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194.お墓参り
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大旦那さまの薔薇は今年も咲いた。
あゆたは鉢植えから一輪だけ鋏んで棘も綺麗に取った。学校の購買に売ってあった細いリボンを結んだ。大事にそっと手に持って、ひとりでお墓参りに行こうと玄関へ向かったら、途中に待ち構えていた八月一日宮も着いてくるという。
「別に、ただの墓参りだぞ?」
「ええ、ご一緒させてください。ご挨拶かたがた」
その言い方にあゆたは喉の奥に小石を放り込まれたように言葉が出なかった
「……挨拶って……」
ようやくぼそっと返すと、八月一日宮はにこりと微笑んだ。
「息子さんに結婚を前提に交際を申し込んだという報告ですね」
どういう顔をしたらいいかわからないから、不機嫌そうになってしまう。
嬉しくないのではない。むしろあゆたなんかを大事にしてくれていると感じ入るばかりだ。でも、墓石とはいえ大旦那様に八月一日宮を見せるのはちょっと照れくさいのだ。
「……いいけど」
「ふふ、かわいい」
ぶすっとしてもぐもぐ言うあゆたの頭のてっぺんに八月一日宮はキスをしてくる。これが日常だからあゆたのほうも、八月一日宮のスキンシップにはだいぶ慣れてきた。
八月一日宮邸に引っ越してからは、自分の細々とした荷物だけではなく、ずっと世話をしてきた梅渓の庭や鉢植えのことが気がかりだった。
発情期も終わり体調が落ち着いてからは、親方にお礼を言ってアルバイトに復帰した。
梅渓の家を出た話をすると、親方は目に見えてほっとして「それがいい」とだけ言って頷いた。
あゆたが大旦那さまがいなくなってからも梅渓にいたことを、親方は気にかけていてくれたから、親方にもいらぬ心労を与え続けた。
おしゃべりな人ではないから心の奥でさぞやきもきさせたことだろうと、あゆたは前にもまして親方のもと、アルバイトを頑張ろうと決めた。
あゆたは鉢植えから一輪だけ鋏んで棘も綺麗に取った。学校の購買に売ってあった細いリボンを結んだ。大事にそっと手に持って、ひとりでお墓参りに行こうと玄関へ向かったら、途中に待ち構えていた八月一日宮も着いてくるという。
「別に、ただの墓参りだぞ?」
「ええ、ご一緒させてください。ご挨拶かたがた」
その言い方にあゆたは喉の奥に小石を放り込まれたように言葉が出なかった
「……挨拶って……」
ようやくぼそっと返すと、八月一日宮はにこりと微笑んだ。
「息子さんに結婚を前提に交際を申し込んだという報告ですね」
どういう顔をしたらいいかわからないから、不機嫌そうになってしまう。
嬉しくないのではない。むしろあゆたなんかを大事にしてくれていると感じ入るばかりだ。でも、墓石とはいえ大旦那様に八月一日宮を見せるのはちょっと照れくさいのだ。
「……いいけど」
「ふふ、かわいい」
ぶすっとしてもぐもぐ言うあゆたの頭のてっぺんに八月一日宮はキスをしてくる。これが日常だからあゆたのほうも、八月一日宮のスキンシップにはだいぶ慣れてきた。
八月一日宮邸に引っ越してからは、自分の細々とした荷物だけではなく、ずっと世話をしてきた梅渓の庭や鉢植えのことが気がかりだった。
発情期も終わり体調が落ち着いてからは、親方にお礼を言ってアルバイトに復帰した。
梅渓の家を出た話をすると、親方は目に見えてほっとして「それがいい」とだけ言って頷いた。
あゆたが大旦那さまがいなくなってからも梅渓にいたことを、親方は気にかけていてくれたから、親方にもいらぬ心労を与え続けた。
おしゃべりな人ではないから心の奥でさぞやきもきさせたことだろうと、あゆたは前にもまして親方のもと、アルバイトを頑張ろうと決めた。
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