斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
上 下
73 / 180
巨竜編

斬られ役、呼び出しを喰らう

しおりを挟む

 73-①

 照り付ける太陽の下、武光はたった一人、居並ぶ将軍達の前で平伏していた。

 巨竜の出現によって一時撤退を余儀無くされたクラフ・コーナン城塞攻略部隊は、クラフ・コーナン城塞の西方約5kmにある《ショバナンヒ砦》に集結していた。

 クラフ・コーナン城塞に突如として現れた巨竜は敵も味方もお構い無しに暴れ回り、クラフ・コーナン城塞を瓦礫がれきの山へと変えた。

 捕らえた城方の捕虜ほりょによれば、あの巨竜はクラフ・コーナン城塞の地下深くに封印されていたのを魔王軍の大魔術師が発見し、王国軍撃退の為に魔術によって操ろうとしていたが、その儀式の最中、結界塔の崩落に巻き込まれて大魔術師は死亡、それにより目覚めた巨竜が暴れ始めたとの事らしい。

 巨竜は、大軍による矢の雨でも、術の嵐でも、投石機でも傷一つ付ける事も出来ず、リヴァル戦士団によって放たれた破壊神砲の一撃ですら巨竜を一時的に退ける事しか出来なかった。

 そして現在、巨竜はクラフ・コーナン城塞……いや、もはやクラフ・コーナン城塞「跡」と呼ぶべきか……に居座っている。


 …………と、ここまでの話を武光達は将軍達に延々と聞かされたのだが、武光は大して活躍もしてない自分が、どうして呼び出されているのか、さっぱり分からなかった。
 いくら時代劇俳優として正座慣れしているとは言え、いい加減足がしびれてきた。

「えっと……で、何で僕、呼ばれたんすかね……?」

 武光達の正面に座る、クラフ・コーナン攻略軍の総司令官、ショウダ=イソウ将軍が口を開いた。

「お主、唐観武光と申したな……」
「……は」
「唐観武光……お主に巨竜討伐を命じる!!」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーっ!! 出来るかアホンダラーーーーー!!」

 その間、僅か0.05秒!! 武光は宇○刑事がコ○バットスーツを蒸着するのに匹敵する超スピードで即座に命令を拒否した。

「生身であんな怪獣と戦えるかーーー!! どうしてもって言うんやったらスーパーメカ◯ジラとかM◯GERAとかスー◯ーXⅢ持ってこいやコラーーー!!」

 武光は、居並ぶ諸将がドン引きするほど……それはもう、ものすごく拒否した。

「大体っ!! 何で俺なんすか!?」

 武光の問いに、ショウダは短く答えた。

「……イットー・リョーダンだ」
「……へぁっ?」
「伝説の聖剣、イットー・リョーダン……伝説によれば、初代国王にして古の勇者、アルト=アナザワルド様は、その昔……聖剣イットー・リョーダンを用いて二又の尾と一対の翼、そして三つの首を持つ巨大な黄金龍を斬り伏せ、倒したという……弓矢、術、投石機、そして我が軍最高の破壊力を持った破壊神砲ですらあの怪物を倒せなかった今……我々に残された最後の希望は、伝説の聖剣と……その聖剣に選ばれし戦士しかおらぬ!!」

 そう言って、ショウダは武光を指差したが、その先では武光とイットー・リョーダンが何やら小声でヒソヒソと話し合っていた。

「あ、アホかーっ!? なんちゅう作り話してくれてんねんコラァ!!」
〔だ、だって……聖剣なら怪物退治の逸話の一つや二つあった方がカッコ良いと思って……〕
「せやかて、『キ◯グギドラ殺したった』は話盛り過ぎやろ!!」
〔何なのさ、キ◯グギドラって!? 仕方ないだろ、こんな事になるなんて誰が予想出来るって言うんだよ!!〕
「なっ、何開き直っとんじゃー!?」

「あー……コホン」

 ショウダの咳払せきばらいで、武光とイットー・リョーダンは我に返った。

「唐観武光……引き受けてくれるな?」
「ちょっと待って下さいよー、もうちょっとみんなで知恵絞りましょうよー、モ◯ラの成虫を呼んでアイツに一回倒させた上でモ◯ラの幼虫呼ぶとか、アイツの骨を元にサイボーグ怪獣作って戦わせるとか、あいつに爆薬満載した無人の電車突っ込ませて、ダウンさせた所を狙ってすかさず血液凝固剤がぶ飲みさせるとか!! 何かありますって!! 最後まで……この俺を見捨てずにやろう!!」

 武光は懇願したが、ショウダは首を横に振った。その目には断る事は許さんという意思がありありと感じられた。

「出来るのは聖剣に選ばれしお主だけだ!!」
「いやいやいやいや、皆さん知らんと思いますけど、実はこの剣、誰でも使えますからね!?」
〔おい、武光!?〕
「ほう……それは面白いな」

