172 / 180
決戦編
斬られ役、名を記す
しおりを挟む172-①
『助かる方法がひとつだけあります』そう言ったナジミをショウシン・ショウメイが嘲笑う。
〔「ほう? 我から逃げられるとでも? 面白い……待っててやるから試してみるが良い、完膚無きまでに打ち砕いて絶望の淵に叩き落とした後、苦しめ抜いて惨殺してやろう」〕
圧倒的な力の差からくる余裕か、『逃げられるものなら逃げてみろ』などと、ショウシン・ショウメイは悪役丸出しの台詞を吐き始めた。
「あ、あの野郎……!! 調子ぶっこきやがって…………で、ナジミ、助かる方法って何や!?」
この絶対絶命の状況で助かる方法など本当にあるのだろうか。
「……ここに名前を書いて下さい」
武光の問いに対し、ナジミは一枚の紙を取り出した。風の神ドルトーネ、地の神ラグドウン、火の神ニーバング……そして水の神シュラップスの力によって遂に完成した異界渡りの書である。
魔王城に潜入したナジミは、水の神シュラップスとの接触を果たし、異界渡りの書を完成させていたのだ。
「……この紙に名前を書けば、武光様の元いた世界への扉が開きます。武光様達は……そこを通って逃げて下さい!!」
「そ、その手があったか!! ……って、ちょっと待てや!! 武光様達『は』って何やねん武光様達『は』って!? お前はどないすんねん、お前は!?」
「私は……武光様達が異世界への門に飛び込んだら、ショウシン・ショウメイが後を追えないように門を閉じます」
それを聞いた武光は即座にナジミの提案を拒否した。
「アホ抜かせ!! お前を残して、俺らだけ逃げられるわけないやろが!!」
「ワガママ言わないで下さいよ、もう!! でも……武光様のそういう優しい所が、私は大好きでした」
そう言って武光に悲壮な笑顔で笑いかけるナジミに、ミトが質問した。
「ナジミさん、その異界渡りの秘法とやらで開いた門を閉じるのにはどれくらいの時間がかかるの?」
「……1分もあれば」
「そう……なら私も逃げるわけにはいかないわ!!」
「私も残ります、武光君は離脱して下さい!!」
「私も、監査武官として……いえ、リヴァルさん達の友として、最後まで見届けます!!」
それを聞いた武光はミト達を問い詰めた。
「ミト!? 先生にダントさんも何言うてるんすか!!」
「1分あればショウシン・ショウメイがナジミさんを殺して、貴方の後を追うには十分過ぎるわ」
〔愛するイットー・リョーダン様も、妹の魔穿鉄剣も……そして、姫様の大切な殿方も私が守ってみせます!!〕
「門が完全に閉じるまで……ナジミさんを守る必要があります。それに兄として、キサンをあのままにしておくわけにはいきません」
〔ココ ハ オレタチ ガ クイトメマクル!!〕
「いやいやいやいや無理ですって先生!! あっちにはキサンさんもおるんですよ!?」
それを聞いたリョエンはフッと笑った。
「兄より優れた妹なぞ存在しねぇ!! こんな事もあろうかと……とっておきの雷術を用意してあるんですよ!!」
〔エッ? ソンナノ ハツミミ──〕
「あーゴホン……テンガイ?」
〔……アルゼ!! トッテオキ ノ ジュツ ガ アルゼ!!〕
「絶対嘘ですやん!! ミトもショウシン・ショウメイを食い止めるとか無茶言うなって!!」
武光に言われたミトは、いつものように強気な笑顔を見せた。
「フン、私を誰だと思ってるの!? 私は貴方の200万倍は強いのよ? 貴方が私に一度でも勝った事ある!? だから……安心して逃げなさい!!」
「いやいやいや、逃げられるかいっ!! って言うか、お前が頑なに認めへんだけで俺……割と勝ってるしな!? それに、俺が逃げようとしたらお前いつもめちゃくちゃ怒るくせに何で──」
「あーもう!! ごちゃごちゃウルサイわね!! 初恋の人に死なれたくないのよっっっ!!」
〔ひ、姫様……!!〕
「……ハッ!?」
「ええと……ミト? ごめん、今何て──」
ミトは顔を真っ赤にしながら武光に詰め寄った。
