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65.対岸の火事に巻き込まないで欲しい
しおりを挟む「おい、蜂須賀、もういいだろう」
まだ話したそうな蜂須賀を遮って、あゆたは八月一日宮を背中に庇うように蜂須賀の前に立った。
「八月一日宮、すまないな、引き留めて」
肩越しに早く行けというふうに手を振ったら、飲み込んだ八月一日宮は無言でうなずいて踵を返した。
「あ、行っちゃったぁ」
蜂須賀はさして落胆したふうでもない。
どっと肩の力が抜けた。
(疲れた……)
八月一日宮がこういう接触を嫌がっているらしいので、それに自分が加担していることへの罪悪感と疲労が凄まじい。
やれやれ……と嵐をやり過ごした後のように息を吐いて、あゆたも教室へ入ろうとした。
「ちょっと、鶯原くん!」
先ほどの愛嬌が嘘のように打って変わって蜂須賀は目を吊り上げている。
「あ? 今度は何だ」
「なんだはないでしょ。もうちょっと八月一日宮くん引き留めてくれてもいいじゃない」
ぷりぷりと文句を言う蜂須賀にあゆたは呆気にとられた。
最初からあゆたは蜂須賀に協力するなんて承諾した覚えはなかった。
「あのなぁ、八月一日宮は教室に戻らなきゃいけない、次の授業に間に合う為にはすぐ行かなきゃだろ。お前は俺のクラスメイトだが友人ではないのに、何故お前の要求が聞き入れられると思った? それに以前に言ったはずだ、そういう類の協力はできないって」
声を荒げたわけではないが、日頃無口なあゆたが立て板に水の勢いで反論すると、気炎を上げていた蜂須賀はたじろいだように唇を尖らせた。
「そうだけどぉ」
「俺の意志は変わってない。今のは不可抗力だったしはなはだ不本意だった。同じことは二度とやらない」
「そんなぁ」
蜂須賀はわざとらしく両手の指を組んで目をうるうるさせている。
「俺をだしに使うのはや、め、ろ。八月一日宮も明らかにどうしたらいいか困ってたじゃないか」
「そうかなぁ? そんなことないと思うけど」
首を傾げながら、涙目であゆたを見上げる。懲りてない。
そうやれば大抵のアルファは言うことを聞いてくれるのだろう。
あゆたは聞えよがしに大きなため息を吐いた。
「兎に角、俺を巻き込むな」
「あぁん、鶯原くん!」
蜂須賀は何か言いかけたが、無視してあゆたは教室に入った。
蜂須賀とはどうせ隣の席なのだが、これ以上交渉の余地はないのだと示す為に背を向ける。
急ぎ足もできないしゆっくりと椅子を引いて、体を投げ出すように座わった。
隣の席についたらしい蜂須賀が時折こちらに視線をやってきたが、頑としてそちらを向かないことにした。
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