金色の恋と愛とが降ってくる

５．私立華頂学園

　あゆたの通っている私立の華頂かちょう学園は、都内では進学校として有名な中高一貫校の男子校である。総人口のうち、バースの割合は大まかに比率としてはアルファ：ベータ：オメガ=２：７：1と言われている。
　この学園においては生徒のバースは六割のアルファと四割弱のオメガ、そしてごく少数ながらベータも在籍していた。

　一学年に五クラス。クラス分けは厳然たる成績順だ。以前はバースによるクラス分けだったが、この十年ほどで学制の改正があり、バース性の違いによるクラス分けは消えた。
　しかし突出したアルファの能力は土俵から違い過ぎて、完全なる成績順になるとアルファが偶発的に偏ってしまう。成績順に上から振り分けられるので、一組にはアルファが多いのは自然の成り行きだった。その為一組は通称アルファクラスなどとからかわれることもある。

　その上で、男子と女子では運動能力が違うのと同様に、差別ではなく区別としてアルファとオメガでは基礎体力や学力などで授業が分けてある。バース性ゆえ必要なサポートをそれを必要とする生徒にも細やかに差し伸べられていた。優秀な生徒へ援助は惜しまず、なおかつ弱者に優しい。中三の半ばで公立中学から華頂学園へ編入するにあたり、校風などを調べたあゆたも感心したものだ。
　
　もちろんオメガの中にも能力的にベータと変わらない、時にはアルファに匹敵するような優秀な者もいるが、それは特異な例であり、だからこそオメガで社会的に成功している者は少ない。自立し成功を収めるオメガは稀有だからこそ、雑誌で紹介されたりニュースの話題になるのは皮肉なことだった。
　
　オメガの社会進出が著しい現代においても、いわゆるオメガらしいオメガもいる。大多数のオメガはアルファと番うものだというのが共通の理解だった。
　アルファとオメガが番い子を生すと、遺伝的に優秀なアルファが生まれることが研究の結果から明らかになっている。そういう理由から名家に生まれたオメガと婚姻することは、アルファのステイタスのひとつになっているらしい。

　アルファは時に無分別に自分のオメガを求めるという。それは本能に根差したもので、アルファはオメガに惹かれる傾向にある。しかし昔から多くの国では、生殖できる男女ならアルファ同士の婚姻も認められている。

　アルファやオメガは自分の番を得たいという遺伝子に擦り込まれた欲求が強い。しかしただでさえ人口の少ないアルファとオメガは一般的な生活を営みつつ、自然な成り行きで遭遇することは珍しいと言ってよい。

　そういう意味ではバース性に関わらず、この学校には素晴らしい血統、優秀な頭脳や特技を持つ学生が集まっている。学校データを一通り調べた時、特に卒業生からの寄付金が全国のどの私立校よりも群を抜いて多額であることに驚いた。

（アルファの莫大な寄付金で学校は運営され、在校生はここで番を見つける機会に恵まれる。ここで出会った番の家族が子を生し、その子がまたここに入学して……）

　学びの場としてだけではなく、ここに通うことで必然的に出会いの機会が増えるという副次的な恩恵に気づいて、納得したものだ。数が多くないうえ、自然と出会う確率が少ないアルファとオメガの出会いの場という意味合いもあるし、どのバースであれ将来へ向けて社会的な繋がりを作る場としても機能している。学園にはそう意味でも名門や旧家などが集まっているようだった。

　アルファは優秀なオメガと出会いたい。優秀だが恵まれない環境のオメガは教育が与えられる。双方にビネフィットをもたらす学校であることは確かだった。

　なので、かなり俗物的ではあるが、主に卒業した有力なアルファたちや保護者が感謝の気持ちを込めて寄付金を惜しまない、というのが実態だろう。

　でもおかげであゆたのように天涯孤独なオメガが返済不要の奨学金を得、恵まれた学びの場で自立の為に勉強することができるのだから、そこは素直に篤志家へ感謝している。