 居並ぶ将軍達の中から、一人の将軍が武光の前に進み出た。白銀の死神、ロイ=デストである。

「貴様、その剣をよこせ」
「は、はい……」

 ロイのいかつい風貌ふうぼうにビビりまくりながら、武光はイットー・リョーダンをおずおずと差し出した。

「ふむ……これがあの伝説の聖剣か。伝説の通りであれば、さぞかしよく斬れるのであろうな?」

 ロイは、柄の感触を確かめるように、二、三度イットー・リョーダンを振ると、ショウダ将軍の背後に立っている石碑の前にスタスタと歩いて行った。高さ約2m、幅約1m、そして厚さ約60cmはあろうかという大きな石碑だ。

「……フン!!」

 “ガッ!!”

 袈裟懸けに振られたイットー・リョーダンの刀身は、分厚い石碑の半分まで切り込みを入れていた。

「何と……あの分厚い石碑を!?」
「凄い、これぞまさに聖剣!!」
「これならばあの巨竜を倒せるやもしれぬ……」

 将軍達は驚きの声を上げたが、ロイはイットー・リョーダンを石碑から抜き、武光の所まで戻ってくると、イットー・リョーダンを武光の足元に雑に投げ捨てた。

「失せろ……このまがい物め」

 ロイの言葉に、諸将は戸惑った。

「私は奴と戦ったから分かる……こんなナマクラ刀では何の役にも立たぬ」

 ロイは武光の足元に転がるイットー・リョーダンを見下ろし、言った。

〔な……なまくら……役に立たない……?〕

 ロイの言葉に、トラウマを深くえぐられたイットー・リョーダンは消沈した。

目障めざわりだ……とっととせろ」
「ひっ……ひぃーーー!? は、ハイぃぃぃぃぃっ!!」

 ロイに言われるやいなや、武光は大慌てでイットー・リョーダンを拾い上げると、背中の皮鞘かわざやにそそくさと収めた。

「すすすすみませんでしたっ!!」
「失せろ……!!」
「は、はい……失礼しまぁぁぁぁぁすっっっ!!」

 “ドゴォッ!!”

「ぬぅっ!?」

 諸将は唖然とした。武光が不意打ちのエルボーをロイの胸板に叩き込んだのだ。

 まさか小動物のように怯えきっていた武光が襲いかかってくるとはつゆほども思っていなかったロイは不意を突かれてよろめいた。

「貴様……!! 何の真似……」
「あぁ!? ちゃんと『失礼する』言うたやろがコラ……俺の相方あいかたを……馬鹿にすんなーーーーー!!」
〔た、武光……〕
「お前さっきイットーの事、ナマクラ呼ばわりしたな……自分のヘボさを棚に上げて何抜かしとんじゃー!! イットーに謝れコラー!!」
「貴様……私が誰だか分かっているのか?」
「知るかー!! はじめましてこのヤロー!! T◯800のコスプレみたいな格好しやがって!! どうせ、田網たあみねい太とか、アーノルド=シュワルツェネッ太とか、ロイとかデストとかやろうが!! 見とけコラー!!」

 そう言って、武光は先程の石碑の前に立った。

「行くで……イットー」
〔……ああ!!〕

 武光はイットー・リョーダンを再び革鞘から抜き、正眼に構えた。

「でやぁぁぁぁぁっ!!」
〔でやぁぁぁぁぁっ!!〕

 “すん”

 将軍達は思わず息をんだ。武光とイットー・リョーダンの一振りは、易々やすやすと、軽々と、石碑を文字通り斜めに一刀両断したのだ。 “ズン” と音を立て、石碑が斜めに落ちた。
 武光は後ろを振り返る事なく大声で言った。

「おい、イットー知ってるかー?」
〔何だ?〕
「この辺に、こんな斬れ味抜群の刀を使って石碑の一つもよう切れへんクソ骸骨がおるらしいでー、しかもソイツ、切れへんのを刀のせいにして八つ当たりしとるらしいでぇー!!」
〔いやいやいやいやー、そんなダサい奴いるわけ無いだろう、そんなダッッッサい奴!!〕

 ……二人してまるで小学校低学年である。
 武光達の挑発に対し、ロイは従者に持たせていた屍山血河を手に取った。

「貴様……死にたいようだな」
「ゲェーッ!? あのアホ刃物持ち出して来よった!? お……俺ちょっと怪獣やっつけてきますっっっ!!」

 武光は にげだした!

 ……ちなみに、後になって自分がエルボーを喰らわし、散々挑発した相手が、白銀の死神の異名を持つ王国軍最強の将軍だとミトから知らされた武光が、恐怖と『やっちまった感』のあまり、一時間近く嘔吐えずく羽目になった事は言うまでもない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...