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25.ふきこまれる怨嗟

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 信善が愚痴をこぼしていくうちに、空気は気のせいではなく重くなる。アルファである信善から威嚇のフェロモンが漏れ始めているのだ。ここで嫌な顔をすれば、また叱責の種になる。務めて無表情であゆたは詫びた。

「はい。すみません」

「誰に似たんだか。うちの家系ではないな」

「すみません」

 典型的なアルファの一族である梅渓にはオメガはほとんど生まれない。あゆたのオメガとしての不具合は、すべて母方のせいだろうと決めつけるような言いぐさだった。

「父さんはとんだ置き土産を残してくれたよ。てっきり慈善事業の一環で昔馴染みの孫を引き取ったと思ったんだが、とんだ不始末だな。本当に忌々しい」

 苦々しそうに信善は唇を歪めた。言葉が降り注がれる度に、憎しみの汚泥の中に沈められるように感じた。

 捻挫で立っているだけで辛いのに、あゆたは頭に錘を載せられたように重くなっていく。足が痛いから失礼するだなんて言えば、絶対に癇癪を起される。返事をしなければそれでまた、平気な顔をして反省してないなどと嫌味を言われる。あゆたは俯いたまま立っているしかなかった。

「お前の母も我儘が過ぎる。いい面の皮だ。婚外子など、いくらでも始末できただろうに。日陰の身ならわきまえて、それらしく堕ろせばよかったんだ」

 母のことをあげつらわれることが一番堪える。自分が矢面なのはいい。しかし母への侮蔑は見逃せない。

 息が詰まりそうになりながら、母の遺影を思い浮かべて自分を奮い立たせた。あゆたはごくりを唾を飲み込んだ。

「俺のことは、何を言われてもいいです、でも母は、悪くありません」

 あゆたの反抗が予想外だったのか、気に障ったのか、信善は一瞬不快そうに顔を歪めたが、すぐに嘲笑を浮かべた。

「は! 大した厚かましさだな」

 母は悪くない。ただ、恋に落ちただけだ。それだけだ。
 
 大旦那様に別れを切り出したのも母のほうだ。孫かわいさに祖母が連絡を取ってしまったのは咎かもしれないが、それも母がいなくなってからのことだ。母には関係ない。くじけそうになりながら必死で母を弁明した。


「母は、一度だって大旦那様に連絡しなかった。大旦那様がご自分で突き止められて、それで」

「うるさいうるさい! 黙れ!」

 言い終わらないうちに一喝されて、あゆたは口を引き結んだ。

 取り乱した自分に驚いたように信善はばつが悪そうに横を向いた。
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