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希望の船
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~数か月後~
「世界会議のお集りの皆様、ポトポト代表のミリアです。この会議が開かれるにいたるまで、多くの戦いがありました、多くの人々が傷つきました」
「戦いのはじまりはなんだったのか?すべては互いの『希望』と『恐怖』から始まりました。我々の希望は他人にとって、『傷つけられるかもしれない』という恐怖でもあったのです」
「しかし、この世界に住む人たちが本当に必要としているものは、ごくごく単純であまりにも当然なものです。自らの自由と、家族の安全です。」
「私たちはこの世界会議の会場がすべての人々にとって、『希望の船』となるように努力を続けなければなりません!!」
俺はラメリカのブラックハウス跡地で宇宙戦艦を修理しながら、テレビから流れる世界会議の様子を見ていた。
ポトポトにマグロを送り続けたおかげか、ミリアは世界会議で演説をできるまでになった。うむ、やはりお魚はちゃんと食べるもんだ。
「しかし、ようやくだな!!」
『ええ、宇宙戦艦の修理はほぼ完了しました。いつでも飛べますよ』
「「やったーでしゅ!」」
俺はコンテナを台にしたキツネさんたち一体一体とハイタッチをしていく。
……?なんか増えてね?
「……あれ?ナビさん、キツネさんたちなんか増えてない?」
『今まで気付かなかったんですか?宇宙戦艦の修理はともかく、維持にはとても数が足らなかったので増やしました』
「なんとまぁ」
『あとは最後にやるべきことがありますね』
「……なんかあったっけ?」
『この子、宇宙戦艦の名前をまだ決めていません』
「あっそうだった!……うーむ俺にはネーミングセンスがないからなあ」
『では私がクソダサい名前をランダムに発言します。機人様がご自分で名前を決めないと、この子の名前はそれになります』
「クソッ!!ナビめ!なんて非道なことを!!」
『宇宙戦艦ムサシ』
「王道だ、あまりに王道だが、故にこっぱずかしい」
『宇宙入植艦エイリク』
「赤毛のエイリクか?通好み過ぎて逆にキツいやつだな」
『旗艦ニーベルンゲン』
「ゲルマン神話のネタはこすり過ぎちゃってもう味がしないよね」
「うーむ……あ、そうだ」
俺はミリアの演説を思い出した。そういえば希望とか何とか言ってたな。
「ナビさん、いろんな言語で『希望』って並べてもらえる?」
『Cis. エルピス、アーシャ、エスポワール、シーワァン、アマル、ナディア……』
「最初のが良いな。シンプルに『エルピス』これでいこう」
『Cis. では艦の個体名は「エルピス」と登録しておきます』
「よし、では早速試運転と行こう!!」
『機人様の感情変数が気持ち悪いくらいに高まってますね』
「ガハハ!当たり前やろが!こんなのでみなぎらん男の子はおらんぞ!!」
俺は『エルピス』と名付けた宇宙戦艦の中に乗り込む。
乗り込み口は下艦橋の中にある。
まずは乗組員であるキツネさんたちを、バケツリレー方式で中に乗り込ませる。
この船を実際に動かしてくれるのは彼らだからな。
ん?いまなんかキツネじゃなくてネコを運んだような?
……気のせいか?
手を止めてキツネさんたちに怒られた。急いで続きをやらないと。
★★★
私は元神聖オーマ帝国宰相にして(中略)そして元正常会会長にして、現宇宙戦艦「エルピス」乗組員のネコマだ。
ククク……機人のやつ、まんまとだまされていたな。
こいつの言いだすことは信用できないと思ったが、なかなかにやるではないか。
「侵入に成功したぞ、次はどうする?」
「フフ、もちろん艦のコントロールを奪う。我々は特別な存在なのだ……」
私ことネコマをこの艦に潜り込ませたのは他でもない、目本のファーザーを名乗るキツネだ。彼はかわいらしくしっぽをふりふりして歩きながら、おごそかに邪悪な計画を語り始めた。
「復讐の味とは甘くてクリーミィで素晴らしいものだ。まずは機関を乗っ取り、機人を孤立させるのだ。奴をある場所へと送り届ける」
「そのある場所とは一体どこだ?」
「フフ……機人の悲鳴が誰にも聞こえない場所だ。そう『宇宙』だ!!」
★★★
俺はブリッジの一段高い場所にある艦長席に座った。
目の前の窓からは、暗い格納庫の壁を見える。
建物一階下くらいの高さの差があるブリッジの下の方では、キツネさんたちがせわしなく動き、「エルピス」発艦のための準備を進めていた。
『艦内全機構異常なし、エネルギー値は正常範囲内です』
『補助エンジン動力接続、パワーオンライン』
補助エンジンに火が入り、エルピスがまるで目覚めた獣のようにうなりはじめる。
『回転1600温度800』
「融合炉の温度が高すぎる、急がなくていい。少し出力を下げさせろ」
『はいです!』
『メインエンジンの始動シーケンスを開始します。各エンジンの同調開始』
『レーザー点火器を接続しました』
『点火1分前』
『カウントを開始します』
ああ、転生(?)してよかった。
他人のものとはいえ、まさか宇宙戦艦の艦長になれるとは、前の人生では想像すらしていなかった。
とはいえ今回は試運転で、ちょっとラメリカの周りを一周したら終わりだけどね。
水や食料はたんまり積んであるけど、この「エルピス」をつかってまですることは現状ないし、いまのところノープランだ。
「機人様、これが機人様の修理した宇宙戦艦なのですね」
「……うむ、ん?」
俺の隣りで体にぴったりとフィットした白いスーツを着て立っていたのはミリアさんだ。なんで?さっきまでテレビに出てたよね?
