189 / 202
188.親友への挨拶
しおりを挟む
運命の番という縁で出会った八月一日宮だが、八月一日宮があゆたの出会ったあの八月一日宮でなければ、たぶん究極的にはあゆたは付き合おうとは思わなかっただろう。
かけがえのないひとだ。そしてその人があゆたを気遣ってくれる。あゆたも彼を大事にしたかった。
制服のシャツの白い襟から覗いている黒いチョーカーは特別な金属の糸を縫い込まれた特製で、丈夫さとデザイン性を兼ね備えている。
皮膚に触れるところはかぶれたり擦れたりしないよう、なめし皮のような丈夫で柔らかい素材になっていた。
シンプルな見かけだが、信夫があゆたに薦めるぐらいだ。値段を聞くようなやぼなまねはしないが推して量るべしだ。
「あゆたくん、おはよう!」
三階へ続く廊下を歩いていると、後ろから於兎の声が追いかけてきた。ぱたぱたと急ぎ足の足音が上って来るのにあゆたは振り返って於兎を待った。
「おはよう、於兎」
いつも通りの挨拶だった。
於兎はあゆたの隣に並んだ。
「三日? だっけ? 早退してからお休みだったから、なんだか久しぶりの感じだね。もう元気になったんだね、よかったね」
あゆたより少し低い目線が、おやっというようにあゆたの首筋に行く。
「その、チョーカー……」
いきなりチョーカーを着け始めたあゆたに於兎は驚いているようだった。それとも以前からオメガだと感じていただろうか。
色恋沙汰なんて興味なかったし、パートナーの気配なんてまったくなかったあゆただ。黙っていたことを責められても仕方ないと覚悟を決めつつ、あゆたは於兎の長い睫毛がぱちぱちと上下するのを見下ろしていた。
「それって、マサリカヴァじゃない?!」
「……あ? まさかり場?」
「違うよ、マサリカヴァ! あゆたくんってほんとファッションに興味ないね」
ブランド名を憶えず、なんとなくショッパーのロゴしか認識していなかったあゆたが首を傾げると、於兎はかぶりを激しく振った。
「光の反射でちょっときらきらするでしょ?」
確かに刺繍のアクセントとして小さな透明な粒が縫い付けてある。あくまで上品な控えめな輝きで、あゆたも気にしていなかった。
かけがえのないひとだ。そしてその人があゆたを気遣ってくれる。あゆたも彼を大事にしたかった。
制服のシャツの白い襟から覗いている黒いチョーカーは特別な金属の糸を縫い込まれた特製で、丈夫さとデザイン性を兼ね備えている。
皮膚に触れるところはかぶれたり擦れたりしないよう、なめし皮のような丈夫で柔らかい素材になっていた。
シンプルな見かけだが、信夫があゆたに薦めるぐらいだ。値段を聞くようなやぼなまねはしないが推して量るべしだ。
「あゆたくん、おはよう!」
三階へ続く廊下を歩いていると、後ろから於兎の声が追いかけてきた。ぱたぱたと急ぎ足の足音が上って来るのにあゆたは振り返って於兎を待った。
「おはよう、於兎」
いつも通りの挨拶だった。
於兎はあゆたの隣に並んだ。
「三日? だっけ? 早退してからお休みだったから、なんだか久しぶりの感じだね。もう元気になったんだね、よかったね」
あゆたより少し低い目線が、おやっというようにあゆたの首筋に行く。
「その、チョーカー……」
いきなりチョーカーを着け始めたあゆたに於兎は驚いているようだった。それとも以前からオメガだと感じていただろうか。
色恋沙汰なんて興味なかったし、パートナーの気配なんてまったくなかったあゆただ。黙っていたことを責められても仕方ないと覚悟を決めつつ、あゆたは於兎の長い睫毛がぱちぱちと上下するのを見下ろしていた。
「それって、マサリカヴァじゃない?!」
「……あ? まさかり場?」
「違うよ、マサリカヴァ! あゆたくんってほんとファッションに興味ないね」
ブランド名を憶えず、なんとなくショッパーのロゴしか認識していなかったあゆたが首を傾げると、於兎はかぶりを激しく振った。
「光の反射でちょっときらきらするでしょ?」
確かに刺繍のアクセントとして小さな透明な粒が縫い付けてある。あくまで上品な控えめな輝きで、あゆたも気にしていなかった。
1
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
僕にとっての運命と番
COCOmi
BL
従兄弟α×従兄弟が好きなΩ←運命の番α
Ωであるまことは、小さい頃から慕っているαの従兄弟の清次郎がいる。
親戚の集まりに参加した時、まことは清次郎に行方不明の運命の番がいることを知る。清次郎の行方不明の運命の番は見つからないまま、ある日まことは自分の運命の番を見つけてしまう。しかし、それと同時に初恋の人である清次郎との結婚話="番"をもちかけられて…。
☆※マークはR18描写が入るものです。
☆運命の番とくっつかない設定がでてきます。
☆突発的に書いているため、誤字が多いことや加筆修正で更新通知がいく場合があります。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
【完結】あなたの妻(Ω)辞めます!
MEIKO
BL
本編完結しています。Ωの涼はある日、政略結婚の相手のα夫の直哉の浮気現場を目撃してしまう。形だけの夫婦だったけれど自分だけは愛していた┉。夫の裏切りに傷付き、そして別れを決意する。あなたの妻(Ω)辞めます!
すれ違い夫婦&オメガバース恋愛。
※少々独自のオメガバース設定あります
(R18対象話には*マーク付けますのでお気を付け下さい。)
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
もし、運命の番になれたのなら。
天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(α)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。
まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。
水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。
そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる