3 / 21
第1章 相棒の始まり
03話「小さな歩み寄り」
しおりを挟む
透也と天城の関係は、どこかギクシャクしたまま数日が過ぎた。
互いの感情がすれ違ったまま仕事を進める中、透也は黙々とデザインの修正を続け、天城はクライアントとの連絡を取りながらプロジェクトの進行を急ぐ。二人は言葉を交わすことが必要最低限になり、どちらも心のどこかで、相手に歩み寄るきっかけを見つけられないままでいた。
その日の午後、天城がクライアントとの電話を終えて透也の席に戻ってきた。
「デザインの最終確認が明日までに欲しいって。あと、細かいところは任せるってさ」
透也は軽く頷くだけで返事をした。
天城の言葉がどこか楽しげに聞こえ、透也は内心は不安に陥りながらも口に出さなかった。
しばらくして、天城が透也の手元を覗き込み、画面に映るデザインを見つめた。
「これ、すごくいいじゃん。クライアントも絶対気に入るよ」
「いえ、まだ完成ではないです」
「えー。完成してなくても、もう十分素敵だと思うけどな」
その言葉に、透也の胸に何か温かいものが広がった。彼は素直に褒められることに慣れていなかったため、戸惑いを隠せなかったが、悪い気はしない。
§
翌日、透也は一つの案を天城に見せることにした。
「このバリエーションも考えたのですが、どうでしょう?」
「いいじゃん! これ、クライアントにも提案しようよ」
その瞬間、透也の中で一つの疑問が解けた気がした。
天城は決して軽率ではなく、ただ物事を前向きに捉える人間なのだ、と。
彼の明るさは、その場限りの楽観ではなく、本気でプロジェクトを成功させようとする姿勢から来ているのだと気づいた。
昼休み、天城が突然言った。
「ねえ、真柴くんってデザインする時、何を一番大事にしてる?」
「……伝わることです。形にするだけでなく、相手に伝わるものを作りたいと思っています」
天城は真剣な表情でその言葉を聞き、しばらくの間考え込んでから微笑んだ。
「なるほど。真柴くんのデザイン、そういうところがいいんだな」
透也は一瞬だけ驚いたが、すぐに不器用ながらも微笑みを返した。
プロジェクトが一歩前進した感覚を覚えたのはその日の夕方だった。
「今日はありがとう。おかげでプロジェクトも上手く進んでるよ」
「いえ、僕も大変勉強になっています」
その日、二人は言葉にはしなかったものの、どこかお互いに対する見方が変わり始めていた。
まだ完全な理解には至っていないが、小さな一歩を踏み出した感覚をどこかで共有していく。
互いの感情がすれ違ったまま仕事を進める中、透也は黙々とデザインの修正を続け、天城はクライアントとの連絡を取りながらプロジェクトの進行を急ぐ。二人は言葉を交わすことが必要最低限になり、どちらも心のどこかで、相手に歩み寄るきっかけを見つけられないままでいた。
その日の午後、天城がクライアントとの電話を終えて透也の席に戻ってきた。
「デザインの最終確認が明日までに欲しいって。あと、細かいところは任せるってさ」
透也は軽く頷くだけで返事をした。
天城の言葉がどこか楽しげに聞こえ、透也は内心は不安に陥りながらも口に出さなかった。
しばらくして、天城が透也の手元を覗き込み、画面に映るデザインを見つめた。
「これ、すごくいいじゃん。クライアントも絶対気に入るよ」
「いえ、まだ完成ではないです」
「えー。完成してなくても、もう十分素敵だと思うけどな」
その言葉に、透也の胸に何か温かいものが広がった。彼は素直に褒められることに慣れていなかったため、戸惑いを隠せなかったが、悪い気はしない。
§
翌日、透也は一つの案を天城に見せることにした。
「このバリエーションも考えたのですが、どうでしょう?」
「いいじゃん! これ、クライアントにも提案しようよ」
その瞬間、透也の中で一つの疑問が解けた気がした。
天城は決して軽率ではなく、ただ物事を前向きに捉える人間なのだ、と。
彼の明るさは、その場限りの楽観ではなく、本気でプロジェクトを成功させようとする姿勢から来ているのだと気づいた。
昼休み、天城が突然言った。
「ねえ、真柴くんってデザインする時、何を一番大事にしてる?」
「……伝わることです。形にするだけでなく、相手に伝わるものを作りたいと思っています」
天城は真剣な表情でその言葉を聞き、しばらくの間考え込んでから微笑んだ。
「なるほど。真柴くんのデザイン、そういうところがいいんだな」
透也は一瞬だけ驚いたが、すぐに不器用ながらも微笑みを返した。
プロジェクトが一歩前進した感覚を覚えたのはその日の夕方だった。
「今日はありがとう。おかげでプロジェクトも上手く進んでるよ」
「いえ、僕も大変勉強になっています」
その日、二人は言葉にはしなかったものの、どこかお互いに対する見方が変わり始めていた。
まだ完全な理解には至っていないが、小さな一歩を踏み出した感覚をどこかで共有していく。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
さよならの向こう側
よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
絵
YOHJI様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる