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朝焼けメダリオン

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**―――――
「『だるまさんがころんだ』だけどさ、芸術点を組み入れようと思うのだよ!」

 ここは病院の屋上広場である。比較的体調が良かった時の私が宣言したのだが、みんなは疑問符ぎもんふを浮かべている。

「なんや、それ?」

 あいつはそれを言葉にした。なぜか自慢げに私は答える。

「このまえさ、テレビで見たんだけどね、体操って点数式だったんだよ?」
「......まあ、そうやな」
「だったら、『だるまさんがころんだ』に芸術点を加えるべきとおもわない?」
「意味がわからへん」

 『だるまさんがころんだ』という遊びは、鬼がそのセリフ中は後ろ向いて目隠しし、言い終えた後に振り返り、動いているかを見張り、捕まえる。
 逃げ役はセリフ中に鬼へと近づき、うまいことタッチして逃げるといったものだ。

 鬼はセリフにフェイントをかけるのも自由だったので、セリフ後は当然、セリフ中にも振り向くことがある。鬼に見張られているときは、逃げ役たちは動いてはいけない。
 『今動いた!』と指摘されれば捕まってしまう。

 鬼は全員捕まえれば文句なしで勝ちである。しかし、おおむねねはタッチされるので、逃げ惑うひとを鬼は『ストップ!』と言って止める。
 その後に何歩あるいて良いかを逃げ役が宣言して、大股おおまたジャンプで誰かをつかまえれて、鬼が交代するといった遊びだ。

 この遊びなんかよくわかんないけど楽しかった。しかし、当時の私は走ると息が苦しくなってしまうため、あまりたくさんできないでいる。
 それに加え、いつも捕まってしまう子がいて、それじゃ面白くないよなぁとも思っていた。
 そこで提案してみたのである。

「えっとさ、ポーズをつけて点数を競うんだよ」

 あの頃は思い付きと同時にやってみようが原則だった。
 私は一番元気そうなあいつに鬼役を振り、デモンストレーションを行う。はっきり言って適当なのだがね。

「だ~る~、ま~......」

 イントネーションがちょっと違う『だるまさん』詠唱中に、こそこそと近づき、振り返る瞬間に、座り込み、足を組んで胸を開いて天へ向け、頭と手の甲を地に向けた、いわゆる飛翔ひしょうのポーズをとって待機する。見ている全員が目を丸くする。

「あはははっ、なんやシュールな姿やな!」

 私は少しふくれっ面を作ってから大きく言った。

「は、判定役してよ! だれか! 点数は何点!?」
「え、9.7?」
「ぐぅっ! 低い!!」
「いや、体操やろ? 10点満点やで」
「なんとなんと、やったね! 高得点! ......とこのように、点数の姿勢のまま5秒間で鬼は動いたかどうかを判定するの」

 皆一様に顔を見合わせている。

「あと、笑った鬼はペナルティね。鬼を笑かした人はポイント追加! 合計点を多いのが勝ちね!」
「ちょ、後出しずるいやん」
「いっつも勝ってるのがずるい!」
「いや、それじゃ僕、勝てんやん」
「それが目的だもん!」

 内心では鳥さんの美しさを表現できたのに、笑いおって! 芸術に理解出来ない奴め! と思った件は我慢がまんしているのだ。
 あいつと私でそんなやりとりをしていると、どうやらちょっと楽しそうだったらしい。皆が頷いた。

「ん、まあやってみよう」
「おし、採点者はきみっ!」
「え? ええ!?」

 その日ちょっと具合悪そうな子を指さして、あまり動かない役を割り振り、今日の遊びが始まる。


**―――――
「ねね、そもそもさ、屋上って上がれたの?」
「え、そこ?」
「だって、うちの学校は立ち入り禁止だもの」

 まあそうだろうね。妹の学校ではそうだろうけど、私が入院してたころ、病院の屋上は広場になっていてベンチがあって、物干し台があって、鉢植え? なんだっけ花壇かだん? があって、色々とくつろぐことができる場所だった。

「学校とは違うね。たしか、ラジオもってきてラジオ体操してる人もいたよ」
「え? あれって結構早い時間にあるよね?」
「うん、よくやるなとも思ったけどね、朝焼けのラジオ体操おじさん」
「元気ねぇ」
「元気だと入院しないんだけどね......」
「そうね」

