97 / 202
96.唐突な申し出
しおりを挟む
「別に誰が八月一日宮のこと好きになっても、それは鶯原くんに関わりのないことだよね」
「前にも言ったけど、俺は紹介しないからな」
先程熱っぽい感じがしたからか、じっと立ってるのがしんどいような気がしてくる。蜂須賀との会話は疲れるせいもあるかもしれない。
「もちろん、憶えてるよ。でも僕が自主的に八月一日宮くんと知り合って仲良くなるのは自由でしょ? だってただの委員会の先輩と後輩なんだもん」
広い校内で知り合いになるのは個人の自由だし、あゆたには何も言うことはない。
「それは……八月一日宮の勝手だ。俺の口出しすることじゃない」
我が意を得たりというように蜂須賀は、ぱちんと両手を合わせた。
「じゃあさ、この後ちょっと外してくれる?」
「待ち合わせしてるから、勝手にどっかに行くわけにはいかない」
八月一日宮がここに来るから、あゆたが席を外すわけにはいかない。約束しているのにすっぽかすことになる。
「大丈夫、すぐすむから」
蜂須賀は長い睫毛に縁どられた目でぱちりとウィンクしてみせた。
「帰りも八月一日宮くんは一緒なの?」
「さぁ……。明日は俺が用事あるから別だけど」
昼食の時にそういう流れになったら一緒に帰るかもしれないが、今朝は特に何も言及していなかった。
「ふーん。いつも一緒だね」
「そうか?」
よくわからない。八月一日宮には八月一日宮の付き合いがあるだろうし、実際彼がどういう交友関係を持っているのかあゆたは知らない
ただ於兎も言っていたように、人気があるので一緒に行動する友人には困っていないだろうというのは想像できた。先週はあゆたの怪我のせいで拘束してしまったが、今週は少しずつ別々になっていくだろう。
「十分、十五分後にここに戻ってきてくれる?」
「なんで?」
「八月一日宮くんと親しくなりたいんだ。うまくいったら、僕達はここにはいないから。鶯原くんはそのお弁当、ひとりで食べてくれる?」
「は? あいつの分もあるし、ひとりで食べ切れない」
「じゃあ、持って帰るか、捨てるのいやなら誰かにあげれば? 居候先の、梅渓家の跡取りとかいるんでしょ?」
信夫とは戸籍上は叔父と甥だが、世間では引き取られた先の令息と居候のような間柄ということになっている。
それで不都合はないのだが、捨てる代わりに、八月一日宮の為の弁当をあえて世話になっている先の令息である信夫に上げるというのは飛躍しすぎだ。信夫は気にしないだろうが、一般的に結構失礼なことではないだろうか。
(捨てるのはもったいないし、合理的ではあるけど……)
「……いや、蜂須賀に指図されることじゃないから」
むっつりと眉根を寄せると、蜂須賀は大げさに首を竦めた。
「やだ、怒らないでよ。鶯原くん、威圧的だから怖いよ」
「前にも言ったけど、俺は紹介しないからな」
先程熱っぽい感じがしたからか、じっと立ってるのがしんどいような気がしてくる。蜂須賀との会話は疲れるせいもあるかもしれない。
「もちろん、憶えてるよ。でも僕が自主的に八月一日宮くんと知り合って仲良くなるのは自由でしょ? だってただの委員会の先輩と後輩なんだもん」
広い校内で知り合いになるのは個人の自由だし、あゆたには何も言うことはない。
「それは……八月一日宮の勝手だ。俺の口出しすることじゃない」
我が意を得たりというように蜂須賀は、ぱちんと両手を合わせた。
「じゃあさ、この後ちょっと外してくれる?」
「待ち合わせしてるから、勝手にどっかに行くわけにはいかない」
八月一日宮がここに来るから、あゆたが席を外すわけにはいかない。約束しているのにすっぽかすことになる。
「大丈夫、すぐすむから」
蜂須賀は長い睫毛に縁どられた目でぱちりとウィンクしてみせた。
「帰りも八月一日宮くんは一緒なの?」
「さぁ……。明日は俺が用事あるから別だけど」
昼食の時にそういう流れになったら一緒に帰るかもしれないが、今朝は特に何も言及していなかった。
「ふーん。いつも一緒だね」
「そうか?」
よくわからない。八月一日宮には八月一日宮の付き合いがあるだろうし、実際彼がどういう交友関係を持っているのかあゆたは知らない
ただ於兎も言っていたように、人気があるので一緒に行動する友人には困っていないだろうというのは想像できた。先週はあゆたの怪我のせいで拘束してしまったが、今週は少しずつ別々になっていくだろう。
「十分、十五分後にここに戻ってきてくれる?」
「なんで?」
「八月一日宮くんと親しくなりたいんだ。うまくいったら、僕達はここにはいないから。鶯原くんはそのお弁当、ひとりで食べてくれる?」
「は? あいつの分もあるし、ひとりで食べ切れない」
「じゃあ、持って帰るか、捨てるのいやなら誰かにあげれば? 居候先の、梅渓家の跡取りとかいるんでしょ?」
信夫とは戸籍上は叔父と甥だが、世間では引き取られた先の令息と居候のような間柄ということになっている。
それで不都合はないのだが、捨てる代わりに、八月一日宮の為の弁当をあえて世話になっている先の令息である信夫に上げるというのは飛躍しすぎだ。信夫は気にしないだろうが、一般的に結構失礼なことではないだろうか。
(捨てるのはもったいないし、合理的ではあるけど……)
「……いや、蜂須賀に指図されることじゃないから」
むっつりと眉根を寄せると、蜂須賀は大げさに首を竦めた。
「やだ、怒らないでよ。鶯原くん、威圧的だから怖いよ」
1
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
僕にとっての運命と番
COCOmi
BL
従兄弟α×従兄弟が好きなΩ←運命の番α
Ωであるまことは、小さい頃から慕っているαの従兄弟の清次郎がいる。
親戚の集まりに参加した時、まことは清次郎に行方不明の運命の番がいることを知る。清次郎の行方不明の運命の番は見つからないまま、ある日まことは自分の運命の番を見つけてしまう。しかし、それと同時に初恋の人である清次郎との結婚話="番"をもちかけられて…。
☆※マークはR18描写が入るものです。
☆運命の番とくっつかない設定がでてきます。
☆突発的に書いているため、誤字が多いことや加筆修正で更新通知がいく場合があります。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
【完結】あなたの妻(Ω)辞めます!
MEIKO
BL
本編完結しています。Ωの涼はある日、政略結婚の相手のα夫の直哉の浮気現場を目撃してしまう。形だけの夫婦だったけれど自分だけは愛していた┉。夫の裏切りに傷付き、そして別れを決意する。あなたの妻(Ω)辞めます!
すれ違い夫婦&オメガバース恋愛。
※少々独自のオメガバース設定あります
(R18対象話には*マーク付けますのでお気を付け下さい。)
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
もし、運命の番になれたのなら。
天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(α)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。
まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。
水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。
そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる