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4.ルアルの正体
しおりを挟む「あ……」
「悪かった、なかなか来られなくてってぇ、おい!」
僕は彼の姿を捉えた瞬間、その長い脚にしがみついていた。会うのなんて二回目なのに。僕が触れることなんておこがましいくらいのヒトなのに。でも……。
「あ、会いた、かった……です…………ぐすっ」
ルアルはしゃがみこんで僕と目線を合わせるとそっと抱き寄せてくれた。相変わらず冷たい手だけど、でもやっぱり僕を包む仕草は優しくて胸がきゅうっとなる。そのまま彼は僕の横に座って僕を寄りかからせて話し出す。
僕はルアルのことを少し教えてもらうことができた。
彼は月の光が顕現した姿なんだとか。屋敷のあの部屋にある古い呪術のかかった鏡に月の光が写りこんだときにだけこの世界でヒトの姿をとれるんだって。だから悪天候や曇で月が出なければ現れることができないし、月の出が早朝だと光が弱すぎて顕現できないらしい。
夕方にしっかりとした月の光があって、さらに鏡に写りこむタイミングでないとこの時間には来られないのだとか。しかも鏡を窓辺からこっちに向けて置かないとここに長く滞在できないみたいで……。
でも、僕が木の姿だったとしても会いに来てくれてもいいのに……って言ったら、「それじゃ食べたいのに食べられないし、目の前でのお預けはキツすぎる」って言うんだ。
――どうしよう、嬉しい――
一回限りのお遊びって言われてもしょうがないよねなんてこっそり思ってたから会いに来てくれたこともそうだけど、食べたいって今も思ってくれてることにゾクゾクとしてくる。
でもこんなに話していたら僕またすぐ木に戻っちゃうけど……。お預けになっちゃうんじゃ? そう思ってルアルを見れば、綺麗な顔が少し困ったような表情をしていてガシガシと頭を掻いていた。
「今日は話しに来ただけだからいいんだよ。お前が不安そうにしてるわ、泣くわで……」
「わーー!」
僕は耳を塞いで大声を出す。
恥ずかしい! バレてるような気はしてたけどやっぱバレてた。
「でも、つまみ食いくらいはいいだろ?」
え? と思うと同時にちゅっとキスされる。
足りない……。
キスも、時間も。
もっとほしい……。
「次はいつ会えるかな……」
「約束はできねぇからなぁ。でもお前を泣かせたくはない、かな」
「泣かないよ」
「ついさっき泣いてたやつがよく言う。でも、ま、次はヤルぞ」
ヤルって……前は食わせろだったのに、その、表現が……。また身体がぽっぽと熱を持ってくるのがわかる。
「え……あ……」
「だから、そういういい匂いを撒き散らすなっての。ちゃんと次は優しくしてやるから」
「!!」
絶対また全身真っ赤になってる気がする……。恥ずかしくてぷるぷるしている僕を抱きしめて、「今日は時間切れだ。またな」と言うと彼が深いキスをくれた。
……と思った瞬間に僕は木に戻っていて、彼はキラキラと銀糸のようなプラチナブロンドの髪の毛をなびかせて前みたいに闇に溶けていった。
◇◇◇
彼の事情を聞いたからっていうのもあって、不安でしょうがなくてってことはなくなった。それに、この間、彼は僕を抱き寄せてとても優しく話してくれたから。
今の僕は以前より空を見上げることが増えたなって思う。前は屋敷の探索をよくしてたけど、今の僕は雲がないか、月の出月の入りはいつなのか、ちゃんと月の光があの窓に射し込むか……そんなことばかり考えてる。
「よう……」
僕が木の姿なのにルアルがここに来てくれた。
腕を伸ばしたい、抱きつきたい、会いたかったって伝えたい……なのにできなくてもどかしい。
「最近会えてないからお前がまた泣いてないかって心配で見に来てみた」
嬉しい。
僕はサワサワと枝を震わせて林檎の実を一つルアルの元に落とす。
「くれんのか? でも俺はあっちのお前が食いたいんだけどなぁ」
ルアルはそういうとまた前と同じように僕の根本に腰を下ろして、服で林檎の実を擦ってかじりついた。シャクシャクと音を立てて無言で食べている。
「なあ、前と全然違うぞ? 蜜入りになってるし皮が薄くなって柔らかいし甘みが増してみずみずしい。果汁があふれる……既になってた実ってこんなに変化するもんなのか?」
ルアルが何を言っているのか僕は全然わからない。僕は何もしてないし庭師が肥料をくれたこともないもん。別館の土地に人間が来ることはほとんどないんだからね。
「ルアル、そんなに美味しいのかい?」
どこからか声が聞こえたかと思うとルアルの後ろに柔らかな光が集まって、強い光を放ったかと思うとヒトの姿に変わっていく。眩しい光が落ち着いたとき、僕はもうびっくりしてしまって木の中で硬直していたんだ。
「ソゥ兄……なんで来やがる」
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