82 / 180
巨竜編
火の神、宿る
しおりを挟む82-①
「はぁ……はぁ……や、やった!!」
センノウを斬り捨てた武光は、深く息を吐いた。
「これでまめ太も元通りに…………なってへーーーん!?」
センノウは倒したというのに、まめ太は元に戻らない、それどころかますます凶暴さを増して、ロイやリヴァル達に襲いかかっている。
「くくく……お、愚かなり人間!!」
「うぇぇっ!? お前……生きて……!?」
武光とイットー・リョーダンによって肩口から袈裟懸けに両断され、死んだと思われたセンノウが声を発した。
「はぁっ……はあっ……き、貴様は大きな過ちを二つ犯しておる……儂を殺したところで、あの竜にかけた死霊魔術は……と、解けぬ……むしろ制御が……き、効かなく……なった……」
息も絶え絶えにセンノウは続ける。
「そ、そして……も、もう一つの……あ、過ちは……」
口からゴボリと血泡を吹き出しながらも、センノウは笑った。
「この儂が…………魔王軍随一の死霊魔術師という事を失念した事よ!!」
「うおおおっ!?」
〔た、武光!?〕
死に際のセンノウの肉体から光の玉が飛び出し、武光の体の中に吸い込まれた。
82-②
武光の体内に侵入したセンノウの魂は、武光の魂の在る場所へと向かっていた。
「ほぅ……あれじゃな?」
センノウの視線の先に淡い光が見えてきた……武光の魂である。あれを破壊し、肉体を奪うのだ。
「貴様の魂、破壊し尽くして……ッッッ!?」
センノウは思わず動きを止めた。何かが……いる。それも……途轍もなく強大な何かだ。
……その何かが、センノウの存在に気付いた。
「あん? 何だてめえは? 邪魔だ邪魔だ、とっとと失せろ!!」
失せろと言われて、ハイ分かりましたと出て行くわけにはゆかない。
何せ戻るべき肉体はこの男に真っ二つにされて既に死んでいる……宿るべき肉体が無ければ、流石のセンノウと言えども、どうする事も出来ずに地縛霊に成り果て、消滅を待つしかないのだ。
「そうは行くものか!! 貴様……この儂を誰だと……」
「知るかバカヤロウ!!」
「あ、熱い!? 熱い熱い熱い熱い熱い……た、助けてくれぇぇぇぇぇっ!! ぐ……ぐわあああああああーーー!!」
武光の肉体に入り込んだセンノウの魂は、塵も残さず《焼滅》した。
82-③
〔武光!? おい、武光!?〕
イットー・リョーダンは困惑した。
センノウの魂が体内に侵入して “ばたーーーん!!” とぶっ倒れてしまった武光は、その後すぐに目を覚ましたものの、明らかに様子がおかしかった。
「……ったく、どいつもこいつも人ん家の庭で暴れ回りやがって。あの竜も骸骨も……両方ぶっ飛ばして黙らせてやるか!!」
やはりおかしい、基本ヘタレでビビりの武光が、いつものように限界ギリギリまで追い詰められてヤケを起こす前に『いのちだいじに』ではなく『ガンガンいこうぜ』を選ぶはずがない。
〔お……おい武光、何を言ってるんだ!? 相手はあの巨竜と王国軍最強の死神なんだぞ。逆立ちしたって君が勝てる相手じゃない!!〕
まさか体内に侵入したセンノウの魂が武光の肉体を乗っ取ってしまったのか……いや、それならば、ロイはともかくまめ太までぶっ飛ばすとは言うのはおかしい。
一体何がどうなって──
イットーの思考はそこで中断された。武光が突如として、激しい戦闘を繰り広げているまめ太とロイの間に向かって走り出したのだ。
〔わーっ!? おいやめろ!! あんな所に飛び込んだら2秒で死ぬぞこのバカ!!〕
武光に気付いたまめ太が地面を薙ぎ払うように尻尾を振るった。地面をガリガリと抉りながら巨大な尻尾が武光に迫る。
〔逃げろ武光!!〕
「危ない武光殿!!」
「逃げるんだ武光君!!」
討伐隊の面々は武光に向かって叫んだが……間に合わない!! 武光はまめ太の尻尾に擦り潰されて肉片と化した、誰もがそう思った…………だが!!
〔………んなぁぁぁっ!?〕
武光は……まめ太の尻尾を片手で止めていた。
「あぁん? 何だこりゃあ……コイツ悪霊に取り憑かれてやがんのか。うーん……しゃあねぇ、助けてやるか……《清めの炎》!!」
武光がまめ太に向かって右手をかざした瞬間、まめ太の巨体が一瞬で炎に包まれた。紅蓮の炎に包まれたまめ太が叫びを上げる。
「おおー、流石はリョエン兄さん!! あんな強力な火術を編み出して、武光さんに伝授してたなんてー!!」
「い、いや……違う」
「え……?」
両手を地に着き、苦しそうに呻き声を上げるまめ太を見ながら、キサンは隣に立つリョエンに笑いかけたが、リョエンは首を左右に振った。
「あれは、私が教えた術なんかじゃない!!」
「そ、そんなー……じゃあ、あれは一体……?」
困惑するキサン達の見つめる先で、まめ太は長い長い叫びを上げて倒れ伏した。ぐったりとしているが、センノウに怨霊の塊を植え付けられて、黒く染まっていた体は元の蒼色に戻っている。
「これでよし……っと!! よく頑張ったな!!」
まめ太が元の状態に戻ったのを見た武光は、腕を組んで大きく頷いた。
「さてと……次はてめぇだ!!」
武光に指を差されたロイはゆっくりと地面に降り立った。武光を睨むその目には、憤怒どころか憎悪と殺意すらこもっている。
〔お、おい……ヤバいぞ武光!! アイツめちゃくちゃ怒ってるぞ!?〕
「あと一歩……あと一歩で……死の領域から抜け出せたものを……貴様ァァァッッッ!!」
いつもの武光であれば即逃亡、又は土下座している所だが、武光は逃亡するどころか不敵な笑みすら浮かべた。
「ガタガタうるせーよ!! てめーは、この《火神・ニーバング》様がボコってやんよ!!」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
斬られ役、異世界を征く!! 弐!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。
新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!
前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!!
*この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。
前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています
テツみン
ファンタジー
二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。
七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。
しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……
なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。
当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。
そこは都市国家連合。異世界だったのだ!
彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。
彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……
ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。
*60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。
『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる