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決戦編

斬られ役、企む

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 176-①


「皆……芝居をしよう!!」


 武光は、ゴホンと咳払いをすると、床に突き立ったショウシン・ショウメイを取り囲むように並んでいた仲間達に言った。

 武光の『芝居をしよう』という突拍子もない提案に一同はキョトンとした。

「え、ええ……と、武光様……?」
「芝居しよう!! 芝居!!」
「どういう事よ?」
「つまりやな……」

 武光が語った内容とは、リヴァルが魔王を倒す光景を、魔王シンの秘宝、天映魔鏡を用いてこの国全土の空に映し出すというものだった。

「ヴァっさんは真聖剣ショウシン・ショウメイで見事魔王を倒して勇者として讃えられ、勇者アルトの一族とお前の名誉は取り戻される。今度はこの国中の人間が証人や!! 揉み消したりは絶対に出来へん。ついでに魔族共の士気もだだ下がりで一石二鳥や!! どや? ショウシン・ショウメイ」

 武光は若干ウザいくらいのドヤ顔をしたが、ショウシン・ショウメイは武光の提案を鼻で笑った。

〔フン、確かに良い案だ……『この国中の人間達を信じ込ませる事が出来れば』だがな。そんな事が出来るとでも──〕

「フッ……『へのつっぱり』……とは言わへん、ホンマに自信があるからなっ!!」

 ショウシン・ショウメイはたじろいだ。理由はわからんがとにかく凄い自信だ!! 

〔馬鹿か……!? お前は馬鹿なのか!?〕
「はぁ!? 馬鹿って言う方が馬鹿ですー!! このウ◯コー!!」
〔う……ウ◯コ……〕
「余裕余裕!! 絶対にいけるって!!」
〔正気か貴様!? な、何を根拠に……!?〕
「そんなん決まってるやんけ、何故ならッッッ!! ヴァッさんは本物の勇者で……」

 武光はニヤリと笑った。


「……俺はプロの斬られ役やぞ?」

 
〔ぬぅ……〕
「だから、な? 力を貸してくれ!! 頼む!!」
〔おかしな男だ……何故お前が、我の為に頭を下げる?〕
「え? あっ……言われてみればせやな。まぁ、細かい事は気にすんな!! 俺は……舞台でも何でもハッピーエンドが好きやねん!!」
〔フン、上手くゆくとは到底思えぬが……良かろう、そこまで言うのならたわむれに、貴様の策に乗ってやろう、但し……〕
「ああ……もし上手くいかんかったら、その時は…………ヨミを好きにしたらええ」
「私を生贄にすんなこのクズ!!」

 ヨミの抗議を無視して、武光は両腕を高々と天に向かって突き上げた。

「よっしゃ皆!! まずは舞台の片付けや!! 急いでやるぞ!! …………もうあんまり時間も無さそうやしな」

 ……武光の視線の先には、武光が異界渡りの書に名前を書いた事によって開いた、元の世界へと続く穴があった。

 今はまだ直径5mくらいの大きな穴だが、恐らくあと数時間で再び穴は閉じてしまうだろう。

 こうしている間にも……穴はゆっくりと縮んでいる。

 176-②

 武光は城内にウヨウヨいる魔族達が謁見の間に入れないように、神々の力で強力な結界を張ると撮影をするスペースを片付け始めた。

「ところで武光様、どうして今までずーっと偽名を名乗っていたんですか?」
「そうよそうよ!!」

 床に散らばる小さなガレキを片付けながらナジミとミトは武光に聞いた。

「何でってお前……『ながさわまさみ』やぞ!?」
「えーっと……どういう事ですか?」
「貴方の国では不名誉だったり不吉な名前だったりするの?」
「いや、そうやない。そうやないんやけどな…………俺の国の超有名美人女優と同じ名前やねん」
「び、美人……」
「女優……?」

 ナジミと ミトは 
 フリフリしたドレスを着た 武光が ウインクしているのを 想像してしまった。
 痛恨の一撃!
 ナジミと ミトは き出した。

「あははははは!! た、武光様が……び、美人……あははははは!!」
「そ、そんなに……笑ったら……か、かわいそ……あははははは!!」
「お、お前らな……!!」

 “ゴン!!”  “ゴン!!”

