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120.自分という存在の不確かさ

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 あゆたの存在が悪いのだろうか。
 
 梅渓に来て、否定で存在をすり潰されそうになった。
 
 自分は悪くない。
 
 あゆたはずっとそう自分に言い聞かせて必死で反発した。
 
 母が父と出会って恋に落ちたことも、その末に自分が生まれたことのも、なにも悪くない。
 
 悪くないと自分に言い聞かせてきた。
 
 そうしなければ、生きていけなかった。
 
 いつも誰からでも責められ、お前も死ねばよかったのに悪しざまに貶められた。
 
 自分は悪くないと言い聞かせなければ、あゆたは立ちいかなかった。
 
 愛してくれた母と祖母があゆたを生かそうとしてくれたのだ。だから歯を食いしばって立っていた。悪意も侮蔑も平気なふりで対峙した。

 砂のように体が崩れ落ちそうになっている。

 いるだけで疎まれるあゆたを、これ以上どうやって守ればいいのか。

「自分の義務を果たせ」

 地の底から這い出るような響きに、あゆたは体の力を抜いた。

 ――疲れたな、と思う。

 座席に虚脱する体を受け止められながら、自分の細胞のひとつひとつがほろほろと崩れていくようだった。あゆたはもう信善を見ることもできず窓の方に顔をむけた。後ろへ後ろへと風景が流れていく。

「お前のせいで梅渓の家はばらばらだ。お前とお前の母親のせいだ」

 呪詛のように信善の言葉は続いた。

「お前とお前の母親のしたことの尻ぬぐいは必ずしてもらう」

 追い打ちをかけるようになおもあゆたを貶める。

 窓ガラスにおぼろに映る信善の横顔は口を歪めて笑っていた。

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