105 / 180
鬼退治編
姫、秘剣を繰り出す
しおりを挟む105-①
「うおおおおおーーー!! 怖ぁぁぁぁぁーーーーーっ!?」
オーガ達に追いかけられて、武光は魔穿鉄剣を片手にマイクターミスタの街を全力疾走していた。
「くそっ、鬼共が……ぶっ殺して……はっ!? アカンアカンアカン!!」
時折、魔穿鉄剣から流れ込んで来る、『鬼達の群れに斬り込みたい』という衝動を必死に抑えつつ、目的の場所へとひた走る。
(逸るなよ魔っつん、今ヒャッハーしたら、ひでぶされてまう……後で存分にヒャッハーさせたるからな……!!)
……目的の場所が見えた!!
武光は、予め偽装を取り払い、全開にしてあった隠し坑道の入り口に駆け込んだ。
「や、野郎……あんな所に隠し通路を作ってやがったのか……あのふざけた野郎をぶっ殺せーーー!!」
ザンギャクの命令で、配下のオーガ達が武光を追って我先にと坑道に突入してゆく。
「野郎……どこ行きやがった!!」
「こっちじゃー、このボケナス共がー!!」
武光の声を追って、先頭を走っていたオーガ達が坑道内の角を曲がったその時だった。
通路の奥で待ち構えていた武光が、傍らに立つリョエンに対し、今まで時代劇で悪党の手下役として何十回と言い慣れた台詞を吐いた。
「へっへっへ……先生、お願いします!!」
「任せて下さい!! 火術……炎龍!!」
坑道内で待機していたリョエンが、オーガ達に向けて火術・炎龍を放った。狭い坑道の中を凄まじい炎の奔流が駆け抜ける。
先頭にいたオーガ達は一瞬で消し炭になり、後続のオーガ達も全身を炎に包まれて大混乱に陥った。
「よっしゃ、出番やぞ魔っつん……ひゃ……ヒャッハーーーーー!!」
魔穿鉄剣から流れ込む闘争心の奔流に身を任せ、武光は奇声を上げながら混乱するオーガ達に襲いかかった。
105-②
武光達を追って、中央広場からザンギャクを始めとする大多数のオーガ達は去った。広場にいるのはわずかに八体。
ミトとナジミ、そしてマイク・ターミスタ防衛軍の面々はその隙を突いて、人質を救出すべく、中央広場に突入した。
「オーガ達は私が成敗します!! ナジミさんと防衛軍の皆さんは人質の解放と誘導を!!」
宝剣カヤ・ビラキを鞘から抜き放ちながら叫んだミトだったが、その眼前に、八体のオーガが立ち塞がった。
「おっと、そうはいかねぇ!!」
「おうおうおう!! 人間の小娘が随分とナメた口を利くじゃねぇか!!」
「勇ましいのは結構だがよ、俺達ゃ女子供だろうと容赦はしねえぞ!!」
「へっへっへ……若い女は特に美味いんだ……腹わた引きずり出して食らってやるぞ!!」
オーガ達がニヤニヤと下卑た笑いを浮かべたが、ミトは全くもって意に介さない。
「ふん!! 貴方達……光栄に思う事ね、貴方達のような、私と口を利くのも烏滸がましい下賤の輩が……私の剣の錆になれるのだから!! カヤ……『アレ』をやるわよ!!」
〔えぇっ!? あ、アレをやるんですか……や、やめませんか? こんな下賎の者共には勿体無いですよ……〕
「つべこべ言わない!! 貴女も淑女なら気合いと根性をみせなさい!!」
〔……わ、分かりましたよ……やります!!〕
ミトが両手に耐火籠手を装着し、右手で宝剣カヤ・ビラキを持ち、左手を刀身に翳すと、カヤ・ビラキの刀身が紅蓮の炎を纏った。
「行くわよ!! 秘剣……《業火剣乱》!!」
炎を纏ったカヤ・ビラキを手に、ミトは突進した。
「はあぁぁぁっ!!」
“ズバッ!!”
「やあぁぁぁっ!!」
“ザンッ!!”
「せいっ!!」
“ザシュッ!!”