「あーもー、うるさいっ!! いいから早く逃げなさいよっっっ!! 逃げないと処刑よ、処刑!!」
「武光様……今まで本当にありがとうございました。後は私達に任せて元いた世界へ帰って下さい!! さぁ、ここに名前を!!」
ナジミは武光に異界渡りの書を差し出したが、武光は首を左右に振った。
「ふざけんなやお前ら……お前らを見捨てて逃げられるわけないやろが!! 絶対に名前は書かへん!! そんな事せんでも……ショウシン・ショウメイをシバき倒したらええだけやんけ、行くぞイットー、魔っつん!!」
〔お……応ッッッ!!〕
〔は……ハイッ!!〕
双剣を構えた武光をショウシン・ショウメイが嘲笑う。
〔「フッ……笑止!! まだ抗うと言うのか、勇者でも英雄でもない貴様の如き凡人が?」〕
「それがどうしたッッッ!! 確かに俺は、そこのドジ巫女に間違って連れて来られただけの一般人や……勇者でもなけりゃ英雄でもないし、おまけに前世はカナブンや……それでも!!」
武光はショウシン・ショウメイに向かって啖呵を切った。
「友達を傷付けられたらめちゃくちゃ腹立つし!! 好きな女にエエとこも見せたいし!! それに、悪役っちゅうんはなぁ……往生際が悪くてナンボじゃあああああーーーーー!!」
武光はリヴァルに向かって決死の突撃をかましたが、力の差は圧倒的……いや、絶望的だった。
武光は操られているリヴァル、ヴァンプ、キサンに手も足も出ずボコボコに叩きのめされた。
そして、そんな武光を守ろうとしたミト、リョエン、ダント……そしてナジミが倒れ伏している武光の目の前で次々と倒れてゆく。
〔武光!! しっかりしろ!!〕
〔ご主人様!!〕
「ぐ……うぅ……」
もはや取り落としたイットー・リョーダンと魔穿鉄剣を拾い上げる力も無い。
大切な仲間、そして心底惚れた最愛の女性が目の前で傷付き倒れてゆく……武光の心は折れる寸前だった。そして、そんな武光の前に一枚の紙がひらりと舞い落ちた。
ナジミが持っていた異界渡りの書である。
もはや少しでも助かる可能性がある道は、異界渡りの書に名前を書いて、仲間を見捨てて元の世界へ逃げ帰る事しか無いと言うのか。
(くそ……っ!! こいつらを見捨てて逃げるしかないんか!? 俺には何にもでけへんのか!? 何で俺はこんなにも弱いねん、俺にもっと力があれば……っ!!)
武光は異界渡りの書を恨めしげに見つめながら、風の神ドルトーネの言葉を思い出していた。
(ふざけんなや……何が異界渡りの書や!! あれに名前を書いたら神々の力が宿るんちゃうんかボケェェェッ!!)
(んん……!? 名前……? ま、まさか……!!)
武光は残り僅かな力を振り絞り、異界渡りの書へ手を伸ばした。名前を……一刻も早く名前を書かなければ!!
……な……が……さ……
流れる血をインク代わりに、震える指で異界渡りの書に文字を書いてゆく。
……わ……ま……さ……
視界がぼやけ、意識が飛びそうになるのを堪えながら、最後の一文字を書く。
……み
気を失う寸前に、武光は書き切った!! 《唐観 武光》という 『芸名』 ではなく……《ながさわ まさみ》という『本名』を!!
武光は まばゆい 光につつまれた!
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
斬られ役、異世界を征く!! 弐!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。
新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!
前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!!
*この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。
前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる