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82.あなたの目の濁りを拭い去りたい

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 あゆた自身はちっとも自立していないのが皮肉なことだ。あゆたは心の奥で自嘲した。

 しがらみと過去と血があゆたをがんじがらめに縛りつけている。

 祖母が死んで以来、自分が自由に呼吸をしたのはいつだったろうか。

 自由になりたいのは自分のほうだ。

 そういうふうに感じる自分は恩知らずで薄情なのだろう。

 大旦那様の遺言がありがたいのに、本当に時折まるで枷をはめられたように重くのしかかってくるのだ。

(いや駄目だ。恩返しなのだから。ここまで何不自由なく養ってくれた梅渓へ、恩返しのつもりでいなければ)

 そうでなければ罰が当たる。自分は恵まれているのだから。恩知らずと陰口をたたかれるのは慣れているが、率先して自分がそれを標榜することはない。

「俺はそんな大したやつじゃないよ。尊敬してくれてるのは嬉しいけどさ」
「あゆたさんは凄い人ですよ」
「ははは、目が濁ってるんじゃないか」
「……あゆたさん」

 堂々巡りになりそうになったタイミングを見計らったように、女将さんが開いた皿を引いてくれた。鍋の中にはまだ蕎麦が残っている。

「伸びる前に食べろよ」
「そうですね」

 八月一日宮はまだ食い下がりそうな表情をしたが、あゆたが食事の続きを促すと素直にまた蕎麦の椀に口をつけた。

「薬草園のほう、もうちょっと見ればよかったな」

「うちも大昔は薬問屋だったんですよ。もしかしたらあそこの薬草も扱っていたかも」

「でもお前んちは関西だろ。関西といえば、今日言っていた玉澗流のすごい庭があってな、いつか行きたいんだよなぁ。ついでに南下して山のほうの寺の庭も見たいんだ」

「……関西に行きたい、ですか」

 ぽつりとつぶやく。八月一日宮から振られるまで関西の話題はしないようにしていたのに。夢中になって忘れた自分にあゆたは頭を抱えた。

 八月一日宮は俯き加減のまま表情を変えていない。

 しかしいつも朗らかな八月一日宮がだまると、その顔の作りが端正なことも手伝って、少し怖いような空気を漂わせる。

「いつか、行けたらいいですね」
「う、うん……」
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