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143.信夫の怒り

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「接待でカジノ行かれてるってことですけど、どういったお付き合いなのか、僕のほうも把握してなくてですね。一部、あるいはほとんどが架空の相手、というか、これ信善さんの個人的なお付き合いとか個人の遊興費で賄うべきところですよね? どういうことでしょうか? 子会社からの借入金のほとんどを、信善さんがカジノで溶かしたっていう理解しかできないんですけど」

 滔々と流れるように説き伏せて、信善はぐうの音も出ない様子だった。

「信善さんの私的流用ですよね?」
「ち、違う」

 喘ぐようにそれだけ言うと信善は顔を歪めた。

「……そうですね。信善さんにも言い分はあるでしょう」

 追い詰める手を緩めるように信夫は肩を竦めた。それに息を吹き返したように信善は口の端をひくつかせて笑った。

「はは! そうだ、見当はずれの言いがかりだ。俺は経営者だぞ?! 自分のグループ会社に不利になるような、そんな馬鹿な」
「そうですね、経営者ですよね。僕と同じ立場の」

 信夫はじっと信善を見据えた。

「上場企業の経営者が、個人的な賭け金のため、私的流用、つまり横領した、だなんて。ありえませんよね。これは背任行為ですもの。すぐに調査委員会を組織して調査を進めます」
「な……?!」
「安心してください。正当な手続きを踏みますよ。信善さんも自分の潔白を証明できるんですから、そこで言い分は聞かせて下さいね」

 絶句した信善に止めを刺すように信夫はにこりと微笑んだ。

「まさか横領でわが社に損害を与えただなんて、そんなスキャンダル、ありえませんよねぇ? もしそうなら立派な特別背任罪で刑事訴訟だ。もう内々で済ませられるレベルじゃない」
「しのぶ……?」

 信善の声はかすれている。

 何が起きているのかわからない。しかし信夫が激怒しているのはあゆたにもわかった。信善を経営者として断罪しようとしているのも何となく理解できた。

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