桜吹雪の如く、乱れ舞う火の粉の中で、オーガ達が次々とミトに切り捨てられてゆく。
最強の金属、皇帝鋼の刃を持ち、ただでさえ凄まじい斬れ味を誇る宝剣カヤ・ビラキに、火術による炎を纏わせる事で更に攻撃力を増加させる……これこそ、ミトがリョエンから学んだ火術を元に編み出した、秘剣・業火剣乱である。
「……たあぁぁぁっ!!」
“ザンッ!!”
最後の一体が倒された。それを見ていた防衛軍の面々と人質に取られていた住人達は歓声を上げた。
「皆さん、もう大丈夫です!! あとは防衛軍の皆さんの指示に従って、ここから避難して下さい!!」
「さぁ、こっちだ!!」
「怪我人はいないかー?」
「慌てないで!!」
防衛軍の先導で、街の住人達が全員退避したのを確認したミトは仮面の下でニヤリと笑った。
「フッ……流石は私ね!! 魔王を討伐し、武光と再戦する時が来たら……この秘剣で、けちょんけちょんにやっつけて泣かしてやるんだから!!」
ミトは決意に燃えていた。武光をあの時の自分と同じ目に合わせてやるのだ、と。
そうすれば、もしかしたらアイツも私と同じように、私の事を──
〔ひ、姫様……も、もう限界です……熱っっっ!! ムリムリムリムリ熱い熱い熱い熱い熱ーーーーーい!! ひーっ!!〕
「あっ、ごめんなさいカヤ!! 今すぐ消すから!!」
ミトは慌てて広場中央の噴水にカヤ・ビラキを突っ込んだ。
“じゅっ!!” という音を立てて、刀身を覆っていた炎が消えた。皇帝鋼で作られた刀身は、この程度の事ではビクともしないとは言え、只の剣と違って、魂を持つカヤはたまったものではなかった。
〔ぜぇ……ぜぇ……し、死ぬかと思った……〕
「だ、大丈夫……?」
体に火を点けられて大丈夫なワケあるか!! と、言いたい所だが……淑女たる者、常に優雅さを失ってはならない。淑女のツラい所である。
それに……愛するイットー・リョーダンは次に戦えば折れると分かっていたのに、それでもなお、自分の命を顧みず主を守ったのだ。それに比べれば……この程度の熱さなど……!!
〔ひ、姫様もまだまだ精進が足りませんね。これしきの炎……私の愛の炎に比べれば……種火みたいなものですっ!!〕
「もう、強がり言っちゃって……素直じゃないんだから!!」
〔……姫様だけには言われたくありませーん〕
「……何か言った?」
〔いえ、何でもありません!! 武光さん達の援護に行きましょう!!〕
「ええ!!」
ミトは、武光を援護すべく駆け出した。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
斬られ役、異世界を征く!! 弐!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。
新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!
前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!!
*この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。
前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています
テツみン
ファンタジー
二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。
七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。
しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……
なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。
当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。
そこは都市国家連合。異世界だったのだ!
彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。
彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……
ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。
*60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。
『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!
英雄一家の〝出涸らし〟魔技師は、今日も無自覚に奇跡を創る。
右薙光介
ファンタジー
かつて世界を救ったという英雄の一家がある。
神すらも下した伝説の魔法使いの父、そしてその隣に立ち続けた母。
しかし、その息子──ノエルには、その才能が一片も受け継がれなかった。
両親から全ての才能を引き継いだ姉の隣で、周囲から〝出涸らし〟と揶揄される日々。
あげくに成人の儀式では、最低評価の『一ツ星(スカム)』を受けてしまうノエル。
そんなノエルにも魔法道具(アーティファクト)職人……『魔技師』になるという夢があった。
世界最高の頭脳が集まる『学園』で待っていたのは、エキサイティングな学生生活、そして危険な課題実習。
そんなある日、課題実習のさなかにノエルはある古代魔法道具による暴走転移事故に巻き込まれてしまう。
姉、そして幼馴染とともに吹き飛ばされたその先は、なんと40年前の世界だった。
元の時間に戻るべく、転移装置修理に乗り出す三人。
しかし、資金調達のために受けた軽い依頼から、大きなトラブルに巻き込まれることに。
それはやがて、英雄一家の過去と未来を左右する冒険の始まりとなるのだった。
魔法使いになりたかった〝出涸らし〟の少年が、『本当の魔法』を手にする冒険ファンタジー、ここに開幕ッ!!
※他サイトにも掲載しております。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる