上 下
178 / 180
決戦編

幕、上がる

しおりを挟む

 178-①

 ……その日、アナザワルド王国の人々は空を見上げた。

 夕暮れの空に、突如として不気味な笑い声が響く。
 男も女も、大人も子供も、王侯貴族おうこうきぞくも平民も、皆が空を見上げた。

 ……空に、城の広間のような空間が映し出されている。

 人々が不安げに空を見つめていると、どこからともなく発生した霧が、空に映し出された空間を覆った。

「我に刃向かう愚かな人間共よ……」

 不気味な声と共に、霧が一瞬で晴れ、霧の向こうから、漆黒の鎧に身を包んだ武光扮する魔王シンが姿を現した。

「我が名はシン……全ての魔族の頂点に立つ、地獄の底から蘇りし魔王ぞっっっ!!」

 魔王の背後に雷が落ち、激しく炎が吹き上がる。人々は、空に浮かぶ巨大な魔王の姿に恐怖した。

「貴様らに最上級の絶望をくれてやろう……男も女も!! 老人も赤子も!! 王侯貴族も平民も!! 地獄ですら生温なまぬるいと思う程の苦しみと恐怖の果てに、一人残らず息の根を止めてやる……貴様らは皆殺しだッッッ!!」

 泣き叫ぶ者、崩れ落ちる者、声も無く立ち尽くす者、怯え震える者……魔王の皆殺し宣言によって王国中の民が恐慌におちいりかけたその時だった!!

「お待ちなさいっっっ!!」

 ナジミとリョエンを引き連れてミトが颯爽さっそうと現れた!!

「そんな事はさせないわ、魔王シン!!」 声:魔穿鉄剣
「お前の好きにはさせない!!」
「この国の民は……アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドが命に替えても守ります!!」

 現れたミト達を魔王は鼻で笑った。

「良かろう、まずは貴様らから血祭りだ!!」

 宝剣カヤ・ビラキを魔王に向けたミトの凛々しい姿は、民衆達に勇気と希望を与えたが、それはすぐに絶望へと変わった。
 ミトの護衛の二人は魔王にたった一撃で倒され、残ったミトも奮戦むなしく魔王の凶刃の前に膝を着いてしまった。
 民衆達の視線の先では自分達を守ろうとして魔王に立ち向かった姫君が、殴られ、蹴られ、投げ飛ばされて、残虐に痛めつけられている。

「ま、まだよ……命ある限り……私は戦う……愛する人々に……手は……出させない……私が……絶対……に……守って……うぐぅ!?」
「フン……小娘が!!」

 魔王がふらつくミトの顔面を鷲掴わしづかみにして身体を高々と持ち上げ、そのまま後頭部を勢い良く床に叩きつけた。床に敷き詰められた大理石に亀裂が走る。
 もちろん芝居なので、実際には武光は寸止めをしており、床の大理石がヒビ割れたのもミトの後頭部が床に触れるのに合わせて武光が神地術で割っているだけだ。
 なので、実際にはミトはノーダメージなのだが、武光とミトの迫真の演技を前に、民衆達は『もうやめて!!』『誰か姫様を助けてくれ!!』と悲鳴を上げ、国王ジョージ=アナザワルド3世は愛娘まなむすめの危機を前に、アナザワルド城最上階のバルコニーから思わずその身を乗り出し、危うく落下しそうになった所を側にいた大臣達が取り押さえて事無きを得た。

 魔王はミトの顔面から手を離すと、グッタリとしているミトを剣の先で差し示した。

「人間共よ、その目に焼き付けろ……我に刃向かう愚か者の末路を!! あらがっても無駄だ……叩き潰し、殺す!! 逃げても無駄だ……捕まえて、殺す!! 隠れても無駄だ……探し出し、殺す!! 許しを乞うても無駄だ……容赦無く、殺す!! 生き延びられるなどと夢にも思わぬ事だ……」

 出番を控えたリヴァルとショウシン・ショウメイは物陰ものかげに潜んでいた。『グワハハハハ!!』と、高らかに笑う武光を見てショウシン・ショウメイがつぶやく。

〔リヴァルよ……凄いな、彼奴あやつは。我よりもずっと魔王らしい〕
「当然だ、武光殿はプロだぞ? それにしても……武光殿にはかなわないな」
〔うん?〕
「もし、私が武光殿の立場だったら……間違いなくお前をへし折っていた。でも、武光殿はそうはしなかった。へし折るどころか、お前や私の一族の名誉を取り戻す為に、ああやって悪役を演じて……私にはとても真似出来ない、心から尊敬出来る友だ」
〔フン……〕
「さてと……そろそろ出番だ。行こう……お前と勇者アルトの名誉を取り戻しに!!」

