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126.八方ふさがりの闇

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 口答えもできずソファでぼんやりするあゆたの気力を削ったことに満足したのか、信善は何事かさらに嫌味を吐き捨てて出て行った。あゆたはもう何も聞いてはいなかった。

 逃げられないのだと知らしめるように、がちゃりと鍵のかかる音は大きかった。

(こんなことをしなくても、逃げられないのに)

 臆病なほど慎重な信善のやり口に、あゆたはあざ笑うように苦く笑った。
 
 じっとしていると体の火照りが少しずつ強くなってくるのを感じた。いつまでも座り込んでいることもできず、あゆたはふらふらと寝室へと移動した。広々としたキングサイズのベッドが一台置かれていて、あゆたは怖気が立った。

 リビングの家具と統一感のあるチェストや鏡台。ウォークインクローゼットに入ると、予備のクッションや寝具などが片づけてあった。

 座るのもつらくなりそうなので、隅っこに毛布やクッションを広げて簡易の寝床をこさえる。電気を消せば祖母の家の納戸を思い出させる狭さと暗がりに、少しだけ息がしやすくなった。
 
 状況は何も変わっていないけど。
 
 胸を圧迫されるような息苦しさ。微熱のもたらす散漫とした思考。あゆたは枕を抱えて怪我をした動物のように身を丸めた。オメガは発情期を抑制剤やパートナーのアルファの助けで乗り切る。初めてのそれにただでさえ不安は募るのに、薬すら飲めないなんて。

(どこにもに居場所なんてない)

 梅渓の家以外、あゆたに行き場所なんてない。

 親友の於兎や親方なら泣きつけばあゆたを匿ってくれるだろう。

 しかし梅渓とあゆたの確執に巻き込むことはできない。

 あゆたを欲しがっているという奇特なアルファと契約を結んでいることを盾に、信善は親方を訴えるだろう。

 飛鳥井家に嫌がらせをするかもしれない。

 あゆたの保護者である梅渓は警察に届け出ることもできるのだ。絶対に迷惑をかけたくない人々に、関わりあって欲しくなかった。 
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