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187.新しい記号
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まばらに歩く生徒たちに紛れあゆたも教室を目指す。
校舎の廊下を曲がった時、丁度窓ガラスに映る自分の顔が目に入った。制服を着た自分が映っていたのを認めた瞬間、あゆたは目を逸らす。
今までにない、あゆたにとっては大きな変化が直視できなかった。
(息、苦しい感じがする……)
つい指を差し入れて緩めるような仕草をしてしまう。誰が見ているわけではないのに、自意識過剰もいいところかもしれない。
チョーカーはオメガを表す記号のように感じて、窮屈さを感じていたが、自分を守ってくれるのだと思えば受け入れることができた。
たぶん八月一日宮があゆたの複雑な心境を理解しようとしてくれたおかげもある。
『あゆたさんは嫌かもしれませんが、俺の我が儘です。これ、着けて下さい。お願いします』
思い詰めたような真剣な面持ちで八月一日宮は頭を下げ、両手を差し出した。その手にはショッパーが握られていた。
そこにあるブランドマークに見覚えがあった。いつだったか信夫があゆたに薦めてきたものと同じだった。それはオメガの項を守るためのチョーカーの、オーダーメイドのブランドのマークだった。
『抵抗あるかもしれません。でも、あゆたさんはもうオメガとして成熟してしまって……、不慮の事故だなんて、絶対に起こって欲しくないんです』
八月一日宮は必死な様子だった。あゆたに危険な目にあって欲しくない、不意にヒートに陥って万が一アルファに噛まれでもしたら怖いと、切々と訴えてきた。ほとんど泣き落としのような勢いだった。
『わかった』
あゆたがあっさり頷くと、八月一日宮は目に見えてほっとした。
八月一日宮はあゆたがチョーカーを窮屈だと思う居心地の悪さを八月一日宮が理解してくれると示していた。
自分の為だし、なにより八月一日宮の安心の為だと思えばチョーカーもどうということもない。
ホテルに連れ込まれ無理矢理発情期にさせられた時の恐怖と、無防備な自分への心許なさを経験したせいもあるだろう。
今は亡き家族と信夫以外で、あゆたに親身になってくれるひとができた。
それは奇跡のようなことだった。
校舎の廊下を曲がった時、丁度窓ガラスに映る自分の顔が目に入った。制服を着た自分が映っていたのを認めた瞬間、あゆたは目を逸らす。
今までにない、あゆたにとっては大きな変化が直視できなかった。
(息、苦しい感じがする……)
つい指を差し入れて緩めるような仕草をしてしまう。誰が見ているわけではないのに、自意識過剰もいいところかもしれない。
チョーカーはオメガを表す記号のように感じて、窮屈さを感じていたが、自分を守ってくれるのだと思えば受け入れることができた。
たぶん八月一日宮があゆたの複雑な心境を理解しようとしてくれたおかげもある。
『あゆたさんは嫌かもしれませんが、俺の我が儘です。これ、着けて下さい。お願いします』
思い詰めたような真剣な面持ちで八月一日宮は頭を下げ、両手を差し出した。その手にはショッパーが握られていた。
そこにあるブランドマークに見覚えがあった。いつだったか信夫があゆたに薦めてきたものと同じだった。それはオメガの項を守るためのチョーカーの、オーダーメイドのブランドのマークだった。
『抵抗あるかもしれません。でも、あゆたさんはもうオメガとして成熟してしまって……、不慮の事故だなんて、絶対に起こって欲しくないんです』
八月一日宮は必死な様子だった。あゆたに危険な目にあって欲しくない、不意にヒートに陥って万が一アルファに噛まれでもしたら怖いと、切々と訴えてきた。ほとんど泣き落としのような勢いだった。
『わかった』
あゆたがあっさり頷くと、八月一日宮は目に見えてほっとした。
八月一日宮はあゆたがチョーカーを窮屈だと思う居心地の悪さを八月一日宮が理解してくれると示していた。
自分の為だし、なにより八月一日宮の安心の為だと思えばチョーカーもどうということもない。
ホテルに連れ込まれ無理矢理発情期にさせられた時の恐怖と、無防備な自分への心許なさを経験したせいもあるだろう。
今は亡き家族と信夫以外で、あゆたに親身になってくれるひとができた。
それは奇跡のようなことだった。
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