「……さっきまでテレビに出てなかったか?」
「あれは録画なので、せっかくなので、キツネさんたちにお願いして、潜り込みました。すみません」
「ンー!そうですぞ!せめて動画にしておきませんとな!これはビジネスになりますぞ!!初物と言うのはそれだけで値段が付きますからな!!」
チャールスまでいんのかい!!
ってことは……?
「ッス!せっかくなので」
「見にきました!」
「ごめんなさいね、機人様」
ポトポトの妖怪連中が勢ぞろいしてるし!!
「……いや、良いのだ。いずれ見せたくもあったしな」
(ナビさん?)
(仲間外れは可哀想でしょう?)
(んもー!)
格納庫の天井が開き、空が露わとなった。
陽光が降り注ぎ「エルピス」の白い艦影が浮き上がる。
美しい船だ。人の手でこれが作り出せたとはな。
『エンジン点火』
グンッっと艦が持ち上がり、シートに押さえつけられるような感覚を感じる。
エルピスは空を駆け登った。
『エンジン出力安定』
「……よし、このままラメリカの海岸をクルーズするとしよう」
「楽しみです!」
<ビーッ!!><ビーッ!!><ビーッ!!>
ふっと気が抜けた、まさにその時だった。
ブリッジに何かの異変を知らせる、耳障りな音が鳴り響いたのだ。
「世界会議のお集りの皆様、ポトポト代表のミリアです。この会議が開かれるにいたるまで、多くの戦いがありました、多くの人々が傷つきました」
「戦いのはじまりはなんだったのか?すべては互いの『希望』と『恐怖』から始まりました。我々の希望は他人にとって、『傷つけられるかもしれない』という恐怖でもあったのです」
「しかし、この世界に住む人たちが本当に必要としているものは、ごくごく単純であまりにも当然なものです。自らの自由と、家族の安全です。」
「私たちはこの世界会議の会場がすべての人々にとって、『希望の船』となるように努力を続けなければなりません!!」
俺はラメリカのブラックハウス跡地で宇宙戦艦を修理しながら、テレビから流れる世界会議の様子を見ていた。
ポトポトにマグロを送り続けたおかげか、ミリアは世界会議で演説をできるまでになった。うむ、やはりお魚はちゃんと食べるもんだ。
「しかし、ようやくだな!!」
『ええ、宇宙戦艦の修理はほぼ完了しました。いつでも飛べますよ』
「「やったーでしゅ!」」
俺はコンテナを台にしたキツネさんたち一体一体とハイタッチをしていく。
……?なんか増えてね?
「……あれ?ナビさん、キツネさんたちなんか増えてない?」
『今まで気付かなかったんですか?宇宙戦艦の修理はともかく、維持にはとても数が足らなかったので増やしました』
「なんとまぁ」
『あとは最後にやるべきことがありますね』
「……なんかあったっけ?」
『この子、宇宙戦艦の名前をまだ決めていません』
「あっそうだった!……うーむ俺にはネーミングセンスがないからなあ」
『では私がクソダサい名前をランダムに発言します。機人様がご自分で名前を決めないと、この子の名前はそれになります』
「クソッ!!ナビめ!なんて非道なことを!!」
『宇宙戦艦ムサシ』
「王道だ、あまりに王道だが、故にこっぱずかしい」
『宇宙入植艦エイリク』
「赤毛のエイリクか?通好み過ぎて逆にキツいやつだな」
『旗艦ニーベルンゲン』
「ゲルマン神話のネタはこすり過ぎちゃってもう味がしないよね」
「うーむ……あ、そうだ」
俺はミリアの演説を思い出した。そういえば希望とか何とか言ってたな。
「ナビさん、いろんな言語で『希望』って並べてもらえる?」
『Cis. エルピス、アーシャ、エスポワール、シーワァン、アマル、ナディア……』
「最初のが良いな。シンプルに『エルピス』これでいこう」
『Cis. では艦の個体名は「エルピス」と登録しておきます』
「よし、では早速試運転と行こう!!」
『機人様の感情変数が気持ち悪いくらいに高まってますね』
「ガハハ!当たり前やろが!こんなのでみなぎらん男の子はおらんぞ!!」
俺は『エルピス』と名付けた宇宙戦艦の中に乗り込む。
乗り込み口は下艦橋の中にある。
まずは乗組員であるキツネさんたちを、バケツリレー方式で中に乗り込ませる。
この船を実際に動かしてくれるのは彼らだからな。
ん?いまなんかキツネじゃなくてネコを運んだような?
