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おてんば企画の男の娘(こ)・ジュリー

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 「男のくせに、ちゃらちゃらして花柄のスカートかよ。そんなに女を気どりたいんなら、俺たちとや〇せろ」というバッシングを受けながら、ジュリーは「やめてください」と答えるのがやっとであった。
 おてんば企画では、編集・記者が担当のジュリーこと樹里亜。おてんば企画の顔でもある『おてんばだより』というフリーペーパーのほか、地元の自治体や企業、教育機関の広報誌やホームページの取材におじゃまする機会の多いジュリーだが、珍しくこの日は建設業界のリクルーティング用のパンフレットの取材におじゃましていた。
 場所は、おてんば第一建設の現場にあるプレハブ造りの会議室である。会議室の窓からは、萌えるような新緑に包まれた公園が見えた。公園の隣には小学校があり、青空の下、子どもたちが校庭をかけずりまわっている光景が見てとれた。
 ご承知のように建設業協会は慢性的な人手不足。より多くの人材を集めようと各社躍起になっていて、人材採用のための広報物には力を注いでいたのだ。
 「今日は取材でお世話になります。おてんば企画の木村と申します」とあいさつをした途端、「おっ、あんた、おてんばプロレスのジュリーだろ。みんな知っているぞ」といい、取材先の広報責任者が騒ぎ出したのだから、これがまたたまらない。
 「あ、ほんとだ」「ジュリーだ、ジュリーだ」と口にしながら、ガテン系の男子社員たちが集まってきたのだ。人事課長だけでなく、常務さんや相談役まで。あのねー、見世物じゃないんだから、やめてほしいわ。
 後述するが、おてんばプロレスというのは、ジュリーが学生時代から参加している学生&社会人プロレス団体(もちろん任意のアマチュア団体である)で、ジュリー=男の娘(こ)という認識はあるらしく、それが前述のハラスメント発言(男のくせに花柄のスカートかよ)につながっていたのだ。
 もう慣れっことはいえ、「俺たちとや〇せろ」というひとことは余計だった。もちろん悪気があっていっているわけではなかったが、できることなら男どものあそこをハイヒールで蹴飛ばしてやりたい気分。それこそ「やれるものならやってみろ」といいたかったが、そこはビジネス上のつながりでのこと、おてんば企画の一社員としては微笑みを浮かべる以外になかったのである。
 「あの、それじゃ、インタビューに移らせていただきます。貴社では、どのような人材を求めていますか」なぁんて、こっちが一生懸命質問しようとしているに、「そんなことよりジュリーに彼氏はいるの?」とか、「結婚は考えている?」とか、悪気がないのはわかっているんだけど、外野の男どもがやかましすぎ。営業妨害(取材妨害)で訴えてやるからね。やめてやめてやめて。ていうか、やめろ。
 それでもどうにか取材の仕事をやり遂げたジュリーだったが、いざ校正の段階になってからが、さらに大変であった。校正のやりとりは主にメール(PDFファイルを用いた校正である)だったが、校正なんてどうでもいいと思っているのか、「建設会社の飲み会に出てほしい」とか「一緒に居酒屋へ行こう」とか、個人的な誘いが相次ぐようになったのである。
 ちょっと危ない話になるが、夕刻ともなるとジュリーの帰りを待ちぶせして、偶然を装いながら、食事に誘ってくる親父社員がいたのには驚かされた。
 「おっ、ジュリーじゃん。ちょうど俺、飯(めし)でも食べに行こうかなと思っているんだけど、一緒に行く?」とかなんとか、やたら誘ってくるけど、あのね、下心が見え見えなの。それってストーカーだから。
 これはたまたまだが、ガテン系の社員の中にジュリーの小・中学校時代の同級生がいたのは想定外だったかもしれない。その名を浩司君といい、ジュリーとは子供の頃によく遊んだという話をしているとか。しかもジュリーはお医者さんごっこが好きだったという話までしているらしく(そんな事実はありません‥‥ジュリー談)、なんとも支離滅裂な展開になってきた。「浩司とジュリーって幼馴染みなんだとさ」とか「学校帰りによく山の中でチューしたんだって」とか、根も葉もない噂だけがひとり歩きを始める状況。
 ちょっとちょっと、いっておくけど、当時は私もまだ男子だったわけだから(ていうか、正しくは今も男子だけど)、別に一緒に遊んだっていいでしょ。山の中ではチューこそしていないけど、みんなでセミを捕まえに行ったり、どんぐりを拾いに行ったりはしたかな。
 やがてジュリーが、野球のリトルリーグに参加するようになってからは、なんとなく遊ばなくなったけど、それでも浩司君って理科の実験が大好きで、ふだんは目立たないくせに、理科の時間だけはよく手をあげていたのを覚えている。
 とにかく「根も葉もない噂をまき散らすのはやめて」と声を大にしていいたいジュリーだったが、そこは男臭いガテン系の建設会社のこと、フェロモン出しまくりのジュリーの超絶美女ぶりには、みんなメロメロだったのである。
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