 リヴァルの視線の先では、武光がイットー・リョーダンをゆっくりと振り上げていた。ドスを効かせた声で武光が叫ぶ。

「これで……終わりだっっっ!!」

 出番だ。真聖剣ショウシン・ショウメイを手に、リヴァルは叫んだ。

「そこまでだっっっ!!」

 178-②

 武光に言われた通り、リヴァルは背後に退魔光弾をぶっ放してからヴァンプとキサンを引き連れて現れた。 
 退魔光弾の光が収まったのを確認し、リヴァルは言った。

「そこまでだ魔王シン!!」

 台詞を言いながら、武光に言われた事を思い返す。

 ~~~~~

「ええかヴァっさん、今から教える台詞は、何気ないけど、めちゃくちゃ大事な台詞やから」
「はい」

 ~~~~~


「敬愛するアナザワルド王家の姫君にそれ以上の狼藉は許さんっっっ!!」


 ……武光殿は言っていた。事あるごとに『アナザワルド王家を敬愛してますアピール』を入れろと。


 ~~~~~

「ええか、ヴァっさんはめちゃくちゃ強くてイケメンやし、その上魔王を倒したとなったら英雄として讃えられまくるやろうけど、間違いなく面倒な事に巻き込まれる」
「面倒な事……?」
「ヴァっさんをかつぎ出して、王家に反逆しようとするアホやら、ミトの祖先みたいにヴァっさんの力を恐れて排除しようとするアホが間違いなく出てくる。だから、先手を打つ」
「先手……ですか?」
「先手を打って『アナザワルド王家を敬愛してますアピール』をしまくっといたら、ヴァっさんを利用しようとする奴らは担ぐのを諦めるやろうし、排除しようとする奴らの危機感も抑えられるはずや」
「武光殿……それほどまでに私の事を心配してくれるのですか?」
「ヴァっさんには助けてもらってばっかやし……友達やんか!!」

 ~~~~~


「我が名はリヴァル=シューエン……アナザワルド王国を愛する者だ!!」

 リヴァルは、ショウシン・ショウメイの切っ先を武光に向けた。

「魔王シンよ……我が剣、ショウシン・ショウメイで貴様を討ち倒し、この国に生きる人々も、この国を治めるアナザワルド王家も……私が守り抜く!!」

 リヴァルの雄々しく、威厳に満ちた姿は、まさに伝説の勇者そのものだった。武光の思惑通り、勇者の登場に人々は沸き立った。

「……リヴァル!! 魔王は俺たちが引きつける!!」
「その間に姫様を助けてください!!」

 ヴァンプとキサンが武光に突進した。ヴァンプの剛拳とキサンの鉄扇による怒涛の連続攻撃を、武光は流れるような動きで、紙一重で回避し続ける。
 そして、ヴァンプとキサンが武光と激しい殺陣を繰り広げている隙にリヴァルはミトをリアルお姫様抱っこで抱え上げて救出した。そして、それを合図に武光はヴァンプとキサンに掌底を喰らわせてリヴァル達の近くに弾き飛ばした。(……と、言うかそういうふうに動いてもらった)

「……ぐうっ、バケモノめ……っ!!」
「何て力なのー!?」

 リヴァルは丁重にミトを降ろすと、ヴァンプとキサンに預けた。

「ヴァンプ、キサン、ミト姫様を安全な所までお連れしろ!! 姫様……アナザワルド王国の為、人々の為に……魔王はこの私が必ず倒します!!」
「リヴァル=シューエン……貴方の一点の曇りも無い忠義、このミト=アナザワルド、決して忘れません!!」

 ナイスアドリブ!! ミトの好アシストに、武光は内心ガッツポーズを取った。
 ヴァンプとキサンに連れられて、ミトがハケると、残ったリヴァルと武光は向かい合った。


「行くぞ……魔王シン!!」
「来い!! 勇者リヴァルよ!!」


 人々が見守る中、勇者と魔王の最終決戦の幕が上がった!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。 なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。 要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。 <ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

処理中です...