上 下
125 / 180
勇者編

火竜将、言葉を失う

しおりを挟む

 125-①

 リュウズは言葉を失い、思わず剣を取り落としそうになった。

「こ、黒竜翁様!? な……何を言っておられるのですか!?」
「あん? お主は誰じゃ?」
「わ、私はリュウズと申します……不肖、火竜将として火竜族を率いております!!」
「リュウズ……はて? ああ、そうか……ワイバーんの孫娘じゃな!!」
「違います!! ワイバー殿という方は存じあげませんし、そもそも私は男です!!」
「おお、そうかそうか……立派な娘っこになったなあ!! ワイバーは元気にしておるか?」
「いや、だから違います!!」
「ふむ、そうか……ところで……お主は誰じゃ?」

 リュウズはがっくりとひざをついてしまった。

「……ハッ!? しまった、四天王最強のこの俺が膝を地に……リ、リヴァル=シューエン、今のは……」
「私は……何も見ていないッッッ!!」
「……恩に着る」

 伝説の男と言えども、やはり老いには勝てぬのか。このままでは残り少ない体力をツッコミで使い果たしてしまう。万が一にも『ツッコミ過ぎたせいで体力を使い果たして死ぬ』などという事になれば……


 『竜人四天王の面汚し』
 『四天王最強(笑)』
 『魔族史上初のツッコミ死に』


 ……ほか多数

 自分に着せられるであろう数々の汚名を想像し、リュウズはぶるりと身震いした。

 ならん……それだけは断じてあってはならん!!

「……む? き……貴様はぁぁぁぁぁッッッ!?」

 苦悩するリュウズをよそに、リヴァルの存在に気付いたゼンリュウは、叫びを上げていた。

「こ、黒竜翁様、如何いかがなさいました!?」
「その顔、忘れはせん……忘れはせんぞ!! 我が角を斬り落とした宿敵……勇者アルトよ!!」

 『古の勇者』にして、アナザワルド王国・初代国王の名で呼ばれたリヴァルは、戸惑いを隠せずにいた。
 またか……そう言えば、巨竜まめ太も自分の事を古の勇者、アルト=アナザワルドだと勘違いしていた。それ程までに自分は古の勇者に姿形が似ているのだろうか?

 一方、リュウズはリヴァルの事を古の勇者と思い込んでいるゼンリュウを見て、頭を抱えていた。

 ダメだ、目の前の人物は、ほうけてしまって、もはや伝説の男ではなくなってしまっている……古の勇者など、遥か昔に死んでいるというのに……
 リュウズは悲しげな目で老竜人の背中を見つめ、リヴァルに話しかけた。

「リヴァル=シューエン……」
「ああ、ここから立ち去ってもらえ。例え魔族と言えど、もはや武人でない者を手にかける剣を私は持ち合わせてはいない」
「……恩に着る」

 人間と言えど、この漢の剣にならば、敗れても恥にはなるまい。リヴァルの言葉にリュウズは小さく頷くと、背後からゼンリュウに進言した。

「……黒竜翁様、この場はお退き下さい」

「……黙れ」

「は?」
戯言ざれごとならば、相手を選べ……小僧、このわしを黒竜 “王” 、災厄のゼンリュウと知って口を利いているのか……?」

 振り向いたゼンリュウは先程までとは別人だった。全身に凄まじい威圧感を纏っている。

「行くぞ、勇者アルトよ……ぬぉあああああああああっっっ!!」
 
 ゼンリュウの姿が変化してゆく。

 全身の筋肉が膨れ上がり、漆黒の鱗に覆われてゆく。
 両腕にはまされた鎌の如き爪が伸び、
 背中には三対六枚の翼が生じ、
 尻からは先端に棘を備えた太く長い尻尾が生え、
 頭部は前後に伸び、鋭い歯が並ぶ。

 竜身化を超える、超竜身化をも更に超えた、真の竜身化……その領域に辿り着けたものは長い竜人の歴史上、ただ一人しかいないと言われる《真竜身化しんりゅうじんか》によって、ゼンリュウは雄々しき黒き竜へと変貌を遂げた。

 黒き竜は天を裂き、地を震わすかのような、凄まじい咆哮を上げた。

 もはや、次元が違う。手の震えが止まらない……全身から放たれる圧倒的威圧感の前に、リュウズは圧倒され、言葉を失った。

 リュウズは悟った。伝説の黒き竜の王……災厄のゼンリュウが数百年の時を超え、今ここに蘇った事を!!
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...