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24.梅渓家当主の言い分

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 やはり、血の繋がりだろう。
 信善はその父である大旦那様とどこか似ている。ちょっとしたしぐさや雰囲気など、やはり父と子なのだと思わせる瞬間があった。

 だからこそ、あゆたの心はちくちくと針で刺されるように痛む。

 血のつながりのある人に厭われる苦しさで、あゆたはますます息ができなくなる。
 暗がりにうずくまるあゆたを認め、信善はぎゅっと眉根を寄せた。

「そこで何をしている。さっさと離れに行け」

 いつも通り取り付くしまもない。あゆたはよろよろと立ち上がる。痛みはひどいが、ここでぐずぐずするほうがもっと辛いことになるのは目に見えていた。

「あの、学校に提出する書類があって、それで」

 あゆたが背後の休憩室のほうを一瞬振り返ると、信善もちらりと視線をそちらにやった。舌打ちを堪えるような面持ちで信善は猛然と歩き出した。

 よけようとしてできなかった。信善が傍らを通り過ぎた時、すれ違いざま、あゆたの肩に信善の腕がぶつかったのだ。どんと体中に痛みが走った。あゆたは痛みに声もでなかった。

「っ……」

 小動もしなかった信善の足音はそのまま休憩室のほうへ消えていく。跳ね飛ばされるようにぶつかった壁に、あゆたは凭れてやりすごした。

 痛みが治まってきて、あゆたはまた態勢を直した。信善がいない間にさっさと退散するに越したことはない。壁に片手を添えて、一歩踏み出してみる。いけそうだった。あゆたはほっと肩の力を抜いた。

「おい」

 よろよろと歩き出した背中に、信善の声が飛んでくる。あゆたが振り向いた。大股でこちらに戻ってくる信善の手には白っぽい何かが握られていた。

「手を煩わせるな」

 ずいっとこちらに差し出されたのは欠席届だった。押し付けるようにされたそれを受け取る。

「すみません、ご面倒を」

 あゆたがぺこりと頭を下げると、信善が上の方でせせら笑った。

「本当に。面倒ばかりかけられる」

 何も言えずにあゆたは手元の種類に目を落とした。保護者の欄にちゃんと署名がしてあるのを確かめる。明後日登校してこれを出せばいい。授業の遅れは……、一日位なんとかなる。ノートを見せてくれるあてもひとりだけいる。どうしてもわからないなら教師に聞きに行けばいい。

「あゆた」
「……はい」

 明日からの段取りをつらつらと考えていたあゆたの返事は遅れた。
 信善がじろじろあゆたを眺めていた。あからさまに見られて戸惑うあゆたにかかずらうことなく信善は言った。

「発情期は?」

 かっと顔が熱くなる。信善は平然としている。あゆたの羞恥やプライバシーなんてとるに足らないというように。屈辱に耐えながら、あゆたは言葉を押し出した。

「まだ、来ていません」

 信善はふんと鼻を鳴らした。

「……ただでさえ厄介者のお荷物なのに、発情期もまだだとは……。出来損ないにもほどがある。せめてオメガとしてこの家に役に立てるぐらいしか利用価値がないというのに」

 むきつけの悪意というものは、どんな時でも身の竦むような気持ちにさせられる。心構えしてぶつけられて、慣れているとはいて憂鬱になってしまう。

「すみません」

 嘆かわしいというように聞えよがしに信善は続けた。

「せいぜい私に迷惑をかけないよう、梅渓に恥をかかせないでくれ。わかっているだろうな」

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