斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
上 下
80 / 180
巨竜編

死神、乱心する

しおりを挟む

 80-①

 現れたセンノウに対し、武光は声を荒げた。

「ちょっと周りの状況見て!! 今!? ハッピーエンドでめでたしめでたし一件落着大団円なわけやん? 何で今!? おいおい……空気読めやマジで。お前の話、今このタイミングで絶対せぇなあかんのか!? どうせ笑いのひとつも取れんような、しょーもない話やろうし、再来週さらいしゅうくらいでええやろ再来週また来いや!!」
「良いわけなかろうが!! ……って、止めろ!! 寄ってたかって『帰れ』を連呼するでない!!」

 武光は舌打ちすると、投げやりに言った。

「しゃーないなー……ちょっとだけやからなー!!」
「ふふふ……良かろう。この──」
「はい終了っ!! お疲れしたー!! みんな、打ち上げ行こうぜ打ち上げ!!」
「コラァ!!」

 人をコケにするにも程がある。
 センノウは地面に降り立ち、激しく抗議したが、武光は心底面倒くせーと言った表情かおである。

「何やねん!! 話も聞いたったし、もう満足したやろ!? 帰れッッッ!!」
「ふざけるな!! もう怒った、儂の死霊魔術であの巨竜を傀儡くぐつにして操り……貴様らをほふってくれる!!」

「ほう……? 貴様……あの巨竜を思いのままに操れると言うのか?」

 ロイの問いに対し、センノウは不気味な笑みを浮かべた。

「無論じゃ……儂の名はセンノウ!! 魔王軍一の死霊魔術師ぞ!! この地に留まる亡霊共よ……我がもとに集えぃ!!」

 センノウが両手を頭上に掲げた。

 他の者には見えていなかったが、異界渡りの書の『三つの特別な力』の二つめ……『普通の人間には見えない存在の姿が見えたり、声を聞けるようになる力』を授かった武光には見えていた。

 ……センノウの頭上に、この戦場で散った人間や魔物達の魂が、引き寄せられている。
 引き寄せられた魂が、融け合い、混ざり合い、一つになって膨れ上がってゆく。

「させるかアホが!!」

 武光はセンノウのヤバい元◯玉を阻止すべく、センノウに突撃しようとした……だが!!

「ぬんっ!!」
「わーーーっ!?」

 ロイが、武光の前に立ち塞がり、武光目掛けて屍山血河を振り下ろした。急ブレーキをかけた武光の鼻先僅か数cmを屍山血河の切っ先が通り過ぎる。

「大丈夫ですか、武光君!?」
「ななな……何すんねんコラァ!!」

 派手に尻餅をついた武光はリョエンに助け起こされながら激怒したが、ロイはどこ吹く風と言った様子で背後のセンノウに言った。

「おい貴様、あの竜を操れるのだろう? ……やるなら早くやれ。そして我らを襲わせろ」

 ロイの口から飛び出した言葉に武光達は唖然とした。アホなのか、コイツはアホなのか。

「ロイ将軍、貴方は……貴方は何を言っているのです!?」
「……貴様、自分のしている事が分かっているのか!!」
「そうですよー!! 貴方バカなんですかー!?」
「ロイ将軍、監査武官として……私は先程の行動を重大な利敵行為として報告させて頂きますよ!?」

 リヴァル戦士団の四人はロイを睨みつけたが、ロイはまるで動じない。

「まぁそう言うな、私はな…………死ぬのが怖いのだ」

 武光達は更に唖然とした。『死ぬのが怖いからまめ太を操って自分達を襲わせろ?』 何を言っているんだ……アホなのか、コイツはアホなのか。

「ハァ!? 何やねんそのボケ……どうツッコんでええか分からんわ!!」

 重度の厨二病 + アブないクスリの常習者 + すぐ刃物を持ち出す変態 = 重度のアブない変態!?

 あかん、コイツマジであかん奴や……武光の中でのロイの『ヤバい奴度』が天井てんじょう知らずで上昇してゆく。

「ふっ……貴様には分かるまい、《死の領域》に囚われ続ける私の苦しみは……感覚が鋭敏になり過ぎて、周りの全てが遅く見え、眠っていても木の葉が地面に落ちる程度の音で目を覚ます……視界をくもらせ、音をさえぎる為のこの仮面を着けなければ、日常生活すらままならぬ。このままではそう遠くない内に、私の体は限界を超え続けた反動で衰弱すいじゃくし、死に至る」

 そう言ってロイは背後のまめ太を見上げた。

「この巨竜ならば……私に死力を絞り尽くさせ、私を死の領域から生の世界に引きずり戻してくれるはずだ」
「あ、アホかー!? そんなに死力を振り絞りたかったらすみっこで素振すぶりでもしとけっ!! 千回でも二千回でも、死にそうになるまでやったらええやろがー!!」

「……20万」

「はい!?」
「……20万回、屍山血河を振るい続けてもダメだった。やはり、命のやり取りという極限状態でなければ死力を振り絞りきって死の領域を抜け出す事は出来ぬ」

 武光は再びセンノウに攻撃を仕掛けようとしたが、屍山血河の切っ先を向けられ、そこから一歩も前に踏み出す事が出来なかった。あと一歩でも前に出たら即座に斬り捨てられる。理屈ではない、本能がそう告げている。こうなったら……

【まめ太、センノウを踏み潰せーーー!!】

 武光に言われて、まめ太は足下のセンノウを踏み潰そうとしたが、ロイはセンノウを脇に抱えて跳躍し、踏みつけを回避した。

「おい、早くしろ……殺すぞ?」
「ひっ!? よし……出来たぞ!! 行けい、《怨霊玉おんりょうだま》よ……あの巨竜に入り込み、我がしもべせ!!」

 センノウによって作り出された禍々しき霊魂の塊が、まめ太に向かって放たれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...