金色の恋と愛とが降ってくる

１４．信夫の懸念

「明日からどうするんです？　僕の車に乗りますか？」

　跡継ぎである信夫はどこに行くにも使用人の送迎が常だった。
　あゆたは鼻をふんと鳴らした。絶対嫌だった。

「明日は、念のために休む。明後日からは、八月一日宮が迎えに来るって」
「へえ、八月一日宮くんが」

　その言い方に含むものを感じ取ってあゆたは鼻筋に皺を寄せた。

「……なんだよ」

　何も、というふうにかぶりを振ったが、信夫は明らかにおもしろがっている。

「しばらくバイトも休まないと。親方に迷惑かけちまうな」
「それはどうとでもなるでしょう。あそこは弟子も多いですし」

　信夫は親方のことが苦手だ。同じくアルファで、オメガのあゆたの近くにいる親方に対して、警戒と縄張り意識が本能的に働くのだろう。大旦那様亡き後でも、その友人である親方が梅渓の庭にいまだに出入りするのが気に喰わないのかもしれない。

「オメガなのに、アルファにまじって働くなんて」

　信夫はぼそりと溜息を吐いた。
　万が一間違いでも起こったら。
　言外に信夫はそう心配している。時々信夫は過保護になる。大旦那様に頼まれたからといって、代わりにあゆたの身辺に目を光らせる必要もないというのに。

「あゆたさんはいつまでベータっぽく振舞うつもりです？」
「別に、ベータのふりはしていない」

　勝手に周りがベータだと勘違いするだけだ。
　だから八月一日宮には驚いたのだ。
　八月一日宮は初めからあゆたをオメガだと決めつけていた様子だった。

「あなたはオメガだ」
「わかってるよ」

　信夫は鼻息を吐いた。

「……八月一日宮くんに限って、馬鹿なことはしないと思いますが、十分気をつけて下さいよ」
「は？　何言い出すんだ。馬鹿らしい。八月一日宮はめちゃくちゃいい子だぞ」

　あゆたは憤慨して眉根を寄せた。そういう色眼鏡で八月一日宮を、彼との関わりを見られているのは心外だった。

「馬鹿はあなたです」

　じゃりりと信夫の靴の下で石が鳴る。大旦那様の隠居所はひっそりと夕闇に溶け込んでいる。玄関の硝子戸の前には人目を避けるように大きな椿の木がある。冬になるとぽたぽたと赤に白い筋の入った珍しい花が咲く。濃い、つやりとした葉は瑞々しく茂り、足が治ったらすこし枝を整えてあげたい時分だった。