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96.唐突な申し出

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「別に誰が八月一日宮のこと好きになっても、それは鶯原くんに関わりのないことだよね」

「前にも言ったけど、俺は紹介しないからな」

 先程熱っぽい感じがしたからか、じっと立ってるのがしんどいような気がしてくる。蜂須賀との会話は疲れるせいもあるかもしれない。 

「もちろん、憶えてるよ。でも僕が自主的に八月一日宮くんと知り合って仲良くなるのは自由でしょ? だってただの委員会の先輩と後輩なんだもん」

 広い校内で知り合いになるのは個人の自由だし、あゆたには何も言うことはない。

「それは……八月一日宮の勝手だ。俺の口出しすることじゃない」

 我が意を得たりというように蜂須賀は、ぱちんと両手を合わせた。

「じゃあさ、この後ちょっと外してくれる?」

「待ち合わせしてるから、勝手にどっかに行くわけにはいかない」

 八月一日宮がここに来るから、あゆたが席を外すわけにはいかない。約束しているのにすっぽかすことになる。

「大丈夫、すぐすむから」

 蜂須賀は長い睫毛に縁どられた目でぱちりとウィンクしてみせた。

「帰りも八月一日宮くんは一緒なの?」
「さぁ……。明日は俺が用事あるから別だけど」

 昼食の時にそういう流れになったら一緒に帰るかもしれないが、今朝は特に何も言及していなかった。

「ふーん。いつも一緒だね」
「そうか?」

 よくわからない。八月一日宮には八月一日宮の付き合いがあるだろうし、実際彼がどういう交友関係を持っているのかあゆたは知らない

 ただ於兎も言っていたように、人気があるので一緒に行動する友人には困っていないだろうというのは想像できた。先週はあゆたの怪我のせいで拘束してしまったが、今週は少しずつ別々になっていくだろう。

「十分、十五分後にここに戻ってきてくれる?」
「なんで?」

「八月一日宮くんと親しくなりたいんだ。うまくいったら、僕達はここにはいないから。鶯原くんはそのお弁当、ひとりで食べてくれる?」

「は? あいつの分もあるし、ひとりで食べ切れない」

「じゃあ、持って帰るか、捨てるのいやなら誰かにあげれば? 居候先の、梅渓家の跡取りとかいるんでしょ?」

 信夫とは戸籍上は叔父と甥だが、世間では引き取られた先の令息と居候のような間柄ということになっている。

 それで不都合はないのだが、捨てる代わりに、八月一日宮の為の弁当をあえて世話になっている先の令息である信夫に上げるというのは飛躍しすぎだ。信夫は気にしないだろうが、一般的に結構失礼なことではないだろうか。

(捨てるのはもったいないし、合理的ではあるけど……)

「……いや、蜂須賀に指図されることじゃないから」

 むっつりと眉根を寄せると、蜂須賀は大げさに首を竦めた。

「やだ、怒らないでよ。鶯原くん、威圧的だから怖いよ」

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