 そんな事を言いながら、妹がケーキを崩す。それから首をひねってから言う。

「でも、だるまもそうだけどさ......昔っから、変な遊び開発してたよね」
「うん。みんな結構たのしんでたよ。芸術点を稼いだり、笑わせようとしたり、みんな特徴がでるもんだったよ」
「ふぅん、まあ楽しかったんでしょうね」
「べつの遊びになってたけど、それでも『だるまさんがころんだ』なんだよね」
「まあ、ちっちゃい頃はそんな感じだったわ」

 軽く息を吐いた妹は、興味なさそうにカップの温度を気にしている。

「ああ、あと片足になると技術点が得られたよ。その場合鬼の監視かんしが厳しくてさ、揺れだすと5秒間がい~~~ち~~~~とかになるのだよ」

 妹は目を細める。

「目の前にいる人の監視がとっても厳しいとみた!」
「いやぁ、勝負は勝たなきゃだけど、つまんないのも良くないからね。そこはケースバイケースだよ?」
「まあ、ねぇ......」

 私はケーキを一口頂く。

「結構盛り上がってたな」
「ふーん......でもさ、病院でそんな盛り上がっちゃったって良かったの?」
「あー、よくは、ないかも?」

 妹は少し眉をひそめる。

「注意とかされたんじゃない?」
「えーっと、そだね。あいつがすぐ笑っちゃってさぁ......かなりうるさかったから......」
「病院の人に怒られた?」
「そうだ、ふっちょさんが来てね、こらー! ここでは大人しく休む場所!! って」

 急に出てきたふっちょさんに、妹は小首をかしげて聞いてきた。

「ふっちょさんってなによ? あだ名?」
「自己紹介の時、あたしゃ婦長さんだよっ! って言ったのだよ。でも舌足らずな子がふっちょさん? とか言って、みんな真似しちゃったの」
「看護師長さんじゃなくて?」
「あー? 自分で名乗ってた覚えがあるなぁ? ふっちょさん呼ばわりされて、『こんながりがりなのにひどいわ!』って、笑ってた」
「がりがりなの?」

 体型は......どうだったかなぁ?

「いや、やせ型だけど、がりがりってほどでもない......かな?」
「ふぅん?」
「あ、そういえば、いつも目の下にクマがあったのは覚えてる。楽しくて、厳しい人だったよ」
「おや」

 妹は湯気の出ているカップとにらめっこをやめ、残念そうな表情で飲まずに置き、ケーキを小さく切って、やはりいじるだけ。
 いぶかしげな表情。何事か考えている。

「んー......」

 おそらく『ふっちょさん呼び』を私が言い出した......と、追及するか考えているのだと思う。
 ちかって言うが言い出しっぺは私じゃない。その追及があった場合の答えを三つほど考えつき、カウンターを用意して待ち構えた。

「言い出しっぺとぉ、広めた人間は別であるという法則が......」
「でね! 私たちとふっちょさんはすぐに仲良くなったのだよ」

 うむ。これ以上思考を発展させるとなんかまずい事実に行き当たりそうだ。私は強引に話を続けた。

「ちょっと、思い出したんだけど、ふっちょさんは私達に厳しかったけど、嫌ってるわけじゃないってのが、なんとなく感じで伝わったよ」
「子供になんか好かれる感じの人ってこと?」
「そうだね」


**―――――
 記憶を探っていると、気が付いてしまうものである。
 そう、あの頃は人が自分に対してどう思っているか、何となく感じる事が出来ていた気がするなあ。
 あの遊びを注意しにきたのも、体調を心配してきたのだろうと思った。
 あと、なんとなくであるが、ふっちょさんはほほえましく見ているのだと解る。そして、私は誘ってみた。

「だるまさん、ふっちょさんもやる?」
「あたしはもうちょっとで休憩おわるのよ! あなた達もきりの良い所までにしときなさいな。あと、静かに大人しく遊ぶのよ」

 そうだ。あの時うしろに何か目つきの厳しい白衣のおじさんがいた。ふっちょさんは何となく複雑な表情であった。

「なんでー、それじゃ楽しくないやん」

 あいつがいった。私はそこで振り向いた。

「まだまだだなぁ君は。おとなしくてしかも楽しく遊ぶっての、難易度高いけどやってみない?」
「え?」

 何をするのかまるで考えていないけど、へんな自信だけはあった気がする。そんで、ふっちょさんの注意通りに、何したっけ? あれ、思い出せないなぁ......。
 まぁ結局は盛り上がって注意を受けてしまった気がする。

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