176 / 180
決戦編
斬られ役、企む
しおりを挟む176-①
「皆……芝居をしよう!!」
武光は、ゴホンと咳払いをすると、床に突き立ったショウシン・ショウメイを取り囲むように並んでいた仲間達に言った。
武光の『芝居をしよう』という突拍子もない提案に一同はキョトンとした。
「え、ええ……と、武光様……?」
「芝居しよう!! 芝居!!」
「どういう事よ?」
「つまりやな……」
武光が語った内容とは、リヴァルが魔王を倒す光景を、魔王シンの秘宝、天映魔鏡を用いてこの国全土の空に映し出すというものだった。
「ヴァっさんは真聖剣ショウシン・ショウメイで見事魔王を倒して勇者として讃えられ、勇者アルトの一族とお前の名誉は取り戻される。今度はこの国中の人間が証人や!! 揉み消したりは絶対に出来へん。ついでに魔族共の士気もだだ下がりで一石二鳥や!! どや? ショウシン・ショウメイ」
武光は若干ウザいくらいのドヤ顔をしたが、ショウシン・ショウメイは武光の提案を鼻で笑った。
〔フン、確かに良い案だ……『この国中の人間達を信じ込ませる事が出来れば』だがな。そんな事が出来るとでも──〕
「フッ……『へのつっぱり』……とは言わへん、ホンマに自信があるからなっ!!」
ショウシン・ショウメイはたじろいだ。理由はわからんがとにかく凄い自信だ!!
〔馬鹿か……!? お前は馬鹿なのか!?〕
「はぁ!? 馬鹿って言う方が馬鹿ですー!! このウ◯コー!!」
〔う……ウ◯コ……〕
「余裕余裕!! 絶対にいけるって!!」
〔正気か貴様!? な、何を根拠に……!?〕
「そんなん決まってるやんけ、何故ならッッッ!! ヴァッさんは本物の勇者で……」
武光はニヤリと笑った。
「……俺はプロの斬られ役やぞ?」
〔ぬぅ……〕
「だから、な? 力を貸してくれ!! 頼む!!」
〔おかしな男だ……何故お前が、我の為に頭を下げる?〕
「え? あっ……言われてみればせやな。まぁ、細かい事は気にすんな!! 俺は……舞台でも何でもハッピーエンドが好きやねん!!」
〔フン、上手くゆくとは到底思えぬが……良かろう、そこまで言うのなら戯れに、貴様の策に乗ってやろう、但し……〕
「ああ……もし上手くいかんかったら、その時は…………ヨミを好きにしたらええ」
「私を生贄にすんなこのクズ!!」
ヨミの抗議を無視して、武光は両腕を高々と天に向かって突き上げた。
「よっしゃ皆!! まずは舞台の片付けや!! 急いでやるぞ!! …………もうあんまり時間も無さそうやしな」
……武光の視線の先には、武光が異界渡りの書に名前を書いた事によって開いた、元の世界へと続く穴があった。
今はまだ直径5mくらいの大きな穴だが、恐らくあと数時間で再び穴は閉じてしまうだろう。
こうしている間にも……穴はゆっくりと縮んでいる。
176-②
武光は城内にウヨウヨいる魔族達が謁見の間に入れないように、神々の力で強力な結界を張ると撮影をするスペースを片付け始めた。
「ところで武光様、どうして今までずーっと偽名を名乗っていたんですか?」
「そうよそうよ!!」
床に散らばる小さなガレキを片付けながらナジミとミトは武光に聞いた。
「何でってお前……『ながさわまさみ』やぞ!?」
「えーっと……どういう事ですか?」
「貴方の国では不名誉だったり不吉な名前だったりするの?」
「いや、そうやない。そうやないんやけどな…………俺の国の超有名美人女優と同じ名前やねん」
「び、美人……」
「女優……?」
ナジミと ミトは
フリフリしたドレスを着た 武光が ウインクしているのを 想像してしまった。
痛恨の一撃!
ナジミと ミトは 噴き出した。
「あははははは!! た、武光様が……び、美人……あははははは!!」
「そ、そんなに……笑ったら……か、かわいそ……あははははは!!」
「お、お前らな……!!」
“ゴン!!” “ゴン!!”
