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192.決闘は受けて立つ

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「……八月一日宮くんって見る目ないよね」

 蜂須賀はぼそりと言った。あゆたは目を瞠った。それだけで、今朝早くに家を出た八月一日宮の用が察せられた。あゆたに話したように八月一日宮は蜂須賀にきちんと謝ったのだろう。

「蜂須賀……」

 八月一日宮があゆたと恋人になったと、あゆたに断りもなく吹聴しないと思う。

 静かなままあゆたが見上げていると、蜂須賀はぼそぼそと言った。

「八月一日宮くんは付き合っている相手のこと、何も言ってないよ。僕は頭がいいし、勘もいいから」

 八月一日宮は言わなかったのに、あゆたと付き合っていると蜂須賀は確信しているらしい。

「鶯原くん、これ、あげる」

 ピンク色の包み紙の飴をあゆたは蜂須賀の掌から摘まみ上げた。

「……いただく」

 あゆたが飴をどうしようか迷っていると、蜂須賀はくしゃりと顔を歪めて笑った。

「……それ、何だと思う? 発情促進剤だよ。ねぇ、本当に八月一日宮くんのこと好きなら、それ、今この場で口に入れてみせてよ」

 あゆたは蜂須賀の白い顔を黙って見上げていた。

 蜂須賀の目の色に悲しみが満ちていた。蜂須賀は彼なりに本気で八月一日宮のことが好きだったのだろう。
 
 あゆたは飴の包みを開けた。薄赤い飴はいちごの香りがした。それをあゆたは口に放り込んだ。

 蜂須賀は鋭く息を飲んだ。

「信じられない……!」

 彼らしくなく非難するように小さく叫ぶ。

 周りのクラスメイトから何事かというふうにこちらに視線が集まった。

 蜂須賀は行儀悪く舌打ちをした。ぷりぷり怒り出した蜂須賀にきょとんとして、あゆたはいちごの味が舌の上へ溶けていくのを感じていた。

「馬鹿じゃないの! 本当に薬だったらどうするつもりだったの?!」

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