「ぎゃん!?」
「ぶっ!?」

 武光は、ナジミとミトにゲンコツ(神力1000mg配合)を喰らわした。ゲンコツを喰らった二人が頭を抱えてしゃがみ込む。

 ……元の世界でも本名を名乗ると笑われる、酷い時にはネタだと思われて勝手に『スベってる』認定されてしまう事さえある……なので武光は普段からあまり本名を名乗りたがらない。

「よし、舞台は片付けたし、次は……と」

 176-③

「……キャストと役割分担を発表します!!」

 片付けを終えた武光は一同を見回した。

「まず勇者役、ヴァっさん!!」
「はい!!」
「聖剣役、ショウシン・ショウメイ!!」
〔フン……〕
「勇者の仲間達、ヴァンプさんとキサンさんとナジミと……あと、ミト!!」
「ええっ!! わ、私も!?」
「そうや、お前は結構重要な役やから頑張れよ!!」
「わ、分かったわ!!」
「そして、魔王役……俺ッッッ!!」

 武光は右手の親指で自分を “ビッ!!” と指差した。

「先生とダントさんは撮影を頼みます!!」
「ああ」
「分かりました」
「ねぇ、私はー?」
「あー、ヨミか……お前はせやなー……んっ? あれは……?」

 視線の先……謁見の間の最奥にあるだんの脇に、パイプオルガンによく似た機械が設置されているのを武光は見つけた。

「もしかしてアレ……楽器か……?」
「そうだけど」

 ヨミはその機械のもとまで背中の小さな羽をパタパタと動かして飛んで行くと、パイプオルガンでいう所の鍵盤けんばんふたらしき部分を開いた。
 蓋の下にあったのはピアノやオルガンのような鍵盤ではなく、怪しげな紋様もんようが描かれた縦幅15cm、横幅1mくらいの長い一枚の石板だった。
 ヨミが石版に手を触れ、盤上で指を動かすと、それに合わせてパイプオルガンのような音が響いた。

「凄いでしょう? うーん、それにしても……これほどの名品は滅多にお目にかかれないわ、出せる音の種類が半端無い。どんな音でも出せるわよ、多分」
「え、マジか。じゃあ……太鼓とか」

 “どどん!!”

「……シンバル」

 “じゃーん!!”

「……法螺貝ほらがい

 “ぶぉぉぉーーーっ!! ぶぉぉぉーーーっ!!”

 ヨミが盤上で指をおどらせるたびに、様々な楽器の音が鳴った。

「ヨミ……お前もしかして曲とか弾けたりする……?」
「当ったり前じゃない、私は妖禽ようきん族の姫なのよ? 貴族なら楽器のたしなみくらいあって当然よ。ね、イノシシ仮面?」

 ヨミは自分と同じく『姫』であるミトに同意を求めたが……

「…………どうして目を合わせないのよ、イノシシ仮面」
「え? べ、別に……」
「あー、分かった!! アンタ楽器弾けないんだー!?」
「ひ、弾けるわよ!! 楽器の一つや二つ……たしなみまくりよっっっ!!」
「私の目を見て言いなさいよー……ぷぷぷ」
「ハイハイそこまでや、あんまりミトをイジメたんなや」
「ちょっ、武光!? それじゃあまるで私が楽器弾けないみたいじゃない!!」
「あー、ハイハイ。また今度聴かせてくれ。そんな事よりヨミ……2、3曲弾いてみてくれ」
「良いけど……どんなのが良い?」

 武光はヨミに『おどろおどろしい感じの曲』とか『緊迫感のある曲』とか『燃えたぎるような曲』とか、いくつかの要望を伝えたが、その度にヨミは見事な演奏を披露してみせた。

「ヨミ……お前は音響監督や!!」
「ふふふ……私に任せなさい!!」
「頼んだ!! ああ、それと……」
「ん?」
「お前、妙に素直やけど……本番でメチャクチャして俺らの舞台を台無しにしてやろうとか考えてないやろな?」
「ギクッ」
「お前、そんなしょーもない真似まねしたら天映魔鏡でこの国中の人が見てる中でキ◯肉バスターやからな?」

 武光の頭の中に浮かんだキ◯肉バスターのイメージを見たヨミは戦慄せんりつした。凄まじい技だ、受け手側がとんでもない体勢にされている!! 色んな意味で女性に掛けるには危険過ぎる技だ!!

「は……ははは、やだなー!! 私がそんな事するわけないじゃない!! あ、安心して任せなさいよ…………ちっ」


「よっしゃ、じゃあ……リハーサルすっか!!」
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