「ぎゃん!?」
「ぶっ!?」
武光は、ナジミとミトにゲンコツ(神力1000mg配合)を喰らわした。ゲンコツを喰らった二人が頭を抱えてしゃがみ込む。
……元の世界でも本名を名乗ると笑われる、酷い時にはネタだと思われて勝手に『スベってる』認定されてしまう事さえある……なので武光は普段からあまり本名を名乗りたがらない。
「よし、舞台は片付けたし、次は……と」
176-③
「……キャストと役割分担を発表します!!」
片付けを終えた武光は一同を見回した。
「まず勇者役、ヴァっさん!!」
「はい!!」
「聖剣役、ショウシン・ショウメイ!!」
〔フン……〕
「勇者の仲間達、ヴァンプさんとキサンさんとナジミと……あと、ミト!!」
「ええっ!! わ、私も!?」
「そうや、お前は結構重要な役やから頑張れよ!!」
「わ、分かったわ!!」
「そして、魔王役……俺ッッッ!!」
武光は右手の親指で自分を “ビッ!!” と指差した。
「先生とダントさんは撮影を頼みます!!」
「ああ」
「分かりました」
「ねぇ、私はー?」
「あー、ヨミか……お前はせやなー……んっ? あれは……?」
視線の先……謁見の間の最奥にある壇の脇に、パイプオルガンによく似た機械が設置されているのを武光は見つけた。
「もしかしてアレ……楽器か……?」
「そうだけど」
ヨミはその機械のもとまで背中の小さな羽をパタパタと動かして飛んで行くと、パイプオルガンでいう所の鍵盤の蓋らしき部分を開いた。
蓋の下にあったのはピアノやオルガンのような鍵盤ではなく、怪しげな紋様が描かれた縦幅15cm、横幅1mくらいの長い一枚の石板だった。
ヨミが石版に手を触れ、盤上で指を動かすと、それに合わせてパイプオルガンのような音が響いた。
「凄いでしょう? うーん、それにしても……これほどの名品は滅多にお目にかかれないわ、出せる音の種類が半端無い。どんな音でも出せるわよ、多分」
「え、マジか。じゃあ……太鼓とか」
“どどん!!”
「……シンバル」
“じゃーん!!”
「……法螺貝」
“ぶぉぉぉーーーっ!! ぶぉぉぉーーーっ!!”
ヨミが盤上で指を躍らせる度に、様々な楽器の音が鳴った。
「ヨミ……お前もしかして曲とか弾けたりする……?」
「当ったり前じゃない、私は妖禽族の姫なのよ? 貴族なら楽器の嗜みくらいあって当然よ。ね、イノシシ仮面?」
ヨミは自分と同じく『姫』であるミトに同意を求めたが……
「…………どうして目を合わせないのよ、イノシシ仮面」
「え? べ、別に……」
「あー、分かった!! アンタ楽器弾けないんだー!?」
「ひ、弾けるわよ!! 楽器の一つや二つ……嗜みまくりよっっっ!!」
「私の目を見て言いなさいよー……ぷぷぷ」
「ハイハイそこまでや、あんまりミトをイジメたんなや」
「ちょっ、武光!? それじゃあまるで私が楽器弾けないみたいじゃない!!」
「あー、ハイハイ。また今度聴かせてくれ。そんな事よりヨミ……2、3曲弾いてみてくれ」
「良いけど……どんなのが良い?」
武光はヨミに『おどろおどろしい感じの曲』とか『緊迫感のある曲』とか『燃え滾るような曲』とか、いくつかの要望を伝えたが、その度にヨミは見事な演奏を披露してみせた。
「ヨミ……お前は音響監督や!!」
「ふふふ……私に任せなさい!!」
「頼んだ!! ああ、それと……」
「ん?」
「お前、妙に素直やけど……本番でメチャクチャして俺らの舞台を台無しにしてやろうとか考えてないやろな?」
「ギクッ」
「お前、そんなしょーもない真似したら天映魔鏡でこの国中の人が見てる中でキ◯肉バスターやからな?」
武光の頭の中に浮かんだキ◯肉バスターのイメージを見たヨミは戦慄した。凄まじい技だ、受け手側がとんでもない体勢にされている!! 色んな意味で女性に掛けるには危険過ぎる技だ!!
「は……ははは、やだなー!! 私がそんな事するわけないじゃない!! あ、安心して任せなさいよ…………ちっ」
「よっしゃ、じゃあ……リハーサルすっか!!」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
斬られ役、異世界を征く!! 弐!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。
新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!
前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!!
*この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。
前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる