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chapter. 4

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「暁!」
「おい!大丈夫か!?」
「気分悪い?」

頭を抱えていた手を掴まれ、引っ張られたことに驚いて顔を上げれば、そこには少し息を乱した三人がいて。

「え…? 樹享しゅう恒晟こうせい…それに、碧斗あおと?」

そう。攻略対象様三人が俺を囲んでいた。

「なんでここに?」

俺がそう告げると「はああぁぁぁ…」と大きな大きなため息と共に、恒晟がその場にしゃがみ込む。碧斗は膝に手を置いて中腰。俺の手引っ張ったのは樹享、ということになるか。
学年が違う三人が一年の教室にいるだけでざわめきが大きくなるし、なんなら女子に至っては遠巻きに、きゃあきゃあとはしゃいでいる。

無理もない。なんせ学校で人気の先輩ばかりなのだ。

これもゲームの仕様だろう。
そんな三人が集まっているのだ。しかも、普段なら遠巻きに見ている憧れの先輩が、だ。
だが俺はこの三人の誰かが『狐』になっていることを知っている。
『自分の願い』を叶えるために、生徒を犠牲にするような『狐』に。

ついでに言うと、このゲーム。攻略対象がランダムなのもクソなんだけど、それ以上にEDがほぼバッドしかないという誰得なものになっている。
つまり、主人公はどうあがいても大変な目に合うのだ。

これでよく乙女ゲーなんて言えたな。クソが!

…という恨みのこもった推薦状の最後の行に、こう綴られていたことに涙を禁じ得ない。
まぁ、全ルートバッドで終わったり、よく分からんが攻略対象者がぐちゃみそだったり、四肢切断だっりとグロで終わるゲームもあったりするから油断ができない。
これも乙女ゲーとして発売されたけど、開発者は一度乙女ゲーが何なのか調べてほしいものである。
それもあって俺を含めたクソゲーハンターは喜んでプレイするんだけどな。
その度に思うことがあるんだ。

これ、時間の無駄じゃね?

と。
虚無の時間を過ごしたりすることも多いが、やはりクソゲーはいいものだ、と思ってしまうのはなぜなのだろうか。
だが忘れてもらっては困る。クソゲーの中でもいい所はあるのだ。
それ以上にクソが上回るんだけどさ。

現にBGMがいい、バグが少ない、内容がスッカスカなだけ、声優がいい、それだけで大賞を逃した作品も多々あるのだ。
…ノミネートされるだけで不名誉なんだけどそんな中で、大賞3連覇できる会社とかあるからな。
ただ不評や不満だけで決まるものではないということを記しておきたい。
セーブがそよ風のように消え去るバグや、進行不能バグ、特定のことをするとバグ、何もしていないのにフリーズ、それらが組み合わさって初めてKOTYにノミネートできるのだから。

っと話がずれた。
俺を心配そうに見つめてくる三人だが、実をいうとこの時点で『狐』が誰か分かっているのである。
これも大賞に選ばれた一つの理由。

それぞれの顔を見てから頭を見つめれば、誰が『狐』なのかが判明できてしまう。
うーん…。謎にしたいんだかしたくないんだか…。

「暁がおかしくなった、って聞いて慌てて来たんだよ」
「あー…悪い…」
「本当に大丈夫なのか?」
「ん。平気。でもなんでそんなピリピリしてんの?」
「……………」

可愛らしく?首を傾げて見せれば三人が息を飲んだ。

「それは…」
「お前たち!」

恒晟が口を開いた瞬間、先生の声がして生徒全員の視線が三人から先生へと向けられる。
すでに本鈴が鳴っていたらしい。都合がいいのか、はたまたただ単に時間だったのか。
『狐』が決まった時点でそれは分からない。
「席に着けー」と告げる先生の声に、クラスメイト達が俺たちをちらちらと見ながらも席についていく。
俺は、というとしゃがんだまま。
それに気付いた先生が「門田屋敷かどやしき立石寺りっしゃくじ小見おみ。お前たちも早く教室に戻れ」と呆れたように告げる。

「先生。暁、具合が悪いみたいなので保健室に連れて行きます」
「…五月七日つゆり、そうなのか?」
「あー…」

さてどうしたものか。
この時点で『狐』をどうにかすれば、俺はバッドエンドを回避できる…かもしれない。なんせこの先にある選択肢をはさんで、ひたすら怠い会話を進めるだけのボタン連打ゲーに変わるのだから。
でも、物語通りにここで授業を受けてもいい。けれど『狐』がいる以上、何をしでかしてくるか分からないが。
とはいっても大したことはしてこない…はずだ。今のところは。
なら一人で対処をしてもいいはず。

「だ…」
「はい。顔色が悪いので連れて行きますね」
「ちょ…ちょっと碧斗?!」
「先輩を付けなさい。暁」
「あ、すんません」

恒晟に言われて首をひっこめれば「ごめんね」と慌てて頭を撫でられる。

「…五月七日」
「はい」
「保健室に行ってきなさい」
「ぁ、はい」

先生にそう言われ樹享に支えてもらいながら立ち上がれば、ずとしゃがんでいたせいか足がしびれ倒れこむ。
俺の身体を樹享が抱き留めてくれて倒れることはなかったが、それを見た先生が「確かに具合が悪そうだ」と納得させる理由にもなったようだ。

「暁。倒れると危ないから背負っていくぞ」
「いいよ。歩けるって」
「ダメ。さっきみたいにまた倒れそうになったらどうするの」
「えぇー…」

こいつら…。足がしびれただけだって分かっているのにこれだ。
いきなり好感度MAXは伊達じゃない。

「ほら。乗れ」

そう言って既に背負う準備をしている恒晟を見て引きそうになるが、ここはクソゲーとはいえ乙女ゲーの世界。これが普通なのだろう。
違う気もするけど。

「先輩!」
「門田屋敷は昨日横抱きで帰っただろう?」
「それは…!」
「いいよ。恒晟…じゃない、立石寺先輩、お願いします」
「もちろん」

にこりと微笑む恒晟を間近で見た女子は頬を染め、中には机に突っ伏して震えている。
流石『王子様』と呼ばれているだけはある。
そんな『王子様』オーラをまともに浴びたんだ。そうなるか。
ぎゅっと手を握っていた樹享をちらりと見てから、恒晟の背中に覆いかぶさる。

あ、なんかいいにおいする。

「よいしょ」
「おわ!」
「落としたりしないから大丈夫だよ」
「分かってますよ」
「でも危ないからしっかり捕まっててね」
「はぁーい」

恒晟に言われて、腕を回すと身体がぴったりと密着する。
腿に手が触れていることに気恥ずかしさを感じ、つい肩に額を押し当てれば、ざわりとざわついた。

「ほら、早く行きなさい」
「では、失礼します」

頭を下げてたのか俺の身体も少し下がると、碧斗が動く気配がする。樹享は相変わらず後ろにいるのか動かない。
恒晟が動き出しから樹享も動く。少しの振動を感じていると、恒晟の背中が意外に広いことに気付く。
こいつ、細マッチョ系だったのか…。
意外な発見をしながらも顔を押し付けたままでいると、やっぱり樹享が俺の頭を撫でてくる。
ホントに頭撫でるの好きだな。
誰もいない廊下を三人の足音だけが響く。
授業中だから静かに、ってのもあるけどさ。

頭を撫でられたまま保健室にたどり着くと、保険医の先生がぎょっとしたように俺たちを見たのだった。



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