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129.始まりの焔*

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 どのくらいそうしていただのだろう。

 空調が効いて室温は一定のはずなのに、妙に体が熱い。風邪を引いた時に似ている。喉が渇いてあゆたは目を覚ました。

 一瞬の混乱に飛び起きたが、自分がホテルのクローゼットに寝ていたことはすぐに思い出された。
 
 呟いた口の中が熱を持っている。制服のブレザーを着たままだったせいかもしれない。シャツの胸の辺りが汗ばんで不快だった。

「あつい……」

 あゆたはブレザーを脱いでそこらへ放り出した。ネクタイも締め付けてきて嫌だったからしゅるしゅると外す。シャツのボタンをぷつぷつと外していく時、不意に自分の胸が胸先をかすめた。

「あ」

 びりびりと何かが走ってあゆたはそのまま倒れ込んだ。受け止めてくれたクッションの縫い目に顔を擦り付ける。清潔な布地は何の匂いもしない。

(なんだこれ……)

 何故、ここにいないのだろう。

 あゆたのアルファは。
 
 すんすんと鼻を鳴らして、探し求めてもやはりここにはいない。

(わからない……)

 いつも平淡なことの多いあゆたなのに。情緒がおかしい。

(これが、発情期なのか……?)

 そうすると今日が初日だ。個人差はあるだろうが、これからどんどんフェロモンが放出され、それにつれて理性は薄れていくらしい。三日から一週間続く。

 あゆたは成熟も遅く、たぶん比較的軽い方なのだと思う。薬がなくても今のところまだ思考できるだけの余裕はあった。

 ただ体が火照るし、臍の下辺りから緩やかな情欲が滲みだしている感覚がある。明らかにいつもと違った。


「くそ……っ」

 性に淡白でほとんど普段なら自慰もしない。それなのに。

(むらむらする……)

 これが発情するということか。

 口寂しくて、あゆたは自分の指をくわえた。ちゅぅっと吸うと、余計に喉が渇いた。耳の付け根がどくどく脈打っている。

 人差し指と中指を二本まとめて加える。口の中に堪っていく唾液。ぬるぬるとそれをまぶすようにしゃぶった。

「あ、……は……」

 口寂しさを紛らわしていると、足の間が切なくなった。内股をすりつけるとぢ……ん、と痺れが走る。

「や……なんで……」

  濡れた指がうまくジッパーをつまめない。もどかしい。ちゅるりと逃げていく小さな金具をなんとか摘まむ。ちりちりと引き下ろすと、窮屈になっていたそこが少しだけ楽になった。
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