……気のせいか?
手を止めてキツネさんたちに怒られた。急いで続きをやらないと。
★★★
私は元神聖オーマ帝国宰相にして(中略)そして元正常会会長にして、現宇宙戦艦「エルピス」乗組員のネコマだ。
ククク……機人のやつ、まんまとだまされていたな。
こいつの言いだすことは信用できないと思ったが、なかなかにやるではないか。
「侵入に成功したぞ、次はどうする?」
「フフ、もちろん艦のコントロールを奪う。我々は特別な存在なのだ……」
私ことネコマをこの艦に潜り込ませたのは他でもない、目本のファーザーを名乗るキツネだ。彼はかわいらしくしっぽをふりふりして歩きながら、おごそかに邪悪な計画を語り始めた。
「復讐の味とは甘くてクリーミィで素晴らしいものだ。まずは機関を乗っ取り、機人を孤立させるのだ。奴をある場所へと送り届ける」
「そのある場所とは一体どこだ?」
「フフ……機人の悲鳴が誰にも聞こえない場所だ。そう『宇宙』だ!!」
★★★
俺はブリッジの一段高い場所にある艦長席に座った。
目の前の窓からは、暗い格納庫の壁を見える。
建物一階下くらいの高さの差があるブリッジの下の方では、キツネさんたちがせわしなく動き、「エルピス」発艦のための準備を進めていた。
『艦内全機構異常なし、エネルギー値は正常範囲内です』
『補助エンジン動力接続、パワーオンライン』
補助エンジンに火が入り、エルピスがまるで目覚めた獣のようにうなりはじめる。
『回転1600温度800』
「融合炉の温度が高すぎる、急がなくていい。少し出力を下げさせろ」
『はいです!』
『メインエンジンの始動シーケンスを開始します。各エンジンの同調開始』
『レーザー点火器を接続しました』
『点火1分前』
『カウントを開始します』
ああ、転生(?)してよかった。
他人のものとはいえ、まさか宇宙戦艦の艦長になれるとは、前の人生では想像すらしていなかった。
とはいえ今回は試運転で、ちょっとラメリカの周りを一周したら終わりだけどね。
水や食料はたんまり積んであるけど、この「エルピス」をつかってまですることは現状ないし、いまのところノープランだ。
「機人様、これが機人様の修理した宇宙戦艦なのですね」
「……うむ、ん?」
俺の隣りで体にぴったりとフィットした白いスーツを着て立っていたのはミリアさんだ。なんで?さっきまでテレビに出てたよね?
「……さっきまでテレビに出てなかったか?」
「あれは録画なので、せっかくなので、キツネさんたちにお願いして、潜り込みました。すみません」
「ンー!そうですぞ!せめて動画にしておきませんとな!これはビジネスになりますぞ!!初物と言うのはそれだけで値段が付きますからな!!」
チャールスまでいんのかい!!
ってことは……?
「ッス!せっかくなので」
「見にきました!」
「ごめんなさいね、機人様」
ポトポトの妖怪連中が勢ぞろいしてるし!!
「……いや、良いのだ。いずれ見せたくもあったしな」
(ナビさん?)
(仲間外れは可哀想でしょう?)
(んもー!)
格納庫の天井が開き、空が露わとなった。
陽光が降り注ぎ「エルピス」の白い艦影が浮き上がる。
美しい船だ。人の手でこれが作り出せたとはな。
『エンジン点火』
グンッっと艦が持ち上がり、シートに押さえつけられるような感覚を感じる。
エルピスは空を駆け登った。
『エンジン出力安定』
「……よし、このままラメリカの海岸をクルーズするとしよう」
「楽しみです!」
<ビーッ!!><ビーッ!!><ビーッ!!>
ふっと気が抜けた、まさにその時だった。
ブリッジに何かの異変を知らせる、耳障りな音が鳴り響いたのだ。
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