を組み、深呼吸するように息を吐く。
「今の段階なら、多少の修正はあとでもできる。先に全体を仕上げて提出しよう」
「それでは、結局手戻りが増えるだけです」
「……君は、どうしてそんなに慎重なんだ?」
天城が感情的に問いかけると、透也は冷静なまま答える。
「僕は質を重視しています。クオリティを守らない仕事は意味がありません」
「でも、僕たちはチームなんだ。時には割り切って進めることも必要だろう?」
その言葉に、透也は目を細めて天城を見た。
「それが営業の仕事ですか?」
天城はその一言に思わずムッとし、口元を引き締めた。
「営業だって必死なんだよ。真柴くんにはそれが分からないの?」
「……分かりませんね」
二人のやり取りを見かねた天城の同僚である竹内樹が、ため息をついて口を挟んだ。
「まあまあ、二人とも落ち着けよ。仕事なんだからさ」
天城は視線を逸らし、苛立ちを抑えるように肩をすくめた。透也もまた言葉を飲み込み、沈黙する。
樹と同様に隣で見ていた透也の同僚、遠山綾香が気まずそうに笑いながら、当たり障りのないように助言を放つ。
「ええっと、お互いの立場を理解するのも大事だよ思うよ?」
しかし、二人の間に漂う緊張感は簡単に拭えるものではなかった。
その日の午後、二人はそれぞれ黙ったまま自分の席に戻った。
透也は画面を見つめながら自分が頑なすぎたのだろうか、と悩み始める。
妥協することが悪いわけではないと頭では理解しているが、心がそれを拒んでいた。
§
翌朝、二人は気まずい雰囲気のまま再会した。
お互いに言葉を探しながら、ぎこちなく向き合う。
「昨日は……その、すみません。言い過ぎました」
透也が小さな声で謝ると、天城は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「いや、僕も悪かったよ。ごめんね」
短い謝罪と笑顔に、透也の胸の奥にわずかな温かさが広がった。それでも、まだ完全に分かり合えたわけではない。
二人の間に生まれた溝が、少しずつ埋まっていく